表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
転生聖女の逃亡放浪記・第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

382/389

382 戸惑いの中の解放

聖痕の聖女 リターニア・グレイス

訪れるはずの無い目覚め。

目を開いた先にあったのは、見知らぬ者達と見知った聖痕・・・そして。


聞けば、あの日から300年も過ぎたという。

私としては、あの時が最後だと願い、信じたかった。

だけど、現実はそう甘くは無かった。

あの後、私は海の真ん中で目を覚ました。

波に揺られ、溢れる涙もそのままに、長い間空だけを見つめ続け・・・諦めたのだ。


私は、死すらも与えられない。


その事実に、あの時の覚悟が無駄な足掻きでしかなかったのだと絶望し、だけどもう何かをする気にもなれずにただただ漂っていた。

どれだけの時が過ぎたのか、それすらも最早興味が無く、打ち捨てられた人形の様に過ごしていたある日の事だった。

ふと、視界の隅に何かの影が映り込んだ。

そちらに目を向けると、いつかどこかで見たものがそこにあった。

「・・・聖域」

そう、聖痕遺跡があった聖域と呼ばれた地。

恐らく、島が降着した時の衝撃で切り離され、そのまま浮島として海流に流されたのだろう。

それを見て、ある事を思い出す。

ネイと共に訪れた時、彼女は確かに言っていた・・・そこは、隔絶された時が流れる、と。

それを思い出すと同時に、一つの可能性にも思い至る。


私が封印されれば、邪神も封印されるのでは?と。


あれから幾らか時間が過ぎたけど、邪神が私を乗っ取る気配は無いし、だけど私から別たれた様子も無い。

いや、確かめる術はあった。

少しだけ、魔力を巡らせてみる・・・すると、体から浮かび上がる幾つもの聖痕。

だけど、それは本来のものとは少し違っていた。

この身に宿した聖痕、それが刻まれた位置から確かに紋様は浮かび上がった。

但し、それは何処か輪郭がぼやけ、光も弱弱しい、それに・・・

「胸の聖痕・・・邪神の証まで・・・」

そう、この胸に刻まれた邪神の聖痕、一時は紅く禍々しい色へと変貌していたそれまでもが、同様だった。

それで、理解した。

邪神は私と別たれた。

聖痕も本体は向こうに持っていかれ、だけど私は邪神との繋がりを今も維持している。

だから、その力を扱える・・・今の私は単なる残り滓だ。


この状況、いつかのミレイユとアルジェンナにそっくりだ。

あの二人との違いは、私は体を持っているけど、邪神は恐らく魂のみになっているという事だろう。

今日まで邪神が何もしてこないのがその証拠、であれば、まだ出来る事はある。


久しぶりに体を動かす。

あの日、全ての魔力を使い果たしたから体は痛むし何よりもとても重く感じる。

それでも、私は泳いだ。

漂流する聖域に辿り着き、聖痕の力を振り絞って高い崖を飛び越え、島の中央へと降り立つ。

聖域の力は、こんな状況になったというのにまだ残っていて、だからこそ好都合だった。

私は遺跡の中へと入り、あの石碑を見つめる。

そこには、新たに刻まれた一文があり、読めずともそれが何を指すのか理解出来た・・・ネイは、本当に去ってしまったのだ、と。

残念ながら、私はそこへ行く事は出来ない。

代わりに、永遠の眠りに就く。

今なら、邪神も私に引き摺られる形で活動を止めるだろう。

誰にもこの地が見つからないように結界を張る。

そして、自身を石碑へと拘束すると、全ての聖痕の力を封じる。

かつて、幼い日にこの胸の聖痕を封じた様に、今度は全ての聖痕にそれを施す。

急速に体が動かなくなっていき、意識が遠退く。

その最後に、

「・・・さようなら」

世界へ別れを告げ、私は醒める事の無い眠りへと身を委ねた。











だというのに、私は目覚めてしまった。

最初は、この不躾な来訪者たちが無理矢理目覚めさせたのだと思った。

だけど、冷静になってみると、それは有り得ない事だとすぐに分かった。

微かにあったはずの邪神との繋がり、それが完全に途絶えていたのだ。

それで、すぐに悟った。


邪神は、既に覚醒している。


不要となった私を切り離し、世界へと放たれたのだ。

それがいつなのかは分からない、だけどこうして私が目覚めたという事は、つまり邪神が何かしらの器を手に入れ肉体を得たという事でありその力を、十の聖痕を存分に揮えるようになってしまったという事なのだ。

そして、それによって私が持っていた力もほぼ失われ、結果この聖域の結界は消え失せ、神々の力もまた邪神の影響を受けて弾けてしまった。

そうして、私は目覚めてしまったのだ。


それを理解した瞬間、思わず言葉が漏れてしまった。

それに反応したのは、フェオールとベオークの末裔ではなく、

「聖女様、それは一体どういう意味でしょうか!?」

マンベルの代表と名乗る、ローブを纏った女だった。

「そのままの意味よ。私が目覚めたのは、邪神が器を手に入れ、力を取り戻しつつあるから。私が持つこの聖痕の残滓も、きっとその内消え失せるわ」

体を縛る茨が光となって消える。

三百年以上眠り続けた体は、だけど時間が止まっていたお陰で何処にも不調は無く、地面へと降り立つと軽く手足を動かしてみても違和感は無い・・・いえ。

「髪が伸びてる・・・それに紅い。邪神の影響かしらね」

鬱陶しいけれど、今はどうしようもないのでとりあえず体に巻き付けて服代わりにする。


そして、改めてこの不躾な連中と向かい合い、その目的を確かめる。

「それで?こんな役立たずをどうするつもり?悪いけど、今の私でもお前達を皆殺しにするくらい造作も無い。力尽くでどうにかしようっていうなら、さっきの奴みたいな目に遭わせるわよ」

いつこの身から力が失われるかは分からない。

或いは、その時が来たら私もまた取り込まれる可能性もある。

それに、彼等が崇高な理念の下で戦うのは構わないけれど、私にはもう関係無い。

特にこの二人、今代のフェオールとベオークの血を引く双子、この子達には悪いけれど私にとっては赤の他人でしかない。

例え、それがレオーネとミレイユの意思を継ぐ者であったとしても、関係無い。

そんな私の考えを察知したのか、双子の女の方が恐る恐る一歩を踏み出し、そして。

「リターニア様、どうかこれを、お受け取り頂けませんか?」

懐から、一通の手紙を差し出してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ