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〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
転生聖女の逃亡放浪記・第二部

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381/389

381 隔絶された思い

フェオール王国第一王子 レオニル・フェオール

聖痕の聖女、リターニアが放った一言に誰もが困惑した。

俺も、横に居るミーリスも、予想外の事に言葉が出てこない。

そんな俺達を余所に、またしても目を閉じようとし、

「待ってください!」

ミーリスの声が響き、聖女の閉じられようとしていた瞼がゆっくりと開かれる。

「貴女の事は伝え聞いています。私達では想像すら及ばぬ過酷な運命を歩まれたという事も・・・それについて、お掛け出来る言葉など私は持ち得ません。ですが!」

「・・・うるさい」

突然、ミーリスの言葉が途切れる。

何事かと見てみると、ミーリスが苦しそうに首を抑えていて、だけど次の瞬間、

「つっ!?」

右手の甲に鋭い痛みが走る。

視線を向けると、何故かそこに刻まれた聖痕が勝手に反応し浮かび上がっていた。

「おお・・・なんという・・・」

レネスの声が聞こえ、何事かと顔を上げ・・・


視界に広がったのは、聖女から浮かび上がる10個の聖痕の輝きだった。


ミーリスも謎の苦しさから解放されたのか、その輝きに目を奪われていた。

だけど、そこでふと聖女が俺とミーリスの事を交互に見つめている事に気付いた・・・いや、正確には俺達から浮かび上がる聖痕に。

「何て事・・・お前達、フェオールとベオークの末裔なのね」

その呟きと共に聖痕の輝きが消え、共鳴していた俺達の聖痕も静まる。

少しの間沈黙が満ち、それをミーリスが破る。

「貴女は、レオーネ様とミレイユ様を御存じなのですか?」

意を決した問いに、聖女は僅かに目を細めてミーリスの左手に視線を向けた。

「その聖痕は、数奇な運命を経てあの子に宿った。私はその後押しをしてあげたわ。そう・・・あの子、子供を残せたのね」

そう呟く聖女の顔は、とても穏やかで慈愛に満ちていた。

だけど、それもすぐに消え、また無表情へと戻ってしまう。

「なら、尚の事私には関わらないで。私がここに居る限り、邪神もまた世に顕れはしないのだから」

「それはどういう意味だ!?」

救世同盟の誰かが声を荒げる。

いや、気持ちは分かるがその聞き方は流石にマズい・・・

「お前、空を飛ぶのは好き?」

明らかに敵意の籠った聖女の言葉。

一瞬でこの場に重苦しい魔力が満ちていき、そして、

「何をっ・・・ぐああああああぁぁぁぁ・・・」

怒鳴り声を上げた男の声が唐突に遠ざかる。

慌てて振り返ると、そいつが居たであろう場所がポツリと開いており、周りに居た連中が呆然と上を見上げていた。

天上には穴が開き、微かに舞い落ちる石の欠片や埃だけが今起きた事を物語っていた。

「私はね、死にたかったの。でも、邪神と繋がったせいでそれすら許されない。だから、ここへ来た。ここで終わりなき微睡みに沈んで、それで邪神も抑え込めると分かっていたから。それを邪魔しておいて、まさか生きて帰れるとでも?」

重圧が更に強まる・・・いや、これは本当に重力が操られている!?

何とか立ち上がろうと気合を入れるけど、寧ろもう片方の膝まで突いてしまい、とうとう両手まで地面に突いてしまう。

ミーリスやレネス、他の連中も大半が既に倒れ伏し、身動ぎすら出来ずに居るようだ。

「ぐっ・・・このまま、じゃ・・・」

「この程度に抗えない雑魚共が、邪神に勝てるとでも思ってたの?笑わせないで、今の私は邪神に全てを奪われた残り滓でしかないのよ?そんな相手にすら一矢を報いれないお前達に、私が協力する道理何て無い」

俺達を嘲る言葉に、自然と右手を握り締める。

歯を食い縛り、顔を上げ、聖女を睨む。

「ふざ、ける、な・・・」

「・・・」

「俺達は、負けられねぇんだ。300年前からだけじゃねぇ、その遥か昔から、たくさんの人が戦ってきたんだ。その全てを、俺達が終わらせる訳にはいかねぇんだ。例え無謀でも、無茶でも、無意味でも、受け継いできた意思を、想いを、未来に繋げなきゃいけねぇんだ!」

「そうです。今この時代に私達が産まれ、聖痕を宿した事にも意味はあります。レオーネ様やミレイユ様が受け継ぎ、そして後世に託して下さったものを、私達が投げ出すなど出来ません!」

俺の言葉にミーリスが続く。

そうだ、この手に宿った聖痕も、この胸に託された想いも、この程度で投げ出せるほど軽くは無い!

右手に意識を集中させ、聖痕に魔力を流し込む。

ミーリスも俺と同時に同じ事をしたようで、隣からも聖痕の輝きが放たれる、こういう時に双子というのは便利だ。

俺達は呼吸を合わせ、圧し掛かる重圧を押し返す。

「うおおおおおおお!」

「はあああああああ!」

互いの声が重なり、それと共に重圧が一気に消え失せる。


肩で息をしながら、顔を上げて聖女を睨む。

ミーリスは後ろの連中の様子を確かめ、無事を確認すると俺と同じく聖女へと顔を向ける。

「・・・双子、それ故の聖痕の共鳴。いえ、今のは互いを支え合い、共に行くという想いの具現、かしらね。それが貴方達の託した物なの?レオーネ、ミレイユ・・・」

僅かに見開いた目で俺達を見ながら、聖女がそう呟く。

その声音はさっきのとは正反対に優しく、何かを懐かしむようでもあった。

そのまま沈黙が続くかと思えたけど、聖女は小さく息を吐き出して体から力を抜いていく・・・そして、

「・・・そう、順序が逆だったのね」

諦めた様にそう零すと、俺達を見回して告げた。


「・・・残念だけど、邪神はとっくに目覚めているわ」

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