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〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
終章 女神の聖域・崩壊黙示録

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368/389

368 終わりに抗う者達

大地が鳴き、空が燃える。


私が邪神から逃れ、最後の聖痕保有者達と言葉を交わしたのとほぼ同時に、この女神の聖域に異変が起きた。

いえ、これは起こるべくして起きた災厄の時。

邪神メルダエグニティスは魂の封印を解き、仮初の魂であるリターニアを喰らい表へと顕れた。

それは即ち、この聖域を覆っていた結界が消え去った事を示し、同時に邪神がこれまで断たれていた世界の穢れを取り込み始めたという事でもある。

その結果、邪神はかつてに迫る力を取り戻してしまった、、、そして最初に何をしたか。

「グレイス様、、、これは一体、何が起きているのですか、、、」

フェオールの王城、バルコニーから呆然とした表情で空を見上げるミレイユ様が目を丸くしながら問う。

その横顔に、女の私ですら思わず可愛いという感想が浮かんでしまい、あの子が救おうとした理由にも納得だ、などと場違いな事を考えてしまった。

「邪神が女神の聖域を侵し始めたのです。既に護りは失われました、遠からずここは邪神の領域へと変貌し呑まれるでしょう」

本来の大地でも、勿論邪神の復活を阻止しようと多くの者達が闘ってきた、、、それでも、張り巡らされた糸はあらゆる抵抗を嘲笑い、この結末を齎してしまった。

そう、賽は投げられた。

例えそれが全て邪神に利する目しか無い物だとしても、私達は諦める訳にはいかない、、、どんなに小さくとも、希望の灯はまだ残っているのだから。

「、、、リターニア様は、これ程にまで恐ろしい存在と、戦っていたのですか」

ミレイユ様が表情を曇らせながらそう呟く、、、まるで、その事に気付けなかった己を責めるかのように。

その姿は、私などよりもよっぽど聖女らしい。

だからこそ、間違いは正さないといけない。

「全ては私が為した策です。既に起きた事を無かった事には出来ない。故にあの子を魔王に追い立て、その憎しみを私へと向けさせた、、、それすらも邪神の前には意味を為さなかった。あの子を苦しめたのは私なのです」

「、、、いいえ、グレイス様。それは違います」

私の言葉をハッキリと否定し、ミレイユ様が私に体ごと向き直る。

「貴女様がどれ程の覚悟を以ってリターニア様を救おうとされたのか、私では想像すら及び付きません。ですが、それでも尚こうしてあの方は救おうとされているではありませんか。それは私とて同じです。この無力な身が何処までお役に立てるかは分かりませんが、リターニア様をお救い出来る可能性が僅かでもあるのなら、出来得る限りを為す、、、だからこそ、かつても今も、貴女様は立っておられる。そうですよね?」

最後にフワリと、花が開くように笑む。

聖痕の有無に関係無く、人の心を優しく抱擁するかの如しその在り方は天賦の才だ。

きっと、この子こそが希望となる。

ならば、ここに残された私の全てを賭してでも、彼女をあの子の下へと送り届ける。

それが、私に出来る最後の贖罪だ。


出立の準備を進めている最中、レオーネ殿下が努めて冷静に、だけど慌てた様子で部屋へとやってきた。

その背後には、

「グレイス様、こちらに居られましたか!」

「マンベルの使者ですね、待っていました」

古より変わらない、フード姿の遣いが殿下に伴われて現れた。

それは予定通りであり、同時に望まぬ予言の時が到来してしまったという事でもある。

「偉大なるミデン、至上の聖女、グレイス・ユールーン様。お迎えに上がりました」

緊張を滲ませた声はまだ幼さを残す女のものであり、相も変わらずだなと内心で笑んでしまう。

「私の迎えは不要です。事は一刻を争う、私の言葉を違わず巫女へと伝えなさい」

私の言葉に遣いが首を垂れ、言葉を待つ。

「飛空機関船をここへ。中央大陸、西大陸、南諸島に生存者が居ます。その人々を救い出し、女神の聖域より脱するように。間もなくこの地は邪神の領域へと吞まれます、その前に全ての人を伴い下へと逃れなさい」

「グレイス様、それはなりません!巫女様より必ず貴女様をと!」

「私は既に死人です、救う者の数には含まれません。それよりも必ず為すべきを為しなさい。私もまた、その為に最後の炎を燃やし尽くしましょう」

私の言葉を受けた遣いが転移で姿を消す。

目を丸くするレオーネ殿下とミレイユ様に頷いてみせ、すぐに準備を始める。

まずは、救うべき命を救わねばならないのだから。


私の言葉を聞いていたレオーネ殿下の動きは迅速だった。

すぐに指示を出し、国民達に避難の準備をするようにと伝達を出したのだ。

同時に、一時帰国していたオーフェ様とハルヴィル様へと魔導具で状況を伝え、それぞれ動いてもらうようにと連絡していた。

残すは西と南、それぞれが混乱から立ち直れていない状況で更に困難が訪れようとしている二つの国も救わねばならない。

遣いを出す時間も余裕も無い。

非情ではあるけど、そちらは飛空機関船で直接向かうしかない。

一つでも多くの命を救う、、、そして、必ずそこにあの子も連れて行く。

燃える様に紅く染まる空を睨み、改めて決意を胸に秘める。

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