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〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
第九章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 後編

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364 崩落

大地に亀裂が走る。

私とグレイスの放った世界の理から外れた力は、この空飛ぶ聖地に致命的な破壊を齎していく。

スコーネとフェアレーターは早々に空へと離脱している、、、つまり、シゲルムを覆っていた結界は消失した。

同時に、

「あぁ、、、懐かしい感覚が戻ってくるわ」

体が奥底から満たされていく。

空っぽだった器に、あるべき物が戻って来たのだ。

「何故、、、封印はこの程度で破れは、、、」

グレイスの微かな声が届く。

そう、これはヤツにとっても想定外の出来事だ。

何せ、私の魂の封印はあんな小っぽけな石碑と、そこに掛けられた結界だけでは無いなのだから。

それを分かっているからこそ、グレイスもまたここでの決着を望んだ、、、だけど、

「この期に及んでまだ気付かないのね?」

「一体何を、、、」

「私の魂に掛けられた封印は数多ある。その最大の物が何か、知らない訳ではないでしょう?」

「まさか、、、それこそ有り得ません。貴女にそれは不可能の筈です!」

言葉とは裏腹に、目の前の現実にグレイスの力が僅かに翳る。

それを見逃す事無く、私は更に魔力を強めていく。

少しづつ、僅かづつではあるけど、手応えが傾き始めるのを感じ取り、同時に向こう側から呻くような声が漏れ始める。

「いい加減、認めなさい。最早この()()()()()は堕ちた。私の魂が解き放たれた事がその証左よ」

「、、、もしもそうだとして、一体どうやって、、、いえ、ヤーラーンのあれは、まさか、、、」

そう、ヤーラーンにて作らせたあの青い宝石。

何を隠そう、あれこそが最後の封印を穢す為の代物だったのだ。


グレイスも他の連中も、誰一人としてその真実に気付く事は無かったお陰で、仕込みをする事が出来た。

あれは、死を吸い上げる事で世界に不浄を撒き散らす、、、但し、それが行き着く先はこの鳥籠では無い。

この世界の住人が知らない本当の世界、そう、下に広がる大地にだ。

そもそも、何故世界が隔離されているのか。

答えはまさに私を封じる為だ。

世界はとうの昔に在るべき清浄さを失い、穢れが普遍的に存在するようになっている。

それは私に力を与える、だから我が兄姉達は神としての力を以てこの僅かな地を空へと舞い上がらせたのだ。

そしてそこを結界で覆い、長い時を掛けて穢れを取り除いた。

ふざけた事に、私が改心したフリをして従順に仕事をしている裏でそんな事をしていたのだ。

勿論、それは私が再び裏切った時の為の策では無く、世界を在るべき形に戻そうという、ただそれだけの事だったのだろう。

だけど、結果として私はそれに気付けず、封印の為の策として利用されてしまった。

でも、それは逆説的に世界の摂理を歪ませた。

この鳥籠の中で生まれ死ぬ人共の魂から出た穢れは、当然ここから弾かれてしまい、つまりは世界へと散っていってしまう。

普通なら、輪廻の中で取り除かれていくそれを、世界は知らず知らずのうちに溜め込んでいたのだ。

もしそこに、より直接的な負の力が与えられたとしたらどうなるか、、、溢れ出した穢れは世界を覆い、行き場が無くなり、最後はこの鳥籠へと戻ろうとする。

そう、鳥籠を覆う結界は内からの私が放つ力と、外からの穢れによって遂に弾けてしまったのだ。

こうも全てが上手く行くなんて思いもしなかったけど、こうして私は私を取り戻した。

「あぁ、本当に良い気分だわ。余計なゴミも消え去ったし、あとはお前を殺してしまえば全て終わりよ」

「そんな、、、リターニア、、、」

無駄だ、最早私の内に哀れな人形は残滓すら残っていない。

精々、ワルオセルネイが欠片程の抵抗を見せているけど、それも間も無く飲み込まれるだろう。

そして、聖女様もまた、風前の灯だ。

私の放つ紅い奔流はいよいよ勢いを増し、シゲルムを崩壊させながら奴を飲み込まんとしている、、、だけど。

「、、、良いでしょう、ここは私の負けです」

「はぁ?気でも狂ったの?それとも、もう諦めたの?」

私の嘲笑に、だけど帰ってきた返事は予想とは違うものだった。

「まさか、私に諦めなどありません。まだ希望はあります、、、だからこそ!」

「っ!逃すものか!」

グレイスのしようとしている事に気付き、それより先に消し飛ばそうと更に力を込める、、、けれど、唐突に抵抗感が無くなり、私の放つ魔力はシゲルムの地に致命的な破壊を齎した。

大きな振動と共に無数の亀裂が走り、轟音を立てながら崩落していく。

「逃げられたわね。全く、これ以上何をしようと言うのかしらね」

まぁ、何をしようと全ては無意味だ。

女神の聖域を落としてしまえば、私の勝ちは確定なのだ。

あとはじっくりと世界を穢し、世界の全てを滅ぼしてしまえばいい、、、それこそが我が願い。

「フフ、もう止まりはしない。護り無き鳥籠は、もうすぐ世界へと還るわ、、、フフ、アハハハハ!」

一頻り笑い、崩落に巻き込まれる前にスコーネの背に飛び乗る。

そこからシゲルムが欠片も残さず海へと崩れ落ちるのを見届け、大いなる満足と共にそこから離れる。




さぁ、世界を蹂躙しに行きましょう。

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