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〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
第九章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 後編

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344/389

344 プロローグ・終幕の時

空を切り裂くように飛んでいく影。

それが舞う空はまだ陽が沈んだばかりとあって、彼方の空は紅く染まっていた。

それも少しすれば見えなくなり、完全な夜の闇が世界を覆うだろう。


スコーネの背に乗り、東を目指して飛ぶ私達。

傍らのフェアレーターは体を丸めて赤子のように眠っていて、その頭を撫でながら私は彼方へ視線を向ける。

見据える先、オセリエ、エオールがある大陸は未だ紅い日差しに照らされていて、まるで炎に包まれたかのように紅く染まっているのだけど、私の目には別の物まで見えていた。

「ワルオセルネイめ、悪足掻きをしよるのう」

「流石は神様ってところかしら?まさか大陸全体を覆う結界を張るなんてね」

同じ物がスコーネにも見えているようで、僅かながらに目を細めてそれを睨んでいる。

そう、面倒な事にネイは東の大陸全土を覆う巨大な結界を展開して私を拒んでいるのだ。

ここまで強烈に拒まれるなんて何とも悲しい事だけれど、まぁ今更どうでもいい。

それよりも問題なのは、あの結界をどう食い破ってあそこへ降り立つか、という事だ。

マンベルでは結界の内側に居たからこそ基点を潰す事が出来たけど、今回はそうは行かない。

加えて、これがネイの仕業である事も明白だから、力任せで破るのも難しいだろう。

「スコーネ、あれを破れる?」

「無理じゃな。元よりあの地はネイの領域、加えて封印の地まであるのじゃ、我らとは最も相性が悪いわ。其方の聖痕を以てしても同じ結果になろうて」

やはりスコーネも私と同じ結論だ。

現状、私をも上回る力を持つ彼女が無理だと断言する以上、手の打ちようが無い。

それに、こうして結界を張ったという事は籠城を決め込んだという事でもあり、となるとそう簡単には外には出て来てはくれないだろう。

「、、、だからってやられっぱなしなのも気に喰わないわね」

何だか無性に腹が立ってきたからいっその事、嫌がらせでもしていってやろうか。

スコーネの体を軽く叩いて行き先を指差すと、私の意を汲んだ彼女がその巨体を震わせて声を上げる。

「クハハ!それは愉快じゃ!幸い、結界の高さは然程高くは無いようだし、挨拶代わりといくかの!」

一度大きく翼をはばたかせ、速度を上げて空を駆けていく。

果たして、奴らはどんな間抜けた顔を見せてくれるだろうか、楽しみだ。


オセリエ伝統皇国上空。

結界はスコーネの予想通り、かなり高さを抑えて張られていたようで、流石のネイもこの規模の結界を展開維持する為に可能な限り力を抑えたのだろう。

お陰で、私達の姿を見つけた人々の怯えた顔が何とか拝める高さまで来る事が出来た。

そこで暫く待っていると、お待ちかねの人物が二人揃って結界の際まで飛んできた。

「やはり行かせるべきではなかったのじゃ、、、なんと痛ましい、、、」

「、、、其方の望みは叶わぬ。この結界は其方らの力では破る事は叶わぬぞ」

結界の向こう側、二人のネイが私を見てそれぞれ言葉を告げる。

予想通りの反応に吹き出しそうになるの堪えながら、私はスコーネの背の上で立ち上がる。

「言葉はもう不要でしょ、お互いやるべき事は分かり切ってるんだから」

私の言葉に、小さい方のネイは今にも泣きそうな顔で私を見つめて口を閉ざし、大きい方は表情を崩さぬようにと冷徹な眼差しを私に向けて口を開く。

「、、、なればこその結界よ。メルダエグニティスの気配が濃くなったのを感じ取った時、我が最も恐れた事態が起きてしもうた事を理解した。じゃが、故にお主はここへ来るという事もまた確信した。彼奴めの魂の解放だけは死守する」

やはり目的は私の阻止か、、、お陰で面倒にはなったけど、逆に言えばネイはもうこれ以上の事はしないし、出来ない。

そう確信した私はスコーネの背を軽く叩き、その意を理解した彼女が大きく息を吸いこみながら膨大な魔力を集め始める。

「なっ!?何をする気じゃ!?」

突然の事に驚愕しつつ、即座に結界の強化に入る二人のネイ。

その魔力を受けた結界の光が強まり、それと同時にスコーネの魔力も臨界に達する。

「ご自慢の結界、どれ程の物か見せてもらうわよ」

私の声を合図に、スコーネが大きく羽ばたいて上空に舞い上がり、大きく首をしならせて体内で創り出された炎を打ち付ける様に放つ。

いつか見た時よりも更に強大な火球が辺り一帯を熱しながら落ちていって結界にぶつかり、内側に圧縮されていた魔力が瞬時に解き放たれ、炎の熱と光が膨れ上がり、空を紅く染め上げる。


静寂、後に轟音。

それが過ぎ去り、スコーネの炎と鍔競り合う結界が軋みながらも何とか耐え切り、大陸を守り切った。

結界の向こう側のネイ達も無傷ではあるけど、、、

「へぇ、割とギリギリだった?」

瞬間的とはいえ、スコーネのあの一撃を受け止める為に結界を限界まで補強していたのだ、流石の神と言えど相当の消耗を強いられた様子だ。

現に、私の嫌味にも言葉すら返せず、肩で息をしているだけで精一杯の二人のネイ。

それとは対照的に、満足げなスコーネと、そして、

「、、、見つけたわ」

図らずも、今の一撃である事に気付いてしまい、笑みを浮かべてしまう私。

出鼻を挫かれたかと思った最後の旅路だけど、こうして盛大な挨拶も済ませたのだ、後はやるべき事をするだけだ。

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