311 己の在り方
意外な所から繋がった点と点。
だけど、それによって私の存在がより一層謎となってしまった。
現状、私の魂は本来この世界には存在しない筈の物だという事は分かった。
可能性として挙げられるのは、フィルニスと同じく何処か別の世界から呼び寄せられた魂である事か。
だけど、当然私はそんな事なんて知らない。
しかしながら、フィルニスはハッキリと己の出自を覚えていた、、、加えて、己を呼び寄せた存在と邂逅している事さえも。
そうなると、私は邪神によって呼び寄せられた訳では無い、という事になる。
だけど、、、
「リターニア様」
「えっ?」
巫女が静かに、だけど諭すような声音で私に呼び掛ける。
「物事を深く考え、熟慮に熟慮を重ねる事は素晴らしい事です。無論、そうせざるを得ない環境に置かれた事は、私共が想像する事も出来ないご経験でした事でしょう。しかしながら、無礼を承知でお伝えいたします。思考に囚われるのは貴女様の悪癖でも御座います。それ故、失態を演じた事も御座いますでしょう。ですのでどうか、周囲の物事に囚われないで下さい。感情に己を委ねないで下さい。その魂が如何なる由来であろうと、貴女様の内に如何なる邪悪が潜もうと、如何なる過去を背負おうと、貴女様は貴女様です。だからこそ、我等は貴女様を救わんとしています。敵は唯一人、未だ闇の奥底で蠢く邪神なのですから」
「、、、そうね」
彼女の言葉は、その通りだ。
かつて、まだ子供だった私はたった一人で捨てられ、一人で全てをしなければならなかった。
当然、会話何てする相手も居ないし、そもそもどうすれば生き残れるのかを考えるので精一杯だった。
その結果、私は常に物事を考え、どんな形であれ結論を出すのが癖になった。
それはかつても、そして今も、良い方に転がる事があれば悪い方に落ちていく事もたくさんあった。
「、、、今の言葉も、神の言葉なの?」
「いいえ、これは私の言葉です。フフ、これでも私も結構な歳なのですよ?生まれた時から神々の声が聞こえたお陰で、色々と苦労したりもしました。私はそれが受け入れられる環境だったからこうして役目を当然として生きて来れました。これがもしも、何処か一つでも欠けていたら貴女では無く私が邪神に見初められていた可能性もあるのです。だからこそ、私は今ここに居る者の責務として邪神の完全なる討滅を果たします。そして、それには貴女様のお力も必要なのです」
凛とした決意を込めた言葉は、確かに私にも響いた。
そう、結局の所、私は今も昔も何も知らないままだ。
だからこそ、ここに来た。
そして、遂に真実の入口へと辿り着いた。
「、、、ありがとう。私に罪が無いなんて事は言わない。けど、まだ償いは出来るのね」
「その罪もまた、邪神が元凶。であれば、共に討ち勝つ事こそが貴女様の憂いを断つ道となるでしょう」
そうして頷いたあと、巫女は柔らかく笑みを浮かべた。
「ではオイト、後は任せますよ」
「承りました」
館を出て町に戻った後、巫女とオイトは短いやり取りを交わす。
「では、リターニア様。またお会い致しましょう」
「今度は本物と会えるんでしょうね?」
「ウフフ。ええ、きっと」
小さく笑みを浮かべた後、巫女の幻影は風と共に消えていった。
それと入れ替わる様にオイトがこちらへと歩み寄り、
「では改めて。まずは一度本土へと向かいますので」
出会った時よりかは幾分かマシになった態度、だけどやはりその表情は硬いし、私の返事も待たずにさっさと歩き出す始末。
「ま、殺気が消えただけ良しとしとこうかしら」
「人とは難儀な生き物よなぁ」
隣のスコーネが暢気に言い放つ。
まぁ、残念ながらそれには同意するしかないので、返事代わりに肩を竦めて答える。
いや、正直それよりも気にする事があるだろうに。
「巫女は貴女に関して何も触れなかったけど?」
「ん?そうさな、あ奴は恐らく我以外の幻獣を知っておるな」
「そうなの?」
「うむ。気付いたであろう?あ奴、館でサラッと我を幻獣と呼びおった、この姿にも係わらずな。恐らく、同じ様な事している幻獣と邂逅しておるのだろう」
確かに、スコーネも神により産み出されたと言っていた。
であれば、幻獣の存在そのものを巫女は聞いている可能性もあるし、スコーネの言う通り、他の幻獣と接触しているという事も有り得るのか。
「それだけではありません」
私達の話が聞こえていたのか、いつの間にか追いついていたオイトが会話に混ざる。
「私達の使命の一つは世の遍くを蒐集する事。その中に幻獣に関する報告がある事も」
まるで諜報部隊の様な真似をしている、とは言わないでおく。
だけど、そうだとするとマンベルの持つ未知の技術は確かに役立つだろう。
あの不可解な転移なんて、人知れず各地を訪れるのに最適だし。
それに、私についても知っているという事にも納得だ。
下手をすれば、あれやこれやも見られていた可能性があるのだ、、、特に聖痕については。
やはり、全てを鵜吞みにして信用するのはまだ早いのかもしれない。




