308 戦うという選択
オイトから放たれた強力な水撃は、私が放った炎によって瞬く間に蒸発した。
同時に、オイトの攻撃を合図に周囲の連中も動き出す。
やはり狙いは私だけらしく、隣にいるスコーネには目もくれず武器を振りかざす。
「はぁ、、、ま、この方が手っ取り早いわね」
呆れて思わず呟いてしまうけど、降りかかる火の粉は払うしか無い。
私目掛けて振り下ろされる刃を、黒炎の剣で受け止め、力任せに弾き飛ばす。
吹き飛んだ男は他の数人を巻き込み、少しだけ空間が出来る。
すかさずそこへ飛び込み、背後で魔法を放とうとしていた女を蹴り飛ばし、剣を槍に変化させて石突でやや離れた位置に居た別の女の腹を突いて身動きできなくする。
そうしている間に背後に近付いてきている、武器を構えた男達を風の魔法で反対側の壁へと吹き飛ばす。
ここまでで既に相手は半分程になり、残りの奴らは距離を取って私の様子を窺っている。
ちなみに、どうでもいい事だけどスコーネは最初の応酬の隙に壁際へと移動してのんびりと鑑賞している、、、うん、アイツが出てきたらこの館ごと吹き飛んじゃうからね。
「、、、報告通りの強さですね。プリエールが後れを取るのも納得です」
一人、私の動きを睨む様に観察していたオイトが口を挟む。
コイツだけは終始感情を表に出さず、それは今も同じ。
それが何だか不気味であり、だからこそ警戒をしている、、、初めて会った時からずっと。
他の連中はただの雑魚。
唯一人、私はオイトだけを睨む。
それ受けて尚、顔色一つ変えないオイト。
どちらからともなく、魔力を集め始める。
「やる気ね、それがアンタの本性よ」
「私は私の為すべきを為すだけです。例えそれが命に逆らう事だとしても」
短い言葉を交わし、同時に魔法を放つ。
今度は私が水で、向こうが炎。
互いの中央で二つの魔法がぶつかり、破裂音と同時に白煙が室内に立ち込め、その中を私とオイトは駆け抜け外へと飛び出す。
地面に足を付けた直後、鋭い雷撃が飛んでくる。
それを身を捻って躱し、お返しにと氷の礫をばら撒く。
それと同時に槍を鎌に変え、地面を蹴ってオイトへと距離を詰める。
その時点で体勢を整えていた奴もやはり手練れか、冷静に氷の礫を躱したり、飛び出す時に近くに居た男の手から掠め取った剣で切り払ったりし、私を迎え撃つ。
鎌と剣がぶつかり、オイトが大きく飛び退り、だけどその足が地面に着く前に魔法で土を操り穴を空ける。
「っ!神経を逆撫でする戦い方をっ!」
「ただの田舎娘に礼儀を求めないでくれる!?」
空中で無理矢理体を捻り、穴の横に転がるオイトが憎まれ口を叩く。
それに応戦しながらすぐさま追撃を仕掛ける。
それを見ないままに察したオイトは、私が振り下ろした鎌を地面を転がり躱すとすぐさま立ち上がり、剣をこちら目掛けて投げつける。
(捨てた?いえ、違う!」
躱すまでも無く違う方へと飛んでいったそれに嫌な予感がして咄嗟に横に飛び退くと、直後にその場所を猛烈な回転をしながら剣が通り過ぎる。
「っぶな!狡賢い戦い方を!」
「貴女を止める為ならば、如何様な事でもしますとも!」
オイトは顔色一つ変えずに剣を片手で受け止めると、体勢を整えて私を見つめる。
私も鎌を握り直すと、澄ました顔のオイトを睨む。
そして、同時に足を踏み込み、飛び出そうとしたその瞬間。
「双方、矛を納めなさい」
柔らかな、だけど威厳に満ちた女の声が当たりに響く。
途端、ここまで昂っていた闘争心が萎むように消えていく。
「これは、、、」
突然の戦意喪失に自分で戸惑う。
だけど、
「、、、まさか、、、」
向かいのオイトの衝撃は私以上だったらしく、持っていた剣を滑り落すと、その場に跪いてしまった。
そこでようやく私も気付く、、、何者かが私とオイトの間に立っている。
その闖入者はプリエールと同じローブを纏い、僅かに首を動かしてオイトへと視線を向けていた。
「何をしているのですか、オイト様。私情に駆られて大切な御客人に刃を向けるなど、言語道断ですよ」
「っ、、、申し訳ございません!ですが、あの者は巫女様に害為す存在です!」
「知っています。だからこそ、導かねばならぬのです。それこそが私の、巫女たる者の使命です」
まさか、この女が巫女?
「そうですよ、リターニア・グレイス様」
「人の考えを読まないでくれる?それと、貴女が噂の巫女様で間違いないのね?」
私の問いに、巫女はこちらへと向き直ると首肯し、、、
「、、、貴女、ここに居ないわね」
「何と、私の投影魔法に気付くとは」
そう、目の前の巫女は実際にはここに居ない。
ここに居るのは幻影か何かか、とにかく実体のある存在ではないのだ。
それが何故かは、、、恐らく、、、
「それを語るには、まず貴女には知っていただかねばならない真実が御座います」
またしても私の考えを呼んだのか、巫女が答える。
何とも気持ちの悪い芸当ではあるけど、これもまた巫女としての能力なのだろうか。
若干の警戒をする私に、巫女はローブのフードを降ろして素顔を見せた。
「巫女様!」
何処かから悲鳴染みた声が響き、だけど当の本人はそれを気にするでもなくこちらへと手を差し伸べ、告げる。
「では、参りましょう。貴女は知る必要があり、権利があり、そして、、、知らねばならないのですから」




