11 幕間・記憶という名の悪夢
・・・懐かしい光景だった。それはあの日の記憶、今に生まれて、唯一はっきりと覚えているかつての罪・・・
聖痕に選ばれし者達、そして彼らが対峙するのは。
「アッハハハハ!」
高笑いを上げ、髪を振り乱さんばかりに体をくねらせる女。
そしてその背後には、不気味なほど微動だにせぬ一つの影。
「なぜだ!どうして俺達を裏切った!」
悲痛な叫びがその笑い声を断ち切る。
その声に女は高笑いをやめ、しかしおぞましい笑みをその顔に張り付けて答える。
「なぜ、、、ですって?答えるまでも無い事に答えるとでも?あぁ、でもね、私今、とぉっても良い気分なの!だからねぇ、教えてあげるわぁ!」
その声に、女の背後の影が無造作に右手を掲げ、魔法を放つ。
男達に向けて放たれたそれは、しかし先頭に立つ男が剣で切り裂く。
「これが答えなのか、、、君が、、、誰よりも心優しく慈悲深い、聖女とさえ呼ばれた君が!魔王に与すると!」
「そうよぉ!麗しき慈悲深き心優しい誰からも愛されるこの世を照らす一筋の光!それが悪に堕ちるなんて!あぁ、なんて快楽!なんて愉悦!心が、体が、頭が!昂るじゃない!燃え滾るわ!こんな気持ち、本当に何年ぶりかしらぁ!」
自らの体に手を這わせ、恍惚に浸りながら女は舞い踊る。
「くだらないと思ってた!ずっとずっと、ずぅっと!心を押し殺して上っ面の笑顔を浮かべて他人の顔色を窺って、、、なのに誰も気付かない、、、気付いてくれない、、、そんな私の心に、あの人は気付いてくれたの!こんな私に手を差し伸べてくれたの!嬉しかったわ、本当に、心の底から嬉しくなっちゃったの!だからね!」
女の声が上ずる。余りの不気味さに、男達は本能的に危険を感じ取り身構える。
「壊したくなったの!何もかもを!世界も!友情も!全部全部下らない!本当の私を愛してくれない世界なんて、人間なんて!滅んでしまえば良いのよ!」
直後、膨大な魔力が女から放たれ、男達が吹き飛ばされる。
「アハハハハハハハ!どうしたのぉ!?そんなに裏切られたのが悲しいの!?そうやって勝手に型に嵌めて真実から目を逸らし続けた!それこそがお前達の罪なのよ!」
立て続けに暴力的な魔力の奔流が彼らを襲う。何とか致命傷だけは避けながらそれでも。
「違う!俺達は信じてるんだ!今日まで共に旅をして、苦難を乗り越え、分かりあってきた!そこに偽りなど無い!」
「それが貴様らの罪よ!知った風な口を聞いて本当の心から目を逸らした!その結果がこれよ!今この光景こそが全ての真実なのよ!」
男の叫びを真っ直ぐに否定する。それでも彼は、彼らは誰一人諦めない。その光景があまりにも愛おしくなってしまった。だから、
「そう、まだ諦めないのね。いいわ、なら」
攻撃を止め、あえて彼らが体勢を立て直すのを待つ。その間に、女の背後に居た影がその隣りへ並ぶ。
「さぁ、しっかり見届けなさいな。お前達の信じるモノが、いかに脆く、容易く壊れるかを、ね」
女が影の背に右手を添える。その手から一筋の光が伝わり、やがてそれは背中で留まった。
「待て、、、何をするつもりだ、、、」
その言葉に笑みが零れる。彼らは今から何が起こるのかを正しく予想しているのだろう。だから、答えてあげる。
「決まってるでしょ。捧げるのよ。お前達が拠り所とする聖痕。本来の手順なら何も危険はないのだけど、フフッ、ええそうね。今なら、その命も、魂でさえも捧げてしまうことでしょう」
女の言葉に誰もが目を見開き、そして止めるべく動き出す。
「さぁ、お別れの時よ」
「やめろ!頼む!やめてくれえええええええええ!」
「アハハハハハハハハハハハ!アッハハハハハハハハハ!」
男の絶叫に女の哄笑が重なる。そして眩い光と共に、崩れ落ちる人影。
・・・そこで、目が覚めた・・・
短めの話でしたが、いかがでしょうか。
これが一体何なのか、この先をお楽しみに!




