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【短編】婚約者が浮気をしていたので、置き手紙を残して失踪してみました。  作者: 櫻井みこと


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「それで、色々と考えてみたのですが」

 マリアンは、ミーナリアとリオの前で、ここ数日考えていたことをゆっくりと話していた。

 今、家に帰らない方がいいということには、ミーナリアもリオも同意してくれた。

 リオは政治的な考えから、ミーナリアはニースが暴力を振るうような男だったことから、マリアンの婚約の継続にも否定的だった。

 マリアン自身も、どちらの意見にも同意していた。

 第二王子クレート側に与することは、家のためにもよくないことだ。

 そしてニースがあれほど暴力的な人間だったとは、幼馴染のような存在であるマリアンもまったく知らなかった。あのまま結婚していたら、大変なことになっていたかもしれない。

 だが、マリアンが失踪しているのに婚約が継続されていることを考えると、そう簡単に解消できるものではないようだ。

「さすがに長期間私が見つからなければ、婚約を継続することはないと思うの。でも、そこまで時間を掛けるわけにはいかないので……」

 年単位で失踪すれば、さすがに父も娘はもう戻らないと諦めてくれるかもしれない。

 でも、そんなに長い間、この公爵家にお世話になるわけにはいかない。ミーナリアだって、そのうち王城に嫁いでいくだろう。

「私が死んでしまえばいいのかな、と思いまして」

「マリアン? 何を言っているの? あんな男のために……」

 ミーナリアが驚いて声を上げたが、リオは冷静だった。

「死を偽装するのか?」

「……はい。失踪した娘が死んでいたと判明すれば、婚約の継続は不可能になります」

「でも、死んだことにしてしまえば、マリアンはもう家に戻れなくなるわ」

「かまわないわ。さすがに母は悲しむでしょうけど、父や弟は……」

 父は政略の駒が減ったことを嘆くだろうが、ただそれだけだ。父とそっくりの弟も、自分の将来のための繋ぎがなくなったことを残念がるかもしれない。

 どちらも、身内としてマリアンの死を悲しむことはないだろう。

「だがニースも今回のことで、ただの謹慎で終わる可能性は低くなった。もしかしたら向こうが彼を切り捨てることもある。そうなれば、ニースとの婚約は解消されるだろう」

 もう少し、様子を見てはどうか。

リオはそう言ったが、マリアンは首を振る。

「ニースとは、そうかもしれません。でも私が戻れば、また別の人と婚約させられるでしょう」

 またクレート側の陣営から、婚約者が選ばれるだけだ。それでは何も変わらない。

「だから私は、一度死んでしまいたいのです」

「きみがそう望むのであれば、手配はしよう。ただ、完全に死を偽装することは、おそらく難しい」

 リオの言うように、伯爵令嬢が死んだとなれば、ちょっとした騒ぎになる。

 特にクレート側の派閥にとって、この結婚は意味のあるものだった。

 豊富な資金を入手することができる上に、父はこの婚姻によって、完全にクレート側になるはずだったのだ。もしマリアンが死んだと聞かされも、偽装の可能性も疑って徹底的に調査が行われるだろう。

 マリアン自身が本当に死なない限り、完璧な遺体など用意することができない。

 だからあくまでも、貴族の令嬢らしき人間の遺体が見つかった。状況から考えるに、おそらく失踪した伯爵令嬢だろうという憶測で終わることになる。

「結果として、可能性を少し残すことができる」

 でもそれはリオの言うように、マリアンが家に戻れる可能性も残されているということだ。

 マリアンが復帰できる可能性が、少しでも残されているのならと、ミーナリアも心配そうな顔をしながらも、最後には同意してくれた。

 

 それから、十日ほど経過した後。

 失踪していたドリータ伯爵家の令嬢、マリアンが亡くなったという噂が、社交界を駆け巡った。

 婚約者に裏切られ、世を儚んだ令嬢は、湖に身を投げてしまったようだ。

 まだ若くて美しい令嬢の悲劇的な死は、多くの人の涙を誘った。

 そして、その原因となったニースとエミリアには、かなり厳しい視線を向けられることになった。

 ニースは、投獄された直後は、王城内とはいえ、痴話喧嘩程度のことで、そこまで厳しい罰を与えなくてもよいのではないか。

 そう言った声が、主に第二王子クレートの陣営から上がっていたようだ。

 剣を抜いたのも激情してのことで、殺意があったわけではない。

 リオも軽傷ですんでいる。

 だが、さすがに婚約者を死なせてしまったのは、世間体が悪すぎる。

 彼らもニースを諦めたのか、姉のリエッタには罪はない。罪はニースひとりのものだと主張し始めていた。

 エミリアは、取り調べを受ける度に証言が変わっていて、あまりにも信憑性がなさすぎると、ニースに脅されていたという訴えは却下された。

 あの夜だけではなく、他の人も何度もニースと密会していた証拠も上がり、身内も庇い切れなくなったようだ。

 とうとう彼女は、王都から遠く離れた修道院に送られることになったらしい。

 この話は王国で流行っていた恋愛小説にも大きな影響を与え、不倫や浮気を悲恋のように扱っていた話は一切なくなり、幼馴染と婚約して結婚する純愛や、メイドや身分の低い女性が高貴な身分の者に愛されるような話が、主流になっていったらしい。


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