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【短編】婚約者が浮気をしていたので、置き手紙を残して失踪してみました。  作者: 櫻井みこと


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12 リオ視点

◆◆◆


 サザリア公爵家の嫡男リオは妹達が部屋に戻ったあと、正装に着替えると王城に向かった。

 妹の婚約者であり、王太子であるロランドに、昨日のことを報告しなければならない。

 王城に到着すると、王太子の護衛騎士によって彼の執務室に通された。

 ロランドは報告書に目を通していたが、リオの到着に気が付くと、すぐに顔を上げた。

 金色の髪に、意志の強い緑色の瞳。

 美貌で知られる王妃によく似て柔和な雰囲気だが、その瞳の鋭さは、儚げな王妃とはまったく違うものだ。

 妹のミーナリアの婚約者だが、リオとは幼馴染の間柄でもある。

 王太子妃となる妹は表で王太子を支え、自分は裏で彼の敵を排除することが役目である。

 昔からずっとそう思っていた。

「昨夜は、かなり大騒ぎだったようだな」

 ロランドに促され、リオは昨晩のことを語った。

 ニースが愛人と密会していて、それを婚約者に見られてしまったこと。

 そして、その婚約者が置き手紙を残して失踪したこと。

「その婚約者は、妹の親友でした。妹宛に手紙を残していたので、その男に詰め寄ったようです」

「そうか。そのような騒動があったのか」

 ロランドは頷くと、ディーダロイド侯爵家か、と小さく呟く。

「たしか、クレートの婚約者候補の筆頭が、その侯爵家の娘だったな」

「はい。ほぼ確定していたようです」

 ロランドは思案したあと、ひとりごとのように呟いた。

「……クレートは動くか?」

 このララード王国の第二王子クレートは、ロランドとは異母兄弟になる。

 母親は側妃だが、この国の公爵家出身であり、他国出身の王妃よりも、一部の貴族達には強く支持されていた。

 王太子はロランドに確定しているが、クレートを担ぎ上げようとしている勢力は、まだ諦めていない様子である。だからロランドもリオも、クレートにはかなり注意を払っていた。

 リエッタに懇願されて、クレートが動きだしていることを伝えると、ロランドは顔を顰めた。

「わざわざ騒動に首を突っ込んだか。こちらには好都合だが、愚かなことだな」

 クレートはまだ、リエッタを婚約者にすることを諦めていないようだ。

「ディーダロイド侯爵家は、もともと側妃派です。その娘がクレート殿下の婚約者に選ばれたのは、側妃派の総意でしょう。向こう側でも、そう簡単に諦めるとは思えません」

 これで側妃派が強引に動けば、勢力を一掃する機会になるかもしれない。

 今のところ、マリアンの父であるドリータ伯爵家と、側妃派が結びつくことも回避できている。ドリータ伯爵家の豊かな領地と財源は、王家も注目していた。

 マリアン本人は気が付いていないようだが、彼女の婚約者になりたかった男は大勢いる。ミーナリアの機転で失踪したことにならなかったから、すぐにでも次の婚約者が決まっていたかもしれない。

 王太子のためを考えれば、リオも彼女がニースと婚約する前に、マリアンを確保するために動くべきだったのだろう。

 それでも彼女を政略的に使うことができなくて、今まで何もできずにいた。彼女がニースと婚約してしまったときは、もうすべては終わったことだと諦めていたが、今、マリアンは公爵家にいる。

 今度こそ、どんな手段を使っても手に入れる。

 そう決めていた。

「だが、その婚約者には気の毒なことだ。ミーナの親友なら、なおさら気懸りだ。無事だといいが」

「ミーナも必死に探しているようです。見つけたら、公爵家で保護します」

 主であるロランドに偽りの報告をするのは、初めてかもしれない。

 でも今は、誰にもマリアンの居場所を伝えたくない。

 公爵家の屋敷の奥に、いつまでも匿っていたい。そんな気持ちさえ芽生えている。

「わかった。そのときは報告してくれ」

「承知しました」

 そう答えて、王太子の執務室を出る。

 次に向かうのは、地下牢に囚われているニースのところだ。

 彼がもし、マリアンを大切にするのならば、リオも決まった縁組を壊すつもりはなかった。

 だが実際には結婚前から愛人を囲って、マリアンを悲しませた。

 とても許せることではない。

 ニースにはもう少し騒ぎを大きくして、厳罰を与えてもらわなくてはならないだろう。


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