4:最強竜、朝食待ち
ヴィルベルが突き破った天井と床だけをとりあえず修復し、昨夜は眠りについた。
朝、目覚めると──ガルムとヴィルベルが揃ってダイニングの椅子に座って、目を輝かせていた。
「……何をしているの?」
「飯を待っているに決まっているだろう」
えっへんと文字が見えそうなほどに胸を張るヴィルベル。
こいつら、自分で動こうという気はないのか……。
幼いガルムはともかく、そこの四国竜、ドラゴンとしてのプライドはどこへいった。
「あの誇り高い死黒竜をこれほどまでに大人しくさせるとは、流石でございますマスター」
ゴーレムは何やら感心しているし。
そんなに凄いことなのかしら。
私はただ、ドラゴンの姿だとホールの天井を突き破ってしまうから、ここに居たいならずっと人型で居るようにって言っただけなんだけどなぁ。
「ヴィルベルってそんなに凄い奴なの?」
「それはもう、死の大地を統べる黒竜──“死黒竜”と言えば、この世界で知らぬ者はおりません」
ん?
今、何か違和感があったような……。
「死の大地を統べるこくりゅう?」
「はい、通称“死黒竜”です」
「こくりゅうってのは、黒い竜のこと?」
「はい、見たままに」
なるほど、死+黒竜で“死黒竜”か!!
私とゴーレムのやりとりに、椅子に座ったままのヴィルベルが何を今更とこちらを見る。
……言えない。
ずっと“四国竜”だと思っていたとか、とても言い出せない。
ま、まぁヴィルベルの名前は気に入っているみたいだから、結果オーライってことで!
「……そういえば、貴方も何か名前があった方が良いかしら」
「私でございますか?」
目を見張るイケオジゴーレムに、一つ頷く。
いつまでも“ゴーレム”じゃ、つまらないものね。
「ゴーレムだから……レムスでどう?」
レムスとガルムだと、あちこちの神話が混ざったような感じになるけれど……そんなの気にする人も居ないものね。
ゴーレムのレムをとって、レムス。うん、分かりやすい。
「なんと……私にまで名前を下さるとは、ありがとうございますマスター!!」
ゴーレム改めレムスは、感極まった様子で肩を震わせている。
そんなに喜ぶようなことなのだろうか。
「お前、そんなに名付けを連発していたら、今に大変なことになるぞ」
「そう?」
ヴィルベルが呆れたように呟く。
個体名が無いと名前が呼べなくて常日頃から大変になると思うのだけれど、そういうのは気にしないのだろうか。
「ステータス画面を見てみろ」
言われて、ステータス画面を表示させる。
『称号:召喚者、追放者、ダンジョンマスター、魔狼の主人、ゴーレムの主人、死黒竜の友人』
なんだか『称号』の欄が、色々と増えていた。
……『追放者』って、わざわざ称号にする必要ある?
それに、もう一つ気になる点があった。
「友人?」
いつの間にか、ヴィルベルとは友人ということになっているらしい。
「俺が認めてやったのだ」
当の本人は、やはり偉そうにふんぞり返っている。
まぁ、確かにあれだけ大きなドラゴンなら、凄い存在……なのかもしれない。
「名前を与えるということは、相手のステータスにも少なからぬ影響を与えるはずだ。まぁ、俺ほどになれば今更どうとも変わらんが」
逐一自慢を差し挟まないと、会話が出来ないのかこいつは。
「何か変わったの?」
「そうですね、私の場合は全体的なステータスが底上げされました」
レムスが言うなり、目の前にもう一枚ステータス画面が表示される。
おお、これはレムスのステータスかぁ。
「うーん、見てもよく分からないんだよね」
「マスターはこの世界の住人ではありませんからね」
首を傾げる私に、レムスが苦笑する。
「それはつまり、三国いずれかが異世界から召喚の儀を行ったということか?」
ヴィルベルが、珍しく真面目な顔で聞いてきた。
「三国?」
「この魔の森に接する、大陸中央の三つの国にございます」
私の疑問を、レムスが解説してくれた。
なるほど、四国ではなく三国でしたか……って、そうじゃない。
「えぇと、確か“ロドニー”とか言っていたわね、私を召喚したあのキラキラ王太子」
「ロドニー王国か」
どうやらヴィルベルも人間の住む国くらいは知っているらしい。
ロドニー王国以外にも、二つの国がこの魔の森に接しているってことね。
そう考えると、この森相当広いんじゃないかしら。
……下手に歩き回らないで、良かったぁ。
「すると、本当に異世界の住人な訳か。道理で、あのような美味な物を作れるのだな」
ヴィルベルが何度も頷いている。
別にそれは良いけれど、朝になったら早速ご飯を要求してくるあたり、すっかりここに居着くつもりなのかしら。
「で、次は何を食べさせてくれるのだ?」
ヴィルベルだけではない、ガルムも一緒に目を輝かせている。
「うーん、朝だし軽いもので……」
パンでも焼く為にトースターをアイテムクリエイトで作りだそうと思ったが、よく考えてみたら、コンセントがない。
となれば、昨日作ったカセットコンロで作れるものがいいかなぁ。
手っ取り早くホットケーキミックスと牛乳と卵をクリエイトして、ホットケーキを焼いてみる。
たっぷりのバターとメープルシロップをかけたら、出来上がり~。
「そういえば、二人とも甘い物は平気?」
「美味ければ何でも食べるぞ」
「ワン!!」
聞くまでもなかった。
食いしん坊二人は、ホットケーキの焼ける香ばしい匂いに、涎を垂らさんばかりにフライパンを見つめている。
思えば、一人暮らしでずっと自分一人だけの簡単な食事ばかりだったから……こんな風に誰かに料理を食べてもらう、誰かと一緒にご飯を食べるのも、久しぶりだな。
「はい、どうぞ」
「おぉ……」
「クゥゥーン」
こんがりきつね色に焼き上がったホットケーキを差し出したら、二人の目は皿に釘付けだ。
こんなに喜んでくれると、こっちまで嬉しくなってくる……って、いや、可愛いガルムはともかく、勝手に居座ろうとしているドラゴンにまでそう思ってはいけない。
内心、自分を戒めつつ、私も椅子に座っていざホットケーキにナイフを入れる。
「ん~~~っ」
バターたっぷり、メープルシロップはほどほどが私の好み。
今日も良い焼き加減です。
「これは……パンか何かかと思ったが、全然違うな! 甘い食べ物も、なかなかいけるではないか」
ヴィルベルも気に入ってくれたみたい。
ガルムにいたっては、口のまわりをメープルシロップ塗れにしている。
「しかし、異界から召喚した者を追放するとは……ロドニー王国の王族は馬鹿なのか」
ホットケーキを頬張りながら、ヴィルベルが呆れたように呟く。
「追放っていうか、まぁ正確には殺せって指令が出ていたみたいなんだけどね……」
私が殺されなかったのは、ひとえにあの騎士団長さんの甘さがあったからだ。
ま、直接手を下さずとも、森の真っ只中に放置すれば勝手に野垂れ死んでいただろうってのもある。
「……ほう」
「それは聞き捨てなりませんな」
あれ。
気付いたら、ヴィルベルとレムスの目つきが変わっていた。
ガルムも口をシロップでべったりさせながら、顔を上げてじっとこちらを見つめている。
「そんな訳で、行く宛もなかったからさぁ……このダンジョンに巡り会えたのは、最大の幸運だったと思うの」
……そう。
あの時、ガルムに合わなければ……ガルムが私を受け入れてくれなければ、今頃はこの森のどこかで獣にでも襲われて命を落としていたかもしれない。
「そういうことならば、人間共がとても攻略出来んようなダンジョンを構築せねばなるまい」
操作パネルに視線を送りながら、ヴィルベルが呟く。
「ダンジョンを構築……って言うけど、一体何をしたらいいの?」
「そこは、私めが補佐します」
私の疑問に、レムスが答える。
倣うより慣れろ精神で、まずは色々とやってみるべきなのかな。
朝食を終えて、さぁいよいよダンジョン作り開始だ──!









