31:冒険者ギルドの洗礼
当面は火曜・土曜の週2回更新で続けていきたいと思います。
(18時20分更新予定です)
どうぞ今後ともよろしくお願いします。
私の前には、三人の男が立ち塞がっている。
はげ上がった小男に、赤っパナの巨漢、そして目つきの悪い眼帯男。
どこからどう見ても、近寄りたくない三人組だ。
「えーと、なにか?」
「はっ、今の聞いてなかったのかよ!」
私が言葉を返すと、小男が馬鹿にするように笑った。
「冒険者登録したての初心者なんだろう? 俺達がたっぷり教えてやるって」
そう言って笑う巨漢の口元には、いやらしい笑みが浮かんでいる。
うわぁ、どう見ても下心丸出しじゃない。
そんなのにホイホイついていく女なんて、居る訳がない。
「いえ、結構です」
こういうのは、相手しないに限る。
キッパリと断って、さっさと二人と合流しようと思ったら──、
「待てよ」
私の行く手を塞いで、男達が通せんぼをしてきた。
いや、邪魔。
そこ通りたいんだけど。
「そうつれないこと言うなって」
「そうだぜ、俺達は親切心で言ってやってんだから」
なーにが“親切心”か。
本当に親切な人は、こんな風に立ち塞がらないのよ。
「色々教えてくれる人は、もう居ますので」
私が断っても、彼等は退いてくれない。
それどころか、不機嫌そうに顔を顰める始末。
「ああ? 俺達じゃ気に入らないってか?」
「そりゃちょっと聞き捨てならねぇなぁ」
あーあ、本性が出たよ。
先ほど受付で応対してくれたお姉さんは、すぐにカウンター奥に引っ込んでしまったから、こちらの様子には気付いていない。
周囲の冒険者達は……ダメだ、皆見て見ぬふりをしている。
ろくでもない奴等ばかりなのか、それとも──この程度、自分でどうにか出来なきゃ、冒険者なんてやってられないってことなのか。
「ガルルルル……」
男達の態度に、ガルムが毛を逆立てて唸る。
私を背後に庇うようにして、男達に牙を剥く。
「ああ? なんだ、この犬っころ」
「はっ、こんな狼だかシルバーウルフなんて、俺達Cランク冒険者にとっちゃ怖くも何ともないんだよ!」
男達が声を上げて笑う。
なるほど、この男達はCランクの冒険者なのか。
冒険者にはFからSまでのランクがあって、Cは中堅クラス。
それなりに経験もあるはずなのに――性根は三流らしい。
確か、ジェレミーさんがBランクだったはず……え、そうなるとこの男達とジェレミーさんとで、ランクが一つしか変わらないってこと?
うわぁ、意外だ。
複雑な事情を抱えるジェレミーさんは、決まったパーティーを組まずに、ソロで活動を続けている。
だからってのもあるのかもしれない。
「ガルム、大丈夫だから落ち着いて」
今も低く唸るガルムに、声を掛ける。
街中で従魔を暴れさせるなって、釘を刺されたばかりだもんね。
こんな奴等の為にガルムが悪く言われるのは、忍びない。
「おら、邪魔だぞ犬っころ」
ガルムを蹴飛ばそうとする小男の足が、スカッ──と空を切った。
「……あ?」
華麗に飛び退いたガルムとは対照的に、バランスを崩した男が、みっともなく床に尻餅をつく。
激しい音をたてて倒れる様に、周囲から失笑の声が上がった。
「な──なんでぇ、この犬がぁ!!」
男が、声を荒らげる。
でも、ガルムは何もしていない。
それはギルド中の皆が見ている。
ガルムは、ただ避けただけ。
後は、向こうが勝手に転んだんだもんね。
「痛い目を見ないと、分からねぇみたいだな」
巨漢が腕を鳴らしながら、前に進み出る。
私がどうというより、彼等曰くの“犬っころ”に恥を掻かされたのが、我慢ならないらしい。
「毛皮にしてやるぁ!!」
信じられない言葉と共に、ガルムに掴みかかろうとする──が、彼の突進も、またひらりと躱されてしまった。
勢い余って、ギルドの壁に激突する。
「てめぇ、こんの──」
残る眼帯男がガルムめがけて挑みかかろうとした、その時だった。
「──何をしている?」
低く、冷ややかな声が響いた。
私にとっては、聞き覚えのある声。
声がした瞬間──ギルド中が凍り付いた。
誰かの手からグラスが落ちる音だけが、やけに大きく響いた。
「あ、ヴィル」
あらかじめ決めておいた冒険者用の偽名、ヴィルベルは“ヴィル”、私は“スズ”。
「何をしているんだ、スズカ」
だと言うのに、ヴィルベルときたら、普通に“スズカ”って呼んでいるし
それじゃ、偽名を決めた意味がないじゃない。
「うーん、こちらは何もしていないんだけど……」
一方的に絡まれて、一方的に自滅しています……としか言いようがない。
私もガルムも、何も手を出してはいない。
彼等が勝手に“転んだ”だけ。
「ほう」
ヴィルベルが紅色の瞳を眇めて、男達を睨み据える。
それだけで、相手は石像のように凍り付いてしまった。
カツン、カツン……と、静まり返ったギルドに、ヴィルベルの足音が響く。
彼が向かう先は、私に絡んだ男達の元──あぁ、これ、止めないとヤバいかもしれない。
私と違って、ヴィルベルに冒険者登録の意思はない。
だからって、私と一緒のところを見られている訳だし──街中で怪我人でも出そうものなら、過剰防衛でこちらが責任を問われかねない。
ヴィルベルを前に、Cランクの冒険者が持ち堪えられるはずもないのだ。
「ヴィルベル、待って!」
仕方なく、声を掛ける。
ヴィルベルの眉間に、深い皺が寄る。
彼が唇を開きかけた時──、
「何の騒ぎだ、これは」
ギルドの扉が開いて、救世主──ジェレミーさんが入ってきてくれた。
足を止めたジェレミーさんが、周囲を見回す。
私と、ガルムと、不機嫌そうなヴィルベルと──尻餅をついた男、壁際で倒れた男、そして身構えた男。
彼は、一瞬で状況を察したらしい。
「どうだい、ここは俺に免じて、この場は収めてくれないか」
にこやかな笑みを浮かべ、三人組に声を掛ける。
男達は、不承不承といった様子だ。
Cランク冒険者の彼等にとって、ソロでBランクのジェレミーさんは、格上の相手だ。
下手に敵に回すより、ここは引き下がった方が得策と判断したのだろう。
……良かったね、君達。
ジェレミーさんに感謝しなよ。
おかげで、命拾いしたんだから。
ジェレミーさんが現れたことで、ギルドは元の喧騒を取り戻した。
冷え切っていた空気が、わっと騒がしくなる。
いや、元の喧騒どころではない。
「ジェレミー、お前ジェレミーなのか!?」
「死んだって聞いてたぞ!」
「お前、生きてたのかよぉ!!」
ジェレミーさんは、あっという間に冒険者達に取り囲まれてしまった。
女性だけでなく、広く人気者なんだなぁ、ジェレミーさん。
しかし、彼が現れたことで起きたのは、喜びの声ばかりではなかった。
「Bランク冒険者ジェレミー……貴方はダンジョン探索で死亡したと、届け出があったのだけれど」
奥から現れたギルド職員が、手元の書類に目を通しながら、怪訝な顔をする。
……そうだよね。
やっぱり、ジェレミーさんを罠に嵌めた奴等──彼が死んだと、虚偽の報告をしたんだ。
「それに関しては、細かく報告させていただきます」
「ええ、話は奥で聞くわ」
ギルド職員に、ついてくるよう促されるジェレミーさん。
彼の碧眼が、一瞬だけこちらに向けられた。
「……すまない、二人とも。先に宿に戻っていてもらえるか?」
「う、うん」
今日冒険者登録したばかりの新米冒険者に、あれこれ口を出すことは出来ない。
ギルドの奥まった部屋に連れて行かれるジェレミーさんを、ただ呆然と見送るのみだった──。









