30:はじめての冒険者ギルド
魔の森の出口から行商人の馬車に乗せてもらい、いよいよ到着しました、ガスール共和国の自由都市クゥエイフ!
別名“冒険者の街”とも呼ばれるクゥエイフは、活気あふれる賑やかな街だ。
私にとっては、見る物全てが目新しい。
中世風の街並み、市場に並ぶ野菜、見たことのない果物……こんなの、目がいくつあっても足りないって!
キョロキョロしながら歩く私の後ろには、ジェレミーさんとヴィルベルが並んでいる。
長身の二人に連れられて、気分はすっかりお上りさん。
どんな田舎から出てきたんだと思われそうだけど、仕方が無い。
ダンジョンから出たのは、ほぼほぼ初めてなんだもの。
「すごーい、珍しい物がいっぱい」
「そんな珍しくもないんだけどなぁ」
市場に並ぶ商品を見て声を上げる私に、ジェレミーさんが苦笑している。
いいの、私にとっては珍しいんだから!
賑やかな街を、冒険者ギルド目指して歩く。
冒険者ギルドは、街一番の大通りに面していた。
「宿屋は、ここにしよう」
ジェレミーさんの勧めで冒険者ギルドと同じ通りにある宿屋で部屋を取って、さぁいよいよ冒険者ギルドに向かう。
テイマーとして冒険者登録をするだけあって、今は犬サイズのガルムも一緒だ。
ガルムも街の景色が珍しいのか、白い尻尾がぶんぶんと振れていた。
「えーと」
夕方に差し掛かろうという頃合い。
そろそろ陽が傾いてくると、人々が家路を急ぐ。
あちこちのお店から湯気が上がり、いい匂いが通りに漂ってくる。
冒険者ギルドの前は、冒険を終えて戻ってきた冒険者達でごった返していた。
「人がいっぱい……」
「丁度混んでる時間帯だからね」
あまりの混雑ぶりに、つい二の足を踏んでしまう。
到着した時間が悪かったなぁ。
苦笑するジェレミーさんとは対照的に、ヴィルベルは一人知らぬ存ぜぬといった体で、街を見回している。
「カウンターも、依頼用の窓口と、新規登録受け付け用の窓口があるから。依頼の方は混んでいても、新規登録の方は、空いていると思うよ」
ジェレミーさんが、そう教えてくれた。
なるほど、窓口が分かれているなら、混雑に巻き込まれることはないか。
「じゃ、行ってみよう」
そう言って、私が足を踏み出すより先に──、
「きゃああぁぁぁ!」
「うっそ、ジェレミーさん!?」
「大変だったって聞いたけれど……」
「すごい、久しぶりじゃないですかー!」
耳を劈くような、黄色い悲鳴がこだました。
ジェレミーさんの知り合いらしい女性冒険者達が、わらわらと群がってくる。
わぁ……凄いな、ジェレミーさん。
確かに美形だとは思うけれど、こんなに女性に人気があるとは。
あっという間に取り囲まれて、ジェレミーさんの姿は人垣の向こうだ。
うーん、これはなかなか近付けない。
「先に、登録してくるね」
人垣の向こうに居るジェレミーさんと、我関せずなヴィルベルに声を掛けて、冒険者ギルドの中へと向かう。
冒険者ギルドには酒場が併設されていて、依頼を終えた冒険者達が、即一杯引っかけられるようになっている。
ふわりと、酒の匂いが鼻を擽る。
アルコールが入れば、自然と気が大きくなる人も現れるもので……列に割り込んだの何だのと、小さな小競り合いが絶えないみたいだ。
そんな行列を横目に、一人人気のない“新規受付”と書かれたカウンターに向かう。
「すみませーん」
「あら、新規登録の方?」
カウンターの奥で書類整理をしていた女性が、私の声に気付いて、カウンターまで来てくれた。
「はい、冒険者登録をお願いします」
「他のギルドでの登録は?」
「はじめてです」
ガラス板越しに、私の前に紙と羽ペンが差し出される。
これに必要な物を書き込めばいいのかな。
「こちらに記入をお願いします。分からないことがあったら、何でも聞いてね」
「はい!」
……元気に答えたはいいが、そういえば私はこの世界の文字を知らない。
スキルのおかげで日本語に変換されて読めていたのだが、書く方はどうなのだろう。
「あのー、これで読めますか?」
紙に偽名の“スズ・フォレスト”と書いて、差し出してみる。
「ええ、大丈夫よ。綺麗な字じゃない」
大丈夫みたいだ。
私からは日本語に見えるのに、他の人達からは現地の言葉に見えるだなんて、なんとも不思議なものだ。
まぁ、助かるからいいか。
そのままジェレミーさんに教えられた嘘の出身地を書いて、書類作成を進めていく。
「はい、出来ました!」
「どれどれ~……あら」
書類チェックに目を走らせた受付のお姉さんが、ふと一点で視線を止めた。
「貴女、テイマーなの? 珍しいわね」
「そ、そうですか?」
どうやら、テイマーという職業はかなり珍しいらしい。
そんなこと知らないよ~と、背筋に冷や汗が伝う。
「ってことは、ひょっとしてそのワンちゃんも従魔?」
「はい」
「ワン!!」
お姉さんの声に、私だけじゃなく、ガルムも元気に返事をする。
「あら、いい子ねぇ。シルバーウルフの子供かしら」
ガルムの様子に、ニコニコ笑顔を浮かべるお姉さん。
シルバーウルフと言われて、ガルムはショックを受けたみたい。
本人は違うと必死に説明しようとしているけれど、悲しいかな、お姉さんにはガルムの言葉は通じないのだ。
「私の大事な家族です」
肯定も否定もしたくなくて、曖昧に言葉を濁す。
でも、ガルムはこの答えを気に入ってくれたみたい。良かったぁ。
「従魔登録も一緒に済ませちゃうわね。シルバーウルフのガルムちゃん……っと」
お姉さんが、別の書類に筆を走らせる。
「もし街中で従魔が騒ぎを起こしたら、テイマーが責任を問われることになるから。従魔の管理は、しっかりとお願いね」
「はい、分かりました」
そこら辺は、街に来る前に、しっかりと言い含めてある。
ガルムが身体の大きさを変えられる──希少種の魔狼だなんて知られたら、人間達は目の色を変えるに違いない。
普通の狼か、せいぜいシルバーウルフに見えるようにしろと、ヴィルベルからのきつーいお達しだ。
「ありがとうございました」
「いえいえ、がんばってね~」
受付のお姉さんに御礼を言って、立ち上がる。
大丈夫、ガルムが元の姿に戻るようなことなんて、早々起きる訳がない──って思ったのも束の間。
「見かけない顔だな」
「結構可愛いじゃないか」
「お嬢ちゃん、こっちで一杯付き合えよ」
赤ら顔のおじさん冒険者達に、行く手を遮られてしまった。
ぷんと、アルコールの匂いが鼻につく。
どうやら、相当酔っ払っているみたい。
え……こんな定番イベント、本当に起きるんだ……!?









