28:冒険の予感
今日も今日とて、やってくる冒険者達の姿を管理室のモニターでぼんやりと眺めている。
戦闘シーンを目の当たりにするのは、やっぱりまだ心臓に悪いので、私が見るのは主に入り口付近の映像。
常連の顔もあれば、初めて見る冒険者の姿もある。
目新しいダンジョンに緊張する者、怯えを隠せない者、そして目を輝かせている者──反応は様々だった。
「いいなぁ……」
そんな彼等の姿が羨ましくて、ついポツリと呟いてしまった。
私の隣に座ってヒーロー漫画を読んでいたヴィルベルが、顔を上げる。
「何がいいんだ?」
「あ、いや、その……」
問われて、ついしどろもどろになってしまう。
何が良いとか考えていた訳ではない。
ただ漠然とした呟きなのだが、突っ込まれると、私は何を羨んでいるのだろう。
「自由に……外に出れること?」
「お前だって、出ようと思えば出られるだろう」
……ヴィルベルの言葉に、思わずまじまじと彼を見つめてしまう。
外に出るなんて言ったら、止められるか、あるいは物凄い護衛を付けられるんじゃないかと思っていた。
前にもテイマーとして冒険者を~なんて話題が出ていたが、本当に、それが実現出来るのだろうか。
モニター越しに見る彼等のように……私にも、冒険が出来る……?
「本当に、出ても大丈夫なの?」
「何か問題があるのか?」
問題があるかと聞かれたら、よく分からない。
そもそも、ダンジョンの仕組みというのが私には理解しきれていないのだ。
「ダンジョンマスターって、ダンジョンの中に居なくても平気なの?」
「問題はないはずだ。ただ、不在の間にダンジョンが攻略されてしまえば、ダンジョンマスターの座は奪われることになるだろうが」
ヴィルベルの言葉に重なるようにして、もう一つ、別の声が響いてきた。
「ですから、多くのダンジョンマスターはダンジョンを離れることを良しとしないのです」
気付けば、管理ゴーレムのレムスが、扉からこちらを覗き込んでいた。
「マスターの魔力には相当な余力がありますし、もし難敵が現れたとしても、追加でモンスターをクリエイト出来ますから、よほどのことがなければ問題ないとは思いますが」
「そっかぁ」
よほどのことと言われて、思わずヴィルベルを見遣る。
なるほど、こんな規格外が来ない限りは、問題なしってことね。
「どちらかというと、外に出たマスターの安全の方が心配になりますが……」
「そんなものは、心配する必要がない。この俺がついている」
レムスの言葉に、ヴィルベルが鼻を鳴らす。
「保護者同伴でしょうか」
「どうやら、そうなりそうね」
ヴィルベルだけではない、私がダンジョンの外に出ると聞いたら、ソファーでお昼寝中のガルムもきっと一緒に来てくれるだろう。
ヴィルベルは人型になれるし、ガルムは大きさを変えることが出来る。
うん、これなら街に出ても問題なさそうね。
「それなら……一度くらい、この世界を見てみたいなぁ」
「冒険者がしたいという訳ではないのか?」
「もちろん、冒険者にも興味はあるんだけど」
ヴィルベルの問いに、苦笑混じりに答える。
「王城の召喚された部屋以外は、街並みも、街道も、全部馬車の中から眺めていただけなんだよね。だから、このダンジョンの外のこと、私は何も知らないんだなぁって……」
……ふと気付くと、二人が無言でこちらを見つめていた。
ちょっと、なんで何も言わないの。
いきなり無言になられると、なんだか気まずいじゃない。
「……そうでしたら、マスターを送り出さない訳にはいきませんね」
「ああ」
レムスも、ヴィルベルも、何やら頷いている。
二人とも、かなり重く受け止めてない? 大丈夫?
単に私は「外が見てみたいなー」ってだけなんだからね。
「……となれば、ジェレミー殿に頼むのが一番でしょうか」
「あ?」
ジェレミーさんの名前が出た瞬間、ヴィルベルの眉毛が不機嫌そうに吊り上がる。
「どうしてここであの男が出てくる?」
「外の世界、ましてや人間の街となれば、彼が一番詳しいでしょう」
レムスの言葉は、間違ってはいない。
このダンジョンに居る仲間──精霊やエルフは、人間の街には疎いものね。
死の大地を根城としていたヴィルベルだって、人型は取れても、人間社会には疎いだろう。
今となっては、この世界より日本の事情の方が詳しいんじゃないかしら。
「ヴィルベルなら、何か問題が起きても“相手を倒せば全てOK”とか言いそう」
「それのどこがおかしい?」
そう考えること自体が、もう間違っているんだって。
“暴力は全てを解決する”じゃないんだから。
という訳で、やってきました地下90階!
突然現れた我々を、ジェレミーさんは笑顔で出迎えてくれた。
「ジェレミーさん、一緒に冒険に行きましょう!」
「……は?」
そんな彼の表情が一瞬で凍り付いたのは、言うまでもない。









