幕間:渦巻く悪意
ロドニー王城の、奥まった一室。
報告を受けた王太子エリオットは、無言のまま書面を読み終えると、それをぐしゃりと握りしめた。
「巨大ダンジョンの発見と、そこに住まう魔女……だと?」
「は……」
報告を行った冒険者ギルド幹部は、額に汗を浮かべていた。
報告をしようにも、いまだ確かな情報さえ得られていない。
ダンジョンの規模は不明、調査に赴いた冒険者の内、一名は死亡。
帰還した四名も、ダンジョンで出会った“魔女”の恐ろしさを口にしたのみで、その正体や能力については、まともな証言すら得られていなかった。
「冒険者達は集まったか?」
「はい、魔の森調査の為に、既に何人もの冒険者が控えております」
ロドニー王家から命じられた、魔の森の調査。
魔王発生の噂だけではない、消えたエルフの集落を探す為にも、何人もの冒険者に声が掛けられた。
「であれば、その者達をダンジョンの調査に向かわせろ」
「は、あの、エルフの調査はもうよろしいので……?」
戸惑うギルド幹部を、エリオットがジロリと睨め付けた。
「どちらも行うに決まっているだろうが! ここでダンジョンをおろそかにして、もし貴重なダンジョンを他の奴等に奪われたらどうする! お前、責任を取れるのか!?」
「はっ、申し訳ございません! 早急に準備を進めます!!」
深々と頭を垂れたギルド幹部が、エリオットの剣幕から逃れるように、部屋を後にする。
扉を見据えるエリオットの碧眼は細く眇められ、歪んだ口元から、小さな息が漏れた。
「やはり、このままではどうにもならんな……」
エリオットの呟きに、傍らに控えた従者が、ピクリと肩を震わせる。
「良いか……もう一度、神殿に召喚儀式の準備を命じろ」
「し、しかし、既に一度召喚は行ったばかりで……」
「あのような儀式、成功したうちに入らん。まともな戦力を確保出来てはおらんだろうが!」
従者の声は、苛立たしげな声によって遮られた。
「もし罪人の数が足りないと言うのなら、その家族も連座で捕らえるがいい。分かったか!」
「はいっ!!」
先のギルド幹部同様に、今度は従者が慌てて部屋を出ていく。
その姿を見送りながら、エリオットの唇からは、苦々しい息が漏れた。
「今度こそ、まともなスキルを持つ異世界人を呼び出さねば……」
王城の奥底に澱む悪意によって、まだ知らぬ場所の平穏までもが、少しずつ侵蝕されつつあった──。









