25:碧眼の冒険者
「さて……」
エルフの集落、里長の家を借りての緊急会議が始まった。
今もヴィルベルは眉間に深い皺を寄せ、腕を組んでふんぞり返りながら、冒険者さんを睨み付けている。
ああもう、怖いって!!
最初から威圧しないの!
……なーんて言ったところで、聞くようなヴィルベルではない。
まぁ、ヴィルベルの気持ちも分かるんだけどね……。
冒険者にこのダンジョンの秘密を知られ、国や冒険者ギルドに漏れでもしたら、ダンジョンのモンスターではなく私個人を狙い撃ちにしてくる可能性が出てくる。
それに、このダンジョンにはエルフ達も住んでいる。
どうにかして、穏便に済ませたいのだけれど……。
「まずは、助けていただきありがとうございます」
冒険者さんが席を立ち、深々と頭を下げる。
この場に居るのは私とヴィルベル、エルフの里長と、その息子のアンドルーの四人。
レムスは引き続き、管理室でダンジョン全体の様子を見守っている。
ガルムはといえば、今は犬サイズになって、私の足下で大きな欠伸をしている。
「俺は冒険者のジェレミーと言います」
「どうせ死に行く者の名など、知る必要はない」
ヴィルベルの言葉は、取り付く島も無い。
私は殺したくないと知っていながら、そんな言い方をするヴィルベルに、胸の奥がひりついた。
言われた方の冒険者──ジェレミーさんは、碧眼を細めて爽やかな笑みを浮かべている。
ううん、やはりただの冒険者とは思えない、破壊力抜群の笑顔。
俳優かモデルさんと言われても、納得の美貌だ。
「わざわざこのように手当までしていただき、感謝しております」
殺すなら、わざわざ助けたりしないだろうと暗に言っているのかな?
ヴィルベルの眉毛が、ますます吊り上がる。
「御礼でしたら、こちらの里長にどうぞ。あなたを治療したのは、長ですから」
「はい、里長様にも大変お世話になりました」
再び、ジェレミーさんが頭を下げる。
「いえいえ、スズ──彼女の頼みとあらば、放っておく訳にもいきませんでなぁ」
里長は、私の名前を呼ぼうとした瞬間ヴィルベルにジロリと睨まれ、慌てて言葉を濁していた。
そんな様子も、全てジェレミーさんに見られている訳だが……彼の目には、私はどう映っているのやら。
「やはり、一番に御礼を言うべき相手は、貴女のようですね」
「は、はぁ……」
ジェレミーさんの笑顔が、こちらに向けられる。
イケメンに微笑まれるのは目の保養だけれど、今はそれどころではない。
ヴィルベルのジト目が痛い……!
「殺す気がないのなら、さっさとここから追い出せ」
ヴィルベルの、ため息交じりの声。
その声に感心するように、ジェレミーさんが「ほう……」と息を吐いた。
「ここから追い出すと……では、やはりここはダンジョンの中なのですか?」
彼が発した何気ない一言で、皆の視線が集中する。
ヴィルベルは勿論のこと、里長もアンドルーも皆、容赦の無い、突き刺すような視線を向けている。
エルフの里と、世界樹の植えられたエリア──聖域。
ここの存在が外部に知られれば、どんな勢力も喉から手が出るほど欲しがるだろうことは、想像に難くない。
「詮索するつもりはなかったのです、誤解させたなら申し訳ない」
優雅な動きで、深々と頭を垂れるジェレミーさん。
彼は、この場所のことを、どの程度察しているのだろう。
「あなたは……このダンジョンを偵察に来た冒険者なのですよね?」
「ええ、ギルドから偵察及び地図作成の依頼を受けて、参りました」
ドンッ! と、大きな音が響く。
ヴィルベルが、テーブルの上に行儀悪く足を投げ出していた。
「ほら、見ろ。こいつはここの情報を持って帰るのが仕事だ」
「これは、流石に……助けるべきではなかったようですな」
ヴィルベルだけではない、里長までもが彼を警戒する側に回ってしまった。
どうしよう。
抵抗しない相手を殺すなんて、嫌なのに。
「依頼を受けた貴方が、どうして仲間割れを?」
「簡単な話です……どうやら、俺は彼等に嫌われていたようだ」
話題を変えようと振った問いに、ジェレミーさんが苦笑を浮かべる。
「前々から、敵意のような物は感じていました。どうも、俺の周りには女性が寄ってくる傾向があるもので……」
「ああ?」
ヴィルベル、だから睨まないでって。
せっかく話を聞いているのに。
「くだらん……これだから人間共の社会というのは」
「人間共……?」
ヴィルベルの吐き捨てるような言葉に、ジェレミーさんが反応する。
うん、そうだよね……今の言葉は、言外に“自分は人間ではありません”って言っているようなものだよね。
先ほどからヴィルベルといい里長といい、失言が多くなっている。
いや、私達よりも彼が一枚上手なのだ。
柔らかな笑顔を浮かべた、イケメン冒険者のジェレミーさん。
しかし、こと交渉事や腹の探り合いにおいては、彼はかなりの手腕を持っているのではないだろうか。
「助けていただいた恩義は、忘れません。俺は、ここのことを報告する気など、毛頭ない」
皆の視線を受けて、ジェレミーさんがキッパリと言い切る。
しかし、そんな言葉だけで納得出来る訳がない。
「誰が信じると?」
「まぁ……信じられないのも、仕方が無い」
ヴィルベルの刺々しい言葉に、ジェレミーさんが再びの苦笑を浮かべる。
「どうせ、他の奴等は俺のことを死亡扱いするでしょうから……それならそれで、ここに骨を埋めるのも、悪くはない。どうせ、また各地を転々とする身だ」
苦々しげに呟くジェレミーさんの目は、苦渋に満ちたものだった。
“また”とは、一体どういうことなのだろう。
彼も、私のように街で生きられない事情があるのだろうか。
「……あ」
そこまで考えて、ふと気が付いた。
そうだ、ずっと感じていた既視感。
彼とは初対面なはずなのに、ずっとどこか見覚えがある気がしていた。
最初は、テレビで似た人を見かけたのかと思った。
でも、違う──この世界で、彼とよく似た人を知っているんだ。
……そう。
彼は、あのエリオット・ロドニー──ロドニー王国の王太子に、あまりにもよく似ていた。









