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追放召喚者のダンジョンには、最強竜と魔狼(もふもふ)が住んでいます ~魔力SSSで始めるスロー・ダンジョンライフ~  作者: 黒猫ている


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24:仮面の向こう側

「お願い、手を貸してほしいの!!」


急ぎ転移した、地下90階。

世界樹が植えられたフロアで、ここにはエルフ達の集落があるはずなのだけれど……。


「え……」

「なんだ……?」


私の声に様子を見に来たエルフ達が、ギョッとした表情で足を止め、遠巻きにこちらを窺っている。

そんなことしている場合じゃないのに。

早く手当をしなきゃいけないのに。

焦れる心とは裏腹に、彼等は一向に動こうとはしない。


「どうした」


彼等の後方から、見覚えのある姿──里長の息子であるアンドルーが現れた。

ホッとして駆け寄ろうとしたが、彼もまた、こちらを見て身を竦めていた。


「何物だ!?」


──どうして。

アンドルーまでそんなことを言うの?

訳が分からず、焦る私の背後から、大股な足音が近付いてくる。


「落ち着け、スズカ」

「え……?」


歩み寄ってきたヴィルベルが、私の顔に手をかけ──いや、私が付けていた仮面に手を掛けた。

瞬間、それまで感じていた息苦しさから解放される。


……そうだ。

そういえば私、顔を隠す為に仮面を付けたままだった。

そりゃエルフ達も、私が誰だか分からないはずだよ。


「す、スズカ殿……?」


仮面を外した後も、アンドルーが唖然とこちらを見つめていた。

そういえば、今もまだケチャップ塗れ。

そしてこちらはケチャップどころではない、ガルムの上には斧の一撃を受けて重傷の金髪冒険者さんが乗っている。


さらに白い仮面まで被っていたら、そりゃエルフ達が怪しむのも当然だ。


「ごめん、ちょっと手を貸してほしいの。怪我人がいるんだ」


巨大化したガルムの背に横たわる冒険者を指さすと、ようやく事態を察したらしいエルフ達が、忙しなく動き出す。


「誰か、里長を呼んでくるんだ!」


アンドルーの指示で、エルフの一人が集落へと駆けていく。


空高く(そび)える世界樹の葉が、大地に影を落とす。

そこで暮らすエルフ達を、そして魔狼の背に横たわる冒険者を──全てを見守るように、大樹の影がゆらゆらと揺れていた。




「これでもう大丈夫かと」

「本当……?」


里長の言葉にも、いまだ不安が拭い切れない。

エルフの新しい里、真っ先に建てられた里長の家。

その簡素なベッドに、金髪の冒険者が横たえられていた。


魔法に長けたエルフ族の中でも、治癒魔法の使い手は稀少らしい。

この集落では、唯一里長だけが使えるという。

長の魔法によってようやく傷が塞がり、先ほどまでの苦しげな様子から一転、規則正しい寝息を立てていた。


「ええ、あとは血を失っているはずですので、精の付くものを食べさせてあげれば」

「ありがとうございます」


長の言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。

安堵の息を吐いたのも束の間、僅かな呻き声が聞こえてきた。


「う……」

「あ、気が付いた?」


長と二人、冒険者の顔を覗き込む。

澄んだ碧色の瞳が、真っ直ぐにこちらを見上げた。


「あ──貴女、は?」

「えぇと……」


掠れた声で問われ、思わず視線を彷徨わせる。

どう答えたら良いのだろう。

今になって、ダンジョンを捜索していた冒険者の前に、ダンジョンマスター自らがのこのこ出てきてしまったこの状況に気が付いた。


「ここはエルフの里ですぞ」


答えに窮した私に代わって、里長が答えてくれた。


「エルフの……里?」

「ええ、彼女は怪我した貴方を連れてきてくれたのです」

「そう、でしたか……」


金髪の彼が、のそりと体を起こそうとする。


「あ、まだ寝ててください!」

「いえ、もう痛みはな──あ、あれ?」


上体を起こした冒険者が、不思議そうに自らの体を見下ろす。

傷口は既に塞がっているが、僅かな違和感が残っているのだろう──斬りかかられたあたりを、ペタペタと触っていた。


「エルフの長が、治してくれたんですよ」

「そうでしたか、重ね重ねありがとうございます」


深々と頭を下げる冒険者の表情は落ち着いていて、仕草も洗練されていた。

使い込んだ装備さえなければ、彼が冒険者とは気付かぬほどに。


……やはり、どこかで見た覚えがあるような気がする。

こんなイケメン、一度見たら忘れないと思うんだけどなぁ……?


「俺は確か、マッドマッシュルームの群生地に突き飛ばされて……それで……」


冒険者が頭を抑えて考え込む。


「胞子を吸い込んで、状態異常に陥っていたようですが……覚えているんですか?」

「ええ、うっすらと」


苦笑めいた表情に、チクリと心が痛む。

仲間に突き飛ばされ、斬りつけられたことなど──いっそ、忘れていた方が良かっただろうに。


「あの声は、貴女の声でしたか……」

「あの声?」


冒険者の言葉に、思わず首を傾げる。


「ええ、胞子を吸い込んで、何も考えられなくなった直後──“声”が聞こえたんです」


彼が胞子を吸い込んだ後というと、あの男達が斧で斬りつけて、私が駆けつけた頃か。

あの時、自分が何か言ったかというと……ダメだ、必死過ぎて何も覚えていない。


「胞子を吸い込んですぐ、何も分からなくなって、もうこのままどうなっても良いかと思っていたのに……“声”が聞こえた瞬間、体の中に染み渡るというか……」


……この人は、何を言っているのだろう。

突然訳の分からないことを言われても、何がなんだか。


「あの“声”のおかげで、俺は俺のままで居られたんだ」

「へ?」


がしっと腕を掴まれて、思わず息を呑む。

ちょっ、近い。近い近い近い。

イケメンが接近すると、心臓に悪いんだから、勘弁してください!


「俺が正気を保てたのは、貴女のおかげだ!」

「いや、私は何もしてないですって!!」


やめてー、手をぶんぶん振らないでー。

何をどう誤解されたかは分からないけれど、この冒険者さん、すっかり私のことを恩人だと誤解しているみたいだ。

いや、確かに恩人ではあるのだけれど……正気を保てたとか言われても、そっちは覚えがないよー。


「……おそらく、それもスキルの影響だろうな」

「え?」


背後から響いた、聞き覚えのある声。

この声は──と意識するよりも先に、私の手を掴んでいた冒険者さんの腕が、ぺいっ! っと叩き落とされた。


「ちょっとヴィルベル、相手は怪我人なんだから」

「もう完治しているようだが」


エルフの里まで様子を見に来たのだろうヴィルベルが、冒険者さんを威圧するように見下ろしている。

ちょっと、貴方ただでさえ長身で体格良いんだから、そんな風にしてたら怖いって。

私だって怖いもん。


「スキル……では、やはり貴女のおかげでしたか」

「うーん、どうなんだろう」


私のスキル──“以心伝心”。

今までは相手の言っていることが分かるだけだったけれど、ひょっとして、こちらの言葉を伝えるのにも役に立つのだろうか……?


「……で、だ。この男、どうするつもりだ?」

「あー……」


冒険者さんを見下ろすヴィルベルの瞳には、強い警戒の色が滲んでいる。

私が考え無しに彼を助けたものだから、怒っているのかなぁ……。


「そうだ、ここは……」


冒険者さんの瞳が、数度瞬いて周囲を見回す。

出来たての、木製の家。

窓の向こうには、青々とした大樹と大自然が広がっている。

耳の長いエルフ達が数人、怪我人はどうなったかと、チラチラとこちらを覗き込んでいるのが見える。


うん、どう見てもダンジョン内の風景とは思えないよね。

そもそも、エルフだの大樹だのと、普通の景色ですらない。


あー、これどう誤魔化したら良いんだろう……?

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