幕間:肉は全てを解決する
王が去った後の、死の大地エリア──地下67階。
そこでは、いまだ人型に変じたままの赤竜が、青竜相手に愚痴をぶつけていた。
「そもそも、あの女は何しに来たんだよ!」
「ああ、それなら……」
半ば話を聞き流していた青竜が、思い出したように腰を上げる。
彼が向かったのは、大きな岩陰。
赤竜が暴れ出すや否や、戦闘の被害に巻き込まれないように、すぐさま貰った土産を安全な場所に置いておいたのだ。
「ダンジョンマスターは、これを持ってきてくれたのです」
「なんだこれ」
彼等の前には、巨大なビニール袋があった。
この世界に生きる赤竜と青竜には、奇妙な材質の塊にしか見えない。
中が透けて見える透明な薄布に、おっかなびっくり手を伸ばす。
「……なんか、いい匂いがする」
「気付きましたか」
赤竜がクンクンと鼻を鳴らすと、青竜も同意するように頷いた。
その内側には、白い紙らしき物に包まれた“大きな何か”があった。
「出してみよう」
たまらず、赤竜が中身を取り出す。
一暴れして、丁度腹が減っていたところだ。
王たる死黒竜にやられた手傷も、癒やさねばならぬ。
その為には、何より肉。
肉を食べて栄養補給が一番! とは、竜族のみならず、モンスター全般の考えであった。
「な、なんだこれ……」
「おお、なんという……」
白い紙を剥がしてみると、中から霜が入った桃色の牛肉が現れた。
日本の肉屋で百グラム何千円で取引される、高級和牛。
その大きな塊肉が、今腹ぺこドラゴンの目の前に置かれている。
二匹の竜が一も二もなく食いついたのは、言うまでもない。
「は~、美味かったぁ……なんだよ、こんな美味い肉を持ってきたなら、最初っから言えばいいのに」
「ダンジョンマスターは言ってましたよ、最初から」
二匹の竜にかかれば、塊肉もあっという間だ。
いまだ食い足りず、ビニール袋を覗き込む赤竜を、青竜がジト目で見遣る。
「こんな美味い肉をくれるんなら、歓迎してやるっての」
「まったく、あなたという人は……」
無邪気に笑う赤竜に、青竜がため息を吐く。
「それにしても……あのような王のお姿、初めて見ました」
「あん? あんな風に、人間の雌を庇っていたことか?」
「ええ」
青竜が広大な荒れ地に腰を下ろしたまま、空を見上げる。
「これほどのダンジョンを作り上げるからには、並の人間ではないのでしょうが……」
竜が人間と友好を深めたなど、聞いたことはない。
中には竜を使役しようと躍起になる人間も居るようだが、所詮は人間。
竜族にとっては、つま先一つで潰せる矮小な存在なのだ。
「どんな雌にも見向きもしなかった、あの王がなぁ」
腹が膨れた赤竜が、ごろりと岩肌に横たわる。
「王は、あの女を番にするつもりなんだろうか」
「さぁ……王の御心は、私には判断いたしかねます」
恋愛だの何だのといった価値観は、竜にはない。
あるのは、ただ一生を添い遂げる相手として選ぶかどうか──ただそれだけだ。
「あの肉、また食いたいなぁ」
「あなたが攻撃したせいで、嫌われてしまったと思いますが」
ごろごろと転がる赤竜の声に、青竜の冷静な声がかさなる。
「また持ってきてくれねぇかなぁ」
「まったく、勝手なことばかり……」
二匹の竜による掛け合いが、荒涼とした死の大地にいつまでも響いていた。
「肉~~~~~~!」









