幕間:王太子の焦燥
謁見の間は、静まり返っていた。
彼等の報告が、王太子の逆鱗に触れることは分かり切っていた。
無言で頭を垂れる騎士達。
そんな彼等を、ロドニー王国王太子エリオットが憎々しげに睨み付けた。
「もう一度言ってみろ」
「は、エルフの里を再度訪ねたところ──既に、もぬけの殻でした」
ギリリと、エリオットが歯軋りする。
「どうして、時間を置いた?」
「は、彼等にも、考える時間が必要かと思いまして……」
「──手ぬるい!!」
叩きつけられた拳が、玉座の肘掛けを軋ませた。
騎士達の先頭で、騎士団長ダグラス・ハーロウが頭を下げる。
「有無を言わさずに、連れてくれば良かっただろう!!」
「誠に申し訳ございません」
王太子の怒りが収まるまで、ただひたすらに頭を下げるのみ。
逆らうことは、許されない。
国王が病に伏せる今、この国の政は王太子であるエリオットに委ねられているのだ。
「いいか、エルフ共を草の根を分けてでも探し出せ!!」
エルフ族は、魔法に長けた種族だ。
精霊の助けを借りて彼等が繰り出す魔法は、百人力と言われている。
だが、エルフ族は排他的な種族だ。
他種族の為に力を貸すことなど、滅多にない。
その大半がエルフの里に篭り、人間達からは隠れ暮らしている。
ごく稀に、時の権力者がエルフ族の助けを借りた記録が残されていた。
その恐ろしいほどの魔法の威力は、他の追随を許さない。
「なんとしてでも、帝国より先に、我等が隷属しなくてはならないというのに……」
エリオットの呟きに、ダグラスは内心でため息を吐いた。
(これが、この方の本音なのだろう……)
そんなのは、分かり切っていたことだ。
魔王への備えなど建前で、王太子エリオットの頭には、帝国への競争心、敵愾心しか存在しない。
まだ見ぬ魔王より、目の前の敵国。
彼にとって、魔王降臨の噂は軍備を増強する為の体の良い言い訳でしかなかった。
「良いな、必ずやエルフを連れてくるのだ!」
ダグラスが深々と頭を下げる。
エリオットからは見えぬその表情は、苦渋に満ち溢れていた。
(次の犠牲者はエルフか……大義名分の元に、我等はどれだけの犠牲を払えば良いのだ?)
異世界からの勇者を召喚する為に、多くの罪人の命を捧げた。
そして呼び出した異世界の住人は──彼ダグラスが自ら魔の森に放逐した。
今更ながらに、あの女性の怒りと絶望に満ちた黒い瞳が脳裏に焼き付く。
(恨まれているだろうか……いや、もう彼女は恨むことすら出来ないのだな……)
か弱い女性が一人、魔の森で生きていけるはずもない。
自分を恨んでくれとさえ言えない。
あとどれだけの罪を重ねたら、解放されるのか……いや、そもそもこの日々に終わりは来るのか。
謁見の間を立ち去る足音は、酷く重かった。









