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追放召喚者のダンジョンには、最強竜と魔狼(もふもふ)が住んでいます ~魔力SSSで始めるスロー・ダンジョンライフ~  作者: 黒猫ている


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17:ノンデリドラゴンのプレゼント

「な、なんだこれは、肉がとろけるぞ!?」

「うまぁ……」

「待ってくれ、どんな味付けをしたらこうなるんだ!!」


金網の上で焼いた米沢牛に、エルフ達が舌鼓を打つ。

味付けは大手メーカーの焼肉のタレと、アウトドア用の万能スパイスを用意。

お好みの味で、たっぷりと焼いたお肉を味わえるようになっている。


いくつも並んだコンロで、次々に和牛が香ばしい焼き色を付けていく。

落ちた脂が、炭の上でジュッ……っと音をたてる。


「さあさあ、おかわりはいっぱいあるから。どんどん焼いて、どんどん食べて!」


最初はバーベキュー用品の使い方が分からなかったエルフ達も、目の前で焼いてみせているうちに、使い方を覚えたようだ。

今では自分達でパックから肉を取り出し、網の上で焼いている。


「こっちの野菜も凄いぞ!!」

「うまぁ……」

「野菜って、こんなに甘かったんだな……」


網の上でこんがり焼き目を付けた野菜も、大好評。

当然、私がクリエイトしたのは日本のスーパーで売っている野菜だ。

バーベキューでは定番のタマネギ、ピーマン、トウモロコシに、キノコ類など。

特にこの世界には存在しないらしいキノコ──エリンギに、エルフ達は興味津々だった。

結果、食感にハマる人が続出。

今では一番人気になっている。


「これはなんだ、見たことがない」

「ああ、それは海老だね」

「えび?」


バーベキュー用に取り寄せた殻付きの海老は、いっぱいついている足が先ほどのギガントセンチピートルを思わせるのか、エルフ達は少し引いている。


「海鮮の一種だよ。これは海で獲れた海老なはず」

「どうして海で獲れた物が、ここに?」


説明を後回しにしたもんだから、エルフ達は疑問だらけになってしまった。

それはそれとして、美味しい食材には夢中になっている。

エルフが美食家ってのは、本当のことみたい。


「まさか、あんな不気味な生物が、こんなに美味しいとは!」

「うまぁ……」

「すごい、身がぷりっぷり」

「こっちのスパイスと、よく合うぞ!」


うんうん、分かる分かる。

網の上で焼いた海老には、シンプルで風味豊かなスパイスがよく合うよね。

って、なんかさっきから「うまぁ……」しか言っていない食いしん坊さんが居るな。


陽はとっぷりと暮れて、星空の元、焚き火の明かりが煌々と大自然を照らし出す。

いつの間にかバーベキューに交じっていたヴィルベルは、レムスが焼くお肉を黙々と口に運んでいた。


……何よ、いつも通りなんじゃない。

それなら、こっちに来てくれてもいいのに。

こちらから近付くのもなんだか(しゃく)な気がして、ひたすらガルムの為のお肉を焼き続ける。


ガルムは、和牛が大好きだものね。

いっぱい食べて、大きくなるんだよ~……って、今でも凄い成長スピードで、驚くくらいなんだけど。

数日での成長ぶりは、目を見張るばかり。

やはり普通の犬とは違うんだなぁって、実感してしまう。




「……して、スズカ殿はどのような事情をお抱えなのですか?」


皆が程よくお腹いっぱいになった頃、口を開いたのは、エルフのおじいちゃん──里(おさ)だった。

皺だらけの目元には、鋭い光が宿っている。


「私ね、ロドニー王国の王太子によって、異世界から召喚されてきたの」

「なんと……!?」


驚いたのは、長だけではない。

周囲に居るエルフ達も皆、息を呑む。


「異世界からの召喚は、大いなる犠牲と引き換えに行われると聞きましたが……」


長の息子、アンドルーが怪訝そうな顔をする。


「そうなんだってね。でも、召喚された私は……彼等が望んでいたような、戦闘向けのスキルを持っていなかったの」


今思い出しても、腹の立つ話だ。

そうして殺されるはずだったところを、騎士団長の温情で一命を取り留め、このダンジョンに辿り着いた。


「この魔の森に放逐された時は、もうこのまま野垂れ死んでしまうんだろうなって覚悟したわ。でも、ガルムが守護していたダンジョンに辿り着いた」

「クゥン……」


私を心配してか、膝の上にガルムが擦り寄ってくる。

あの頃は生まれたての子犬みたいだったのに、こんなに大きくなっちゃって。

ほんの数日しか経っていないのに、もう長い年月が経ったかのように錯覚してしまう。


「そしてガルムと仲良くなって、ダンジョンマスター権限を引き継いで、管理ゴーレムのレムスやヴィルベルがやって来て、今に至る……ってわけ」

「そうか、だからロドニー王国から逃げる我等を受け入れてくれたのだな」


アンドルーの言葉に、小さく頷く。


「ここにある道具も、食材も、全て私が持つ異世界の知識を元に、ダンジョンの機能で作り上げたものなんだ」


エルフ達はすっかりテントの張り方を覚えたみたいで、今日の寝床が出来たと、皆大喜びだ。

聖域の一角が、今はまるで大賑わいのキャンプ場みたいになっている。


「どおりで、見慣れぬ物ばかりなはずですなぁ」


里長が、長い顎髭を撫でる。

皺だらけのおじいちゃんになっても渋くて格好いいんだから、エルフって得だなぁ。


「一応、今の話は秘密にしておいてね。皆には色々と変な物を見せてしまったから、素直に話したけど……」

「そうですよ、マスターは危機感が薄すぎます」


慌ててエルフ達にお願いすると、レムスが呆れたようにため息を吐いた。


「貴女が生み出す物にどれほどの価値があるか、お分かりですか? こんな物、どの国でも喉から手が出るほど欲しがります」


レムスの苦言に、エルフ達も一斉に頷いている。


「まぁ……たとえどこかの国が一丸となって攻めてきても、なんとかなるかなーって」


ダンジョン機能でモンスターも生み出せるし、何より、地下61階から70階までの死の大地を模した階層には、ドラゴン達が住み着いている。

早々やられることはないだろう。

なんと言っても、死黒竜と呼ばれるヴィルベルも居るしね。


「ダンジョンが何とかなったとしても、エルフの誰かが捕まらないとは限りません」

「あ……」


そっか。

誰かが地上に出た時に、ロドニー王国に捕らえられ、尋問にかけられるってことは有り得るんだ。

そこまでは考えていなかった。


「……役立たずと判断して、処分しようとしたのは向こうなのに……」


やっぱり、納得がいかない。

しゅんと肩を落として俯く私の前に、大きな影が立ち塞がった。


「人間なんて、そんなものだ」

「……?」


顔を上げると、そこにヴィルベルが立っていた。

彼の手には、綺麗な──花が握られている。


え、なんで花?

ヴィルベルと花なんて、これ以上ないくらい似合わない組み合わせだ。

気まずさを忘れて、ぽかんと口を開けてしまう。


「……なに、これ」

「花だ。人間の男は、女性に花を贈るのだろう?」


……また妙な知識を仕入れてきたよ、この人。


「お前にこのダンジョンの花を贈るのも違うと思ったから、地上まで行って、採ってきた」


さっき怒鳴りつけた後、姿が見えなかったのは……地上まで行ってこの花を摘んできたからなの?

ますます、ヴィルベルらしくない。

喜べばいいのか、まだ怒るべきか、どうして良いか分からずに……ただ、顔がやけに上気している気がする。

頬が熱い。


「仲直りしたり、機嫌を取る時には、花が一番と書かれていた。どうか、受け取ってはくれないか」

「う、うん……」


あまりに不器用で、ぶっきらぼうな言い回し。

それでもヴィルベルはヴィルベルなりに私を怒らせてしまったことを気にして、仲直りする為の方法を考えてくれたんだ。


「……ありがとう」


ヴィルベルの大きな手から、花を受け取る。

薄ピンク色の、可愛らしい花びら。

今はまだ蕾だけれど、きっと綺麗な花を咲かせるんだろうなぁ。

嬉しくなって、蕾を指先でそっと突いたら──、


……パクリと食いつかれた。


「……は?」


ちょっと待って。

この世界の花って、人の指に食いつくの?

私の足元で、ガルムが毛を逆立てて吠えている。


いや、ビックリはしたけれど、痛くはない。

はぐはぐと甘噛みされている気分。

そう、痛くはないのだけれど……。


「これ、何の花?」

「大陸の南方に咲く、食虫植物だ」

「人に贈る花に、食虫花を選ぶなー!!」


悪びれることのないヴィルベルに、全力で突っ込んでしまった。

周囲で、エルフ達が笑いを堪えて肩を震わせている。

いいよ、いっそのこと思いっきり笑ってくれよ。

何よ、せっかく許してあげようと思ったのに!!


「珍しい花が良いだろうと、わざわざ探してきたのだぞ? しかも戦えぬスズカでも大丈夫なように、芽吹いたばかりの幼い株を選んだのだ」


心外そうに答えるヴィルベル。

ああダメだ、いくら漫画から日本の常識を学んでいるとはいえ、こいつとはわかり合える気がしない……。


そもそも、人間ですらないんだものね。

世界も違えば、種族も違う。

日本人の常識なんて、通用するはずがなかった。


……怒っていたのが、段々と馬鹿らしくなってきた。


「はぁ……」

「なぜそんな反応になる」


ため息を吐く私に、ヴィルベルが首を傾げる。

こいつは本気で、私が喜ぶと思って、食虫花を選んできたのか。

独特過ぎる感性でしょ……。


「ちょっと失礼」


そんな中、私の手元をエルフの里長が覗き込む。

長い眉毛の下で、彼の瞳が大きく見開かれた。


「これは密林にしか生えていないという、あのベビアの花では……!?」

「ベビアの花?」

「さよう、その種は恐ろしく貴重で、万病に効くと言われております」


長の言葉に、ヴィルベルがどことなく得意げな顔をしている。

まったく、現金なんだから。


「ベビアの花が咲くところには、恐ろしいモンスターが数多く棲息しているはずですが……」

「そんなもの、俺の敵ではない」


機嫌を良くしたヴィルベルが、ふんと鼻を鳴らす。


「あの、この方はいったい……」


エルフ達にとっては、きっと最大の疑問だったのだろう。

威圧的なオーラは常人の放つものではないし、一人で、しかもこの短時間で南方まで花を取りに行くなんて、もはや人間業ですらない。


「ああ、彼は……死黒竜、だっけ?」

「他の者は、皆そう呼ぶな」


私の言葉に、ヴィルベルが誇らしげに頷く。

最初は彼のことを“四国竜”だと思っていたんだよなぁ。

それすらも、懐かしく感じてしまいそうになる。

実際には、ほんの数日前のことだというのに。


「死黒……!?」


通り名を理解した瞬間、エルフ達が全員あんぐりと口を開けた。

……彼等、今日一日で一生分の驚きを味わったんじゃないかしら。


「うちの居候なの。その縁で、途中の階層にはドラゴン達も住み着いているけれど、襲わないように言っておくから、仲良くしてね」

「は、はい……」


怯えて良いのか、驚けば良いのか……エルフ達が浮かべる表情は、なんとも複雑だ。

一部からは、乾いた笑いが上がっている。


「別に、話してみれば怖くないのにね」

「そんなのは、お前くらいだ」


そうなのかな?

見上げたヴィルベルの顔は、こちらからは表情を窺い知ることは出来ない。


「……それよりも、スズカ」

「なに?」

「“のんでり”とは、どういう意味だ」


あー……。

ノンデリドラゴンって言ったことを、気にしているのか。

そうだよね、こんな言葉、普通の辞書には載っていない。

日本語勉強中の彼等に、英語の勉強までさせるのは、流石にやり過ぎな気がするし。


「えーと、デリカシーがない人……つまりは“思いやりに欠ける”とか、無神経だったり、“女心が分かってない”って意味かな」

「俺は無神経なのか!?」


あれ、そこでショックを受けるんだ。

そんなこと、気にするなんて思ってもみなかった。


「まぁ……今回に関しては、私もうるさく言い過ぎた。っていうか、最初っからちゃんとこれはダメ、ここまではOKって線引きを決めておくべきだったね」


家族ですらない、赤の他人との共同生活。

何の取り決めもなしに上手く行くなんて、そんな期待を抱く方が間違っている。


「おやおや、これが“雨降って地固まる”というやつですか?」


レムスが、覚えたてのことわざを披露する。


「別に固まってないし」

「そうでしょうか」


クスクスと笑われるのが、なんだかむず痒い。

エルフ達の視線も、生暖かく感じられて……妙に気恥ずかしい。


それにしても、食虫花なんてもらっちゃって、どうしたらいいの。

まだ幼い株という話だし、鉢にでも植えて飾ろうかなぁ。


寝ている間に食べられたりしないよね……?

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