16:ようこそ、聖域へ
小型のトランシーバーをクリエイトして、一つは管理室に設置、もう一つは私が持って、残る一つをエルフ達に渡しておくことにした。
地下90階に移転すると、エルフのリーダーがこちらに駆け寄ってきた。
「スズカ殿!」
「はい、これどうぞ」
トランシーバーを渡して、簡単に使い方を説明する。
しきりに首を捻っていたが、私が持つトランシーバーと実際にやりとりが出来ることを示せば、驚きながらも納得してくれた。
「このようなマジックアイテムを所持しているなんて、スズカ殿は一体……」
「うーん、マジックアイテムではないんだけどね」
どちらかというと、科学の力です。
とはいえ、そんなことを説明しても、通じる訳がない。
「一応、無限に使える訳じゃないんだけど……定期的に、電池の交換に来るわ」
「電池?」
「ええと、これの動力みたいなの……」
聞き慣れない言葉に、エルフ達が首を傾げてしまった。
こんなの、どう説明したら良いものか。
「なるほど、魔石みたいなものか」
説明するまでもなく、勝手に納得してくれた。
この世界には、魔石なんて物もあるのか……。
何はともあれ、トランシーバーを渡すという用事を終えて、地下90階フロアを見渡す。
エルフ達は方々に散り、資源や食料を集めているようだ。
「当分は、野宿になりそうですね」
家が準備出来るまでは、まだ暫くかかるだろう。
「構わない。我々エルフは、森で暮らすことに慣れている」
「せめて、今夜くらいはこちらでご飯を用意しますよ」
……なんてのは、ただの建前だ。
本音は、今ヴィルベルと顔を突き合わせてご飯を食べるのが気まずいから。
口を開けば、文句ばかり言ってしまいそう。
「クゥン……」
そんな私の心情を察してか、護衛とばかりについてきたガルムが、心配そうにこちらを見上げていた。
「では、お言葉に甘えるとしよう」
エルフのリーダーが、頭を下げる。
「そういえば……エルフの皆さんって、お肉は大丈夫ですか? ベジタリアンだったりはしないのかな」
「野菜は好きだが、肉もそれ以外も食べる。強いて言うなら、エルフは長い年月を生きる為に、美食家が多いと言われているな」
なるほどー。
それなら、人数も結構居るし、あのメニューで問題なさそうだね。
「じゃ、今夜はバーベキューにしましょう!」
「ばーべきゅー?」
エルフ達が、再び首を傾げる。
ただ一人、ガルムだけがよく分からないなりに美味しそうな雰囲気を感じ取ったのか『ワオン!』と元気よく吠えた。
という訳で、陽が暮れる前にバーベキューの準備開始。
管理室に戻ってキャンプ&バーベキュー用品をクリエイトして、次々地下90階に運ぶ。
一度私がクリエイトしたアイテムは、レムスもクリエイト出来るようになるから、後は簡単だ。
炭とバーベキューコンロ、お肉とお野菜も忘れてはいけない。
クリエイトした和牛詰め合わせパックを見て、ガルムが目をキラキラと輝かせた。
「ガルム、まだ食べちゃダメよ」
「バゥッ」
注意すると、ビクリと身を竦める。
その間も、視線はお肉に釘付けだ。
お肉、美味しいもんね。
でも、火を通してタレを付けた方が、もっと美味しくなるから。
もうちょっと待っててね。
いつもならヴィルベルも一緒に居て、つまみ食いをしようと手を伸ばしてきたりするのに……食いしん坊二大巨頭の片割れの姿は、今ここには無い。
ええい、あんな奴のことなんか、知るもんですか。
私があれこれ気を揉む必要はない。
悪いのは、向こうなんだからね!
「相変わらず、不思議なものですね……」
レムスも、また和牛パックに興味津々だ。
こちらは食欲ではなく、知識欲みたい。
「こめ……さわ?」
「それは米沢牛って読むの。米沢というのは地名なんだけど、ここで飼育される牛は一級品と言われているの」
ヴィルベルだけではなく、レムスも日本語を勉強している。
普通の日本語ならば大分読めるようになってきた。
流石に地名は読み方を覚えないと難しいみたいだけれどね。
「マスターの世界では、獣の肉がこのような形で売られているのですか?」
「うん。保存技術も発達しているから、国のどこに居ても買えるよ」
「ふむ、あの冷蔵庫と冷凍庫を見れば、納得ですね」
後は焼肉のタレにお野菜、焼きそばなんかもあった方がいいかな。
紙皿に、紙コップにと思いつく限りの道具をクリエイトして、ついでにキャンプ用テントと毛布も多めに用意しておこう。
気付けば、かなりの量になってしまった。
「手分けして、運ぼうか」
レムスにも協力を仰ごうとしたが、彼の視線は監視モニターに向いていた。
「マスター、再び侵入者です」
「えっ」
慌てて、私も監視モニターを凝視する。
入り口からゾロゾロと入ってきているのは──エルフ族の一団だ。
聖域に避難したエルフ達とは違う、働き盛りの男性エルフばかり。
彼等が、里に残っていたエルフ達だろうか。
「じゃ、レムスはこれを運んじゃって。私は彼等を迎えに行ってくる」
「かしこまりました」
大量の荷物はレムスに任せて、ボディーガードのガルムと共に、地上階に転移する。
エルフ達は最初こそ驚いたものの、呼びに行ったエルフから既に話は聞いていたらしく、素直に私の指示に従ってくれた。
彼等を引き連れ、ダンジョンマスター権限で全員地下90階に転移。
そこに広がった光景に、再びエルフ達があんぐりと口を開けた。
「本当に……こんなダンジョンの奥深くに、聖域が……」
「まさか、あれは世界樹……!?」
「なんという、ここは精霊の楽園か!!」
エルフ達が口々に声を上げる。
中でも一番年老いた長髪のエルフは、白い物が交じった髭を震わせ、目に涙を溜めていた。
そこまで喜んでくれると、こっちまで嬉しくなっちゃうなぁ。
「父さん!!」
「おお、アンドルー」
そこへ、先に到着したエルフ達のリーダーがやってきた。
どうやら涙もろいお爺ちゃんエルフが里の長で、青年──アンドルーはその息子らしい。
「よくぞこれほどの土地を見付けてくれた」
「全ては精霊の導きです」
そして私の方を向いて、手を差し伸べる。
「こちらがこのダンジョンのマスター、スズカ殿です」
「かたじけない、世話になる」
里長だけではない。
他のエルフ達も、皆一斉に頭を下げる。
自分より遙かに年上だろうエルフにこんな風にされると、なんだかむず痒い。
「顔を上げてください。私はたまたま、空いている土地を提供するだけですから」
そう、気分は大家さんだ。
せっかくなら、賑やかな方が楽しいよね。
「何より……ロドニー王国には、私も腹を据えかねているんです」
あいつらに迫害される人々を、放ってはおけない。
幸いにして、私にはこれだけの大きな“家”がある。
皆を守るだけの、立派な家が。
絶対に、ロドニー王国の連中に、荒らさせやしないんだから。
私が唇を噛みしめると、エルフの青年アンドルーが、僅かに目を細めた。
「スズカ殿も、そのような目に?」
「ええ、まぁ話せば長くなるんですが……」
このダンジョンで一緒に暮らす以上は、こちらの素性もある程度話しておいた方が良いだろう。
既にトランシーバーとか言う、この世界では未知のアイテムまで渡してあることだし。
でも、それより何より──。
「まずは、歓迎会といきましょ!」
腹が減っては戦は出来ぬ……ってね。
お腹を満たして、詳しい話はそれからだ!









