表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~  作者: 廻り


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/45

34 聖竜城へ1


 外へ出るとすでに雨は上がり、夜空には無数の星が瞬いている。


「暗いですから、俺の手を握っていてください」

「はいっ」


 こうすると本当に、卵を授かったカップルのようだ。

 彼はこの状況をどう思っているのだろう。ちらりと彼の横顔を窺ってみる。

 けれど彼の表情は決して、卵を授かり幸せな親の顔ではない。


(そうよね……。きっと私達は、卵が孵化するまでのご縁だもの……)





 本日最後のお客を見送ったイアンは、後片付けをしながらクローディアとオリヴァーの事が心配になっていた。

 昼間にあのようなことがあったので、二人の仲はさらに悪化していてもおかしくはない。


「また、誤解を生んでいなければ良いけどなー……」


 ぼそりとそう呟いていると、店のドアベルがからんからんと鳴った。もしやと思い扉に注目すると、店に入ってきたのは予想どおりオリヴァー。続いて、クローディアも入ってきた。


「おっ! いらっしゃいお二人さん」


 イアンの心配は取り越し苦労だったようだ。安心しつつ笑みを浮かべるも、二人の表情がなぜだが暗い。

 クローディアは卵が入っているカバンを抱いているし、オリヴァーは彼女のトランクケースを携えている。どうみてもこれから首都に戻るように見えるが、何故だろう。


「これからディアを連れて聖竜城へ戻ります。彼女の荷物と、別荘の後処理をお願いします」

「承知いたしました、殿下」

「あの……。イアンは全て知っていたの?」


 彼女は不思議そうにイアンを見つめる。どうやらオリヴァーは事情を何も話していないようだ。


「秘密にしていて、ごめんなディア。俺は今、殿下の部下なんだ」

「それじゃあ、聖竜騎士団に戻れることになったというのは……」

「殿下が話を通してくれたんだ」


 その代わり、クローディアに不便がないよう見守るというのが条件だった。元々イアンは、彼女の保護者みたいなもの。卵の事情を聞いて協力したい気持ちもあり、イアンはその条件を受け入れた。


「そうだったの……。イアンにも迷惑をかけてしまったわね」

「迷惑なはずないだろう。俺にとってディアは、角の治療をしてくれた恩人だ。卵と再会して、幸せになってもらいたいと思うのは、当然じゃないか」


 そう伝えるも、クローディアはうなずくだけで下を向いてしまう。


「もしかして……、俺と別れるから寂しいのか? 心配しなくても、すぐに荷物をもってそちらへ行くから。聖竜城では、ディアの護衛をすることになっているんだ」

「……本当に?」

「ああ。俺は生涯、ディアに仕えるつもりだ」

「イアンが傍にいてくれたら心強いわ。ありがとうイアン!」


 やっとクローディアにも元気が戻ってきたようだ。思いのほか彼女に懐かれていたようで、イアンも悪い気はしない。

 ぽんぽんとクローディアの頭をなでたところで、殺気を感じたイアンは身震いする。


 おそるおそる殺気の元へ視線を向けると、オリヴァーが物凄い形相でイアンを睨みつけていた。


「ディア、もう行きましょう」

「はい……。イアン、また後日にね」


 慌ただしく出て行く二人を見送ったイアンは、やれやれと溜息をついた。


「殿下の嫉妬深さも、相変わらずだな」


 初めて山でオリヴァーと出会った日とのことは、未だに鮮明に思い出せる。

 あの時の状況は、同じく竜に変化できるイアンでなければ、殺気に当てられて気絶していただろう。


 けれど、それだけオリヴァーはクローディアのことを大切にしている。彼に任せておけば、きっと彼女は幸せになれるはずだ。


 絶妙にかみ合っていない二人の事情を知らないイアンは、呑気にハッピーエンドを想像していた。




 オリヴァーに強引に手を引かれて、クローディアは外へと出た。そのまま彼に連れられて、広場へと向かう。

 この時間になると、大通りや広場にはほとんど人がいない。彼はここで竜に変化するつもりのようだ。


(イアンが監視役になってくれて良かったわ)


 先ほどのイアンの話を聞いて、クローディアは少し安心していた。

 幽閉なのか牢屋なのかはまだわからないが、イアンが一緒にいてくれるだけでも気分的に大違いだ。


「オリヴァー様。イアンを私につけてくださり、ありがとうございます」

「……ディアは、イアンが好きですか?」

「大好きです。イアンに出会えたおかげで、この町でも楽しく暮らせましたわ」


 イアンがいなければ、世間知らずなクローディアはまともな暮らしができなかったはず。彼は角の治療に対しての恩を感じているようだが、クローディアもそれ以上に彼に感謝している。


「……俺も努力します」

「え?」

「ディアのためなら、どのような努力も惜しみません。ですから……」


 オリヴァーは何かを言いかけようとしたが、諦めたように口を噤む。

 そして気を取り直すように、クローディアへ微笑みかけた。


「卵を必ず孵化させましょう」

「はいっ。私もがんばりますわ」


(オリヴァー様も不安なのね)


 異例な状況で授かった卵を、これまで彼は一人で温めてきた。母親が誰かわからない状況では、卵がどうなるか心配だったはずだ。


 クローディアはこれまで、卵を授かったカップルの悩みを何度も聞いては助言してきた。乙女ゲームでも、ヒロインの質問に答えるのが筆頭聖女の役目。

 卵を無事に孵化させる方法は熟知しており、それなりに自信もある。きっとオリヴァーの役に立てるはずだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ