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脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~  作者: 廻り


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32 日常の中で5


 夕方になり、外はしとしとと雨が降り出した。その雨は次第に強くなり。林の木々に降り落ちる雨粒の音が、騒がしいくらいに響き渡っている。


(まだ、いらっしゃるわ……)


 締め切ったカーテンの隙間から外を覗いてみると、木の陰にはいまだにオリヴァーらしき人影が見える。

 木の下にいるからといっても、全く雨に当たらないわけでもないだろうに。彼は一向に動こうとしない。

 このままクローディアが就寝するまでいるとなれば、彼はずぶ濡れになってしまう。


 つきまといに対して怒っていたクローディアだが、雨が降り出してからは心配ばかりが募る。

 寒い思いをしていないか。風邪を引いたらどうしよう。


 迷ったあげくにクローディアは、傘を二本持って外へと飛び出してしまった。


「お客さま! そちらにいらっしゃるのでしょう! お願いですから、もうお帰りください!」


 窓から覗いた時は確認できたが、素早い彼は木の後ろにでも隠れているようだ。玄関からは姿が見えない。

 クローディアは傘をさして林へと歩き出した。姿は見えずとも、大体の場所は把握している。


「私は、お客さまの卵が無事に孵化することを、心から願っておりますわ! ですからどうか、婚約者様の元へお戻りください!」


 何が目的なのかわからないが、いつまでもこのままではいけない。

 彼は王太子であり、この国の未来を背負っている。

 あの卵が孵化しなければ、王家の存続が危ぶまれてしまう。


 オリヴァーがいるであろう辺りの少し手前で立ち止まってみる。けれど彼は姿を現さない。

 大量の雨粒が、まるで二人の間に柵を立てているようだ。


(私、オリヴァー様を拒否するばかりで、彼の気持ちを聞いていなかったわ……)


 ここまでするには、彼にも理由があるのかもしれない。

 それを聞いて、お互いに納得しなければ解決しないのではないか。

 

 そう思ったクローディアは一旦心を落ち着かせてから、静かに声をかけてみる。 


「オリヴァー様。私とお話ししてください」


 するとオリヴァーは、静かに木の影から姿を現した。


「やっと。名前で呼んでくれましたね」

「…………っ」


 雨に濡れているせいで、彼は微笑んでいるのに泣いているように見える。

 クローディアが拒絶するたびに、寂しそうな顔をしていた彼を思い出して、心が痛む。


「……まずは、傘をお使いください」


 もう一本持ってきた傘を、彼に差し出そうとして、足を踏み出す。

 すでに靴の中には大量の雨水が入り込んでおり、足先は冷えてしまっている。上手く足を踏み出せなかったクローディアは、滑って倒れ込みそうになる。


「きゃっ!」


 そこへ素早く動いたオリヴァーによって、クローディアは彼の腕に受け止められる。


「大丈夫ですかディア!」

「ありがとうございます……。地面が滑っただけで……。えっ? あっあの……!」


 彼はそのままクローディアを抱えあげると、別荘へと走り出すではないか。

 拒絶していた相手に助けられるとは、情けない話だ。クローディアは恥ずかしくてうつむいた。



 玄関の中へと入ったオリヴァーは、近場にあった椅子にクローディアを座らせ。すぐに彼女の足首の確認を始めた。


「痛みはありますか?」

「大丈夫です……」

「すみません。俺のせいでディアを危険に晒してしまいました」


 彼は荷物の中からタオルを取り出すと、丁寧にクローディアの両足を拭き始める。


(私、何をしているのかしら……)


 彼に手を差し伸べるつもりが、逆に世話されている。

 いたたまれない気持ちになり、作業する彼の手を止めさせた。


「私はもう、大丈夫ですから……。それより、オリヴァー様のほうが心配ですわ。今、お風呂の用意をしますね」

「俺のことは気にしないでください。すぐに出ていきますから」

「いけませんっ。おとなしくお風呂に入って、着替えてくださいっ」


 出て行こうとする彼の袖を、咄嗟に掴んで引き止める。

 振り返った彼は、照れたように顔をほころばせた。

 

「ディアに心配されると、嬉しいです」


 これだから、彼を憎むに憎めないのだ。

 諦めたように微笑み返したクローディアは、彼を浴室へと案内した。




 オリヴァーをお風呂に入らせている間に、クローディアは二階にあるクリスの寝室へと入った。


(申し訳ありません、クリス様。着替えをお借りします)


 心の中で謝ってから、チェストの引き出しを開けて着替え一式を取り出す。クリスの服では少し大きいかもしれないが、そこまで差はないはずだ。



「オリヴァー様。クリス様から着替えをお借りしましたので、置いておきますね」

「何から何まで、すみません。――ディアが沸かしてくれたお風呂は温かいです」


 浴室に向かって声をかけると、彼からほんわかした声が返ってくる。


「ふふ。ゆっくり温まってくださいませ」


 気持ちに蓋をせずに彼と話すのは、すごく久しぶりな気がする。

 お祭りから一ヶ月も経っていないが、クローディアにとってはとても苦痛な期間だった。

 好きな相手を拒否するのは、思いのほか精神的な消耗が大きい。

 彼と話し合いをするまで、少しの間だけ心の休憩をしたい。




 玄関へと戻ったクローディアは、置きっぱなしだった彼の荷物を居間へと運んだ。

 スエードのカバンなので、中は無事のようだが表面はすっかり濡れている。暖炉に火を入れて、乾かさなければならない。


(中身は大丈夫かしら……)


 もしかしたら本当に、調査もしていたかもしれない。

 調査機材を暖炉の前においても大丈夫だろうかと、クローディアは心配になる。


(精密機械が入っていないか調べるだけよ……)


 申し訳ない気持ちになりながらも、クローディアはカバンの中身を確認することにした。

 そっとカバンの中を開いたクローディアは、瞳を大きく見開いた。


(卵が入っているわ……)


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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

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