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脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~  作者: 廻り


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25 町のお祭り5


 ジュースを飲み終えた二人は、当てもなくお祭り会場を回っては、気になるものを見て楽しんだり、クローディアが初めて見る食べ物を一緒に食べたりして楽しんだ。


「白いものがたくさん売っていますね」


 白竜の商品を売ることができない代わりに、露店ではさまざまな白い物が売られている。白い動物をモチーフにした小物や、白い花の飾り。砂糖がたっぷりとかかったお菓子なども、たくさん売られている。


 クローディアにとっては珍しいものばかりで、見ているだけでとても楽しい。

 それらをオリヴァーは丁寧に説明してくれる。彼にとってはさほど珍しいものではないようだ。それでも一緒に見て回る彼の顔は、少年のように生き生きとしている。

 オリヴァーもお忍びのお祭りを、楽しんでくれているようだ。


(お誘いしてみて、良かったわ)


 彼を見ながら微笑むと、彼に手を引かれる。


「あちらに、ディアに似合いそうなものがありましたよ」


 率先して露店を連れまわしてくれる彼が、なんだか可愛く思えてくる。次は何を見せてくれるのだろうとついて行く。そこは、白い石のアクセサリー屋のようだ。


「わぁ……。綺麗……」


 乳白色の石がさまざまな形に加工されている。光の加減でキラキラと光っていて、まるで白竜の鱗のようだ。


「こちらは、ロスウィル公爵領で採掘されている石で別名、白竜石と呼ばれています。加工がしやすいので、アクセサリーなどによく使われます」


 他にも、竜を輩出できる家門の領地には、竜の色をした石が採れるのだとか。竜と関係があるのか、調査などもおこなわれているそうだ。

 オリヴァーはそういったことに興味があるのか、楽しそうに話してくれる。

 それをクローディアが熱心に聞いていると、店主が話しかけてきた。


「そこのお二人さんは恋人同士かい?」


 店主の視線は、二人が繋いでいる手に向かっている。これは単にはぐれないためだが、店主にはそう見えたようだ。


「えっ……あのっ……」


 クローディアは慌てて手を離そうとしたが、彼に強く握りしめられてしまった。

 彼はこの状況を気にしていないのか、店主との会話を続ける。


「何かお勧めがありますか?」

「領地外から来たようだね。カップルは皆、ブレスレットを買っていくよ。ペアでつけると、永遠に一緒にいられるって言い伝えがあるんだ」


 店主は親切心で教えてくれたようだが、あいにくクローディア達はカップルではない。

 けれどオリヴァーは、にこりとクローディアの顔を覗き込んだ。


「良ければ、今日の記念に一緒につけませんか?」

「あの……」


 嬉しい提案ではあるが、さすがに友人の域を超えてはいないかと心配になる。

 するとオリヴァーは、拾ってくれと懇願する子犬のような顔でクローディアを見つめた。


「俺にはディアとの間に、形に残る思い出がひとつもありません……。せめて今日の楽しい思い出を、形に残させていただけませんか?」


(あ……。私には懐中時計があったけれど、オリヴァー様には……)


 急に別れてしまったせいで、クローディアは彼に贈り物の一つも渡せなかった。クローディアにとってはあの懐中時計が慰めになったが、彼にはなにもなかったのだ。

 彼も同じく友情を大切に思ってくれていたなら、どんなに寂しかったことだろうか。


「よろしければ、オリヴァー様の分は私に贈らせてください」

「嬉しいです。ディア」


 こればかりは、クローディアがお金を出すことに彼は喜んでくれた。

 このブレスレットがあれば、これからも前を向いていられると。

 クローディアも同じ気持ちだ。彼がこの町を去った後も、これがあればずっと友情が続いているように感じることができる。


 二人で選んだのは、星の形に加工された白竜石のブレスレット。彼は、星の思い出も覚えていてくれたのだ。


 露店を出た二人は、同時に腕を空へとかざした。同じことをしようとしていたのがおかしくて、二人で微笑み合う。


「昼間に見る星も綺麗ですわね」

「はい。今夜は本物の星も、ディアと一緒に見たいです」

「私もオリヴァー様と一緒に見たいです」


 今夜はとうとう、長年果たせなかったことを果たせる。彼はどの星座が好きなのだろうか。星を見ながら話すのが楽しみだ。

 いつか二人で星を見たいと思い、クローディアは神殿の図書室で星座を勉強したことがある。

 成長するにつれて、その機会は無いかもしれないと諦めてしまったが、まだ少しは覚えているはずだ。

 

 夜を待ち遠しく思っていると、辺りがざわめき出した。


「白竜だ! 白竜がきたぞ!」


 その声に釣られて、もう一度空を見上げると、町の周りを白竜が旋回しているのが見えた。日の光を浴びている白竜は、彼自身が光を放っているように美しい。


「クリス枢機卿だわ」

「彼はもう、枢機卿ではありませんよ」

「え……」


 思っても見なかった返事が返ってきて、クローディアは顔をこわばらせた。

 神殿内の責任は、クローディアが負うことで解決したと思っていたが。


(クリス枢機卿まで、責任を負わされたの?)


「心配しないでください。今の彼は教皇です」


 クローディアを追放した教皇は責任を取らされ辞任し、クリスが新しい教皇になったのだとか。

 忙しくてなかなか会いに行けないと、悔やむ手紙がクリスからと届いていたが。まさかそのような理由だったとは。

 クローディアは驚きつつも、全てが上手くまとまったような気分にさせられる。


「クリス様に任せていれば、神殿は安心ですね」

「ディアは、彼を信頼しているのですね」

「はい。クリス様にはずっとお世話になりっぱなしで。この町に住まわせてくれたのも彼なんです」

「俺があの時、ディアを庇っていれば……」


 オリヴァーは突然、悔やむように顔を歪める。


「オリヴァー様のせいではありませんわ。私の未熟さゆえの失敗ですもの」

「違うんですディア……!」


 切羽詰まった様子のオリヴァーは、何かを言いかけようとした。けれどクローディアは、聞きたくなくて彼の手を引いて歩き出す。

 どれだけ彼が慰めてくれようとも、事実はかわらないのだから。


「今日はすべて忘れて、お祭りを楽しむことに専念しましょう」

「……そうですね。俺もまだまだディアと楽しみたいです」

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