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脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~  作者: 廻り


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 クローディアはどうしてよいかわからず、逃げるようにしてカウンターへと戻る。

 そしてちらりとオリヴァーのほうを確認してみると、彼はカウンターがしっかりと見える位置に陣取り、絶やさずクローディアに向けて笑みを浮かべていた。

 目が合ってしまったクローディアは、慌てて視線をそらす。


「ディア。どうかしたのか?」


 急にイアンに呼びかけられて、クローディアはびくりと身体を震わせた。


「いえっ……、なんでもないわ」


(イアンは、オリヴァー様の素顔を知らないのよね……)


 彼はお客が王太子だとも知らずに、呑気にグラスを磨いている。

 仮面は無くとも、髪と角を見れば一目瞭然のはずだが、この国には付け角というものが存在する。ファッションとして若者がよく付けているので、オリヴァーのこともそうだと思っているようだ。

 クローディアも前世の記憶さえなければ、イアンと同じように心穏やかでいられただろうに。


 オリヴァーのほうも、誰も素顔を知らない前提で堂々としているのだろう。

 けれど乙女ゲームの記憶があるクローディアは、しっかりと彼の素顔を知っていた。


「それならいいけど。注文を取ってきてくれな」

「えっ……。私が?」


 心を落ち着かせてこの状況を整理しようと思っていたのに、クローディアはさらに追い詰められた状況となる。

 いつも男性客の接客はイアンがするのに、今日に限ってどうしたというのだ。「ディアが男性客に絡まれないか心配だ」と言い出したのは彼なのに。


「そろそろ男性客にも慣れただろう? あの客は無害そうだし、少しずつやってみようか」

「そっ……そうね。いつまでも、イアンには頼れないもの……」


 先ほどクローディアは、彼にそう宣言したばかり。きっと彼も、それを後押ししてくれているのだろう。


 筆頭聖女だった彼女は、皆の期待を裏切れない性格に育ってしまった。ここで、「できない」とは言い出せない。

 しっかりしなければと、自分に言い聞かせながらクローディアは注文を受けに向かった。


(とりあえず、私がオリヴァー様の顔を知っていると、悟られないようにしなければ)


 それでもオリヴァーに近づくにつれて、クローディアの心臓は忙しなく動き出す。

 前世の推しを間近で見られるという高揚感もあるが、もう話すことはないと思っていた幼馴染と話せる。その嬉しさが、徐々に心を満たしていく。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 そう尋ねながらテーブルを見てみると、彼はまだメニューすら開いていなかったようだ。

 王太子である彼は、庶民の食堂事情を知らないかもしれない。手取り足取り教えるべきか悩んでいると、彼は自らテーブルの脇に立てかけられてあったメニューを手に取り開いた。


 それからもう一度、クローディアに微笑みかける。

 その笑顔が素敵すぎて、クローディアは見惚れてしまった。いつも柔らかい口調の彼だったが、仮面の下にはこんな笑顔を隠していたのだろうか。


「こちらのお勧めを、教えていただけますか?」

「はっ……はい。本日のお勧めは、ビーフシチューセットです。それから、キノコと鶏肉のチーズグラタンも美味しいですよ」


 メニューのイラストを指しながら、本日のお勧めとともに自分が一番好きなメニューも勧めてみる。

 オリヴァーはそれらをじっくりと吟味してから、チーズグラタンのほうを注文した。


 問題なく注文を取り終えたクローディアは安心しつつ、イアンに伝えにカウンターへと戻る。


「オッケー。チーズグラタンな」


 イアンが調理を始める姿をぼーっと眺めながら、クローディアは昔を思い出していた。

 一緒に遊んでいた頃も、クローディアとオリヴァーは好きな食べ物が同じだった。

 それが今でも変わらないことが、たまらなく嬉しい。


 思わず「ふふ」っと笑みをこぼすと、イアンは作業していた手を止め視線を上げる。それから組んだ腕をカウンターに乗せると、覗き込むようにしてクローディアの顔を見た。


「ディア。顔が赤いけど、良いことでもあったのか?」

「えっ? 気のせいよ……」


 いつの間にか顔に出ていたようだ。恥ずかしくなったクローディアは、両手で頬を押さえる。


 するとテーブル席の奥から、がたりと大きな音が鳴った。

 何事かと二人がそちらへ視線を向けると、何故か焦った様子のオリヴァーが椅子から立ち上がって、カウンターへと顔を向けていた。


(なっ……なに?)


 両者に沈黙が流れる。

 それからオリヴァーは「ごほん」と咳払いをして椅子に座り直した。


(どうしたのかしら、オリヴァー様……)


 首を傾げながらイアンに視線を向けると、彼は急にテキパキと調理の手を早める。


「あー……。俺、調理に集中するから、悪いけど話しかけないでくれな」


 そちらから話しかけてきたのに、意味がわからない。

 今日のイアンはやはり変だ。

 この様子では、調理の手伝いはさせてもらえそうにない。仕方なくクローディアは椅子から立ち上がった。


「私は外の掃除でもしているわね」

「いや! ディアは、そこから動かないでくれ。なんならあの客と、お喋りでもしたらどうだ?」


 本当にどうしたのだろう、イアンは。

 昨日までは、むやみに男性と話すなというスタンスだったのに。クローディアの決意を後押しするにしても、急すぎないか。


「……ここにいるわ」


 オリヴァーと雑談なんて、急に言われても心の準備ができていない。ここに残るほうを、クローディアは選んでみた。


 しかし、やたらとオリヴァーから視線を感じる気がして居心地が悪い。

 よりによってなぜ、調理に時間がかかる料理をお勧めしてしまったのだろう。

 クローディアは少し後悔しつつ、その視線を耐えしのいだ。


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◆作者ページ◆

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