思ってた以上にヤバくなってきてる?
帰ってきたばかりなのにまた襲撃に出るのだとしたら、あの公園以外にも別の方向に徘徊する場所があるのだろうか?
杉本さんの犬仲間や獣医さん経由の情報から考えるとハネナガと契約した公園以外にもよく使っている場所はあるようではある。そう考えると、こいつもしかして動物を虐める為に出かけるのが主な1日の活動で、気分転換にオンラインで遊んでるの??
そこまでやっているにしては被害報告が少ない気がするが。
第一、そこまで生活が破綻していたらそれこそ人間もターゲットにしていてもおかしく無い。
人に見つからぬよう、用心するだけの自制心が残っているのだ。
一日中生き物を傷つける為に行動しているとも思えないけど。
そんな事を考えながら男が出てきたら取り押さえようと待ち構えていたのだが、北沢透は玄関からではなく、裏口から出た。
『そっちに何があるの?』
ハネナガに尋ねる。
『物置のような物があるな』
後を追ったハネナガの視界に集中すると、庭の奥に設置してある大きめな物置の扉につけた頑丈そうな南京錠を外した北沢透が中に入るところだった。
おやま。
物置の中って整理すると小さな実験部屋みたいになるんだ。
まあ、1畳サイズの個人用書斎があるのだ。
物置の中の棚の配置を工夫すれば十分作業台と棚のスペースになるよね。
しかも家から電源を引いてエアコンまで設置してあり、何やら蒸留器みたいのまで右側に置いてあり下に置かれたフラスコに液体が入っている。
滅茶苦茶怪しい実験室じゃん!!
家の中でやってないとは言え、庭の物置の中でこんな事やっていて家族は気付かないの??
・・・まあ、両親が共働きだったら平日の昼は自由か。
と言うか、発明家にでもなるつもりだとか言ったら怪しげな事をやっていても口出ししないのかも?
ガレージから起業なんてのが多いらしきアメリカならまだしも、日本で個人の発明家なんて実在するのか非常に疑わしい気がするけど。
物置であそこまで危険な酸を精製出来てしまうんだねぇ。
もしかしたら大学とか大学院では化学系を専攻していた可能性はあるから、『研究をしている』のだって嘘では無いのかもしれない。
どこかでやることが歪んだ様だが。
まあ、少なくともこんな設備を家の敷地に設けて手間暇掛けて危険な酸を精製しているんだから、これで人間を傷つければ『出来心で』とか言う様な言い訳は通用しないよね?
ペットを狙ったって言うのだって、リードをつけて散歩させている飼い主が側を歩いている状態で自転車から襲撃するなんて不確実な事をやるんだから、人間を傷つけても構わなかったんだろうし。
ハネナガの視界を小さくして、一応北沢透が出てこない事だけを確認しつつそっと裏に回る。
折角家から出ているのだ。
今のうちに色々確認しておこう。
◆◆◆◆
「え、もう見つかったの?!」
家に帰り、碧に北沢透を見つけた事を話したら目を丸くされた。
「あの公園に居た動物にも色々手を出していたみたいでね。
鴉の霊と一時的に使い魔契約を結んで見張っておいて貰ったら、碧達と分かれて1時間以内ぐらいに以前公園で色々と動物虐待していた自転車に乗った男が来たから、家まで後を追ってもらったの。
で、行ってみたら・・・庭の物置を実験室みたいな感じにしてヤバげな化学薬品を精製してた」
しかもねぇ。
動物虐待する奴ってそのうち人間へとエスカレートすると思っていたら、既にその準備を始めて居る気がするんだよねぇ。
「物置でそんなこと出来るの?!」
驚いた様に碧が聞き返してきた。
「物置って言っても2畳ぐらいのサイズがあるから意外と大きいんだよね。
しかも、親はどっちも大企業の管理職で殆ど家にいないし就職に失敗した息子とは殆ど顔を合わさないし、好きな様に実験していたようね。
画期的な殺虫剤を発明するって話で親に金を強請ったのに、ついでに猫やネズミを殺してみたり、水鉄砲に入れて鳥に掛けて殺せないか試したりして鬱憤払いをしていたんだけど、最近ではもっと危険な化学薬品を揮発性にして空気にばら撒けないか考えてるみたいなんだよねぇ。
ペットに酸を掛けてまわっているのは気分転換と精製した危険な化学薬品の効果を試す為みたいなんだけど、明らかにどれも殺虫剤の範疇を出てるよね」
元々、殺す事が好きだから殺虫剤の発売をしている薬品会社に就職しようしたのだが、ちょっとあまりにもヤバい感じで実験で試した虫を殺す薬品の事を面接で話したせいでドン引きされ、どこの会社からも採用して貰えなかったらしい。
修士号を取ったのに就職に出来なかったから自分で画期的な殺虫剤を生み出すと説得して親に実験器具と物置を買わせ、殺虫剤を作っている間に虫よりも大きな生き物を殺したくなってどんどんヤバい方向へ傾いていった様だ。
一応、大は小を兼ねる的な事を自分に言い聞かせて人間も殺したいとは明示的には考えてないけど・・・楽しみ方が明らかに『やり返してやる』的な気持ちを含んでいる。
『やり返す』って別に誰もアイツに何もしてないんだけどねぇ。
気分転換にやっているゲームもやばい毒や爆弾でお互いを殺し合う様な殺伐としたサバイバルゲーム系で、これのせいで余計に現実と夢想の境目が曖昧になった様だ。
「ええ?!
ヤバいじゃん!!」
碧が目を丸くして声を上げる。
「そうなんだよねぇ。
現時点ではまだ大量殺人出来ちゃう様な空気中で拡散が可能な毒性の高い化学薬品の精製に成功していないみたいなんだけど、少数でも良いやって事になったらそれこそあの水鉄砲で人間を狙うのでも十分危険でしょ?
最初は誰か飼い主の人が囮になって襲わせて、態と腕に薬品がかかるようにして傷害罪でしょっ引ける様にでもすれば良いかと思ったんだけど、本格的にヤバいから傷害罪では足りないかも」
私が精神を読み取って知った今後の北沢透の方向性はどこにも書いてはないので、証拠が無いのだ。
一応現時点では『ついでに死んだら面白いかも』程度しか考えていないので、例え人間に傷をつけてもペットを襲撃しているだけって話で意図的な殺人や傷害では無いのであまり長期的に拘束するのは難しいかも知れない。
かと言って流石に殺人まで行っちゃうところまで待つ訳にもいかないし。
どうしよう?




