(大きな)仔犬・・・?
「こっちかな」
念話・・・と言うか、微弱な念に集中して、そちらに足を進める。
一応トレッキングシューズを履いてきたんだけど、山登りとか森の中のハイキングとかは現世では殆どやっていないから、目的地までちゃんと辿り着けるかちょっと心配だ。
「ちなみにこっちに進むと何があります?」
森の中に踏み込む前に依頼主へ尋ねる。
「山と森?
特に何も無い・・・筈?」
微妙に自信無さげに言われた。
携帯のマップアプリを立ち上げたらちゃんとGPSで現在地が見えているので、取り敢えずそのまま進むことにしよう。
「携帯で現在地が分かる範囲で取り敢えず進んでみますね。
原因を見つける前に圏外になったら戻ってきてどうするか、相談しましょう」
「熊や鹿がいるから、危険かも知れないから一緒に行きますよ」
木島氏が何やらガッツリ足首のとこまでカバーするようながっしりした靴を車のトランクから出しながら言ってくれた。
う〜ん。
何かあった場合は目撃者がいない方が良いし、危険な相手が原因だった場合は無防備な第三者がいない方が楽なんだけどなぁ。
まあ、携帯の圏外になったらどうせ案内は必要だし、熊とかの野生動物の対応方法とかもローカルな人の方がよく知っているんだろうから、無理に固辞しなくても良いか。
取り敢えず、木島氏には保護結界を掛けておこう。
私のだと魔力を介した精神攻撃を防ぐ結界になるから、ちょうど良い筈。
熊に突っ込まれて来た場合は役に立たないけど。
「ちなみに森の中で何かあった場合、ヘリコプターで救出して貰えるんですか?」
森の中に進みながら尋ねる。
「自衛隊とかのヘリだったらロープで怪我人を持ち上げて救助するのは可能ですが、今日のヘリは民間機でそれ用のウィンチとかも付いていないので、偶然開けたスペースがあるんじゃ無い限り無理ですね。
縄梯子は入っている筈ですので、自力で登れる人でしたら上がるのは一応可能ですが」
木島氏が言った。
ただのロープを自力でよじ登れって言われるよりはマシだけど、ヘリコプターの風で揺れる縄梯子を登るのって大変そう。
慌ててヘリコプターに避難しなくちゃならないような状態にはならないと期待しよう。
まあ、私と碧だったら熊でも昏倒させられるから、野生動物は他の事に気を取られて不意打ちされない限り大丈夫な筈だけど。
穴とかに嵌って怪我をした場合は・・・碧が癒せるし。
碧が意識不明になるような怪我をしなければだけど。
そのまま、『来るな!ここには何も居ない!』と言う念を辿ってゆっくり森の中を進む。
一体何が原因なんだ?
悪霊っぽく無いし、悪霊が『ここには何も居ない!』って人を遠ざける必要も無い。
と言うか、こんだけ微弱なのだ。
この迷いの森を作っている存在も、国道に範囲が重ならないようにやればずっと誰にも見つからなかっただろうに。
『大は小を兼ねる』は隠蔽に関しては必ずしも当て嵌まらないって言う悪い典型例だね。
「近づいてきた?
なんか、しきりとそっちに進んでも何も無い気がしてくるんだけど」
碧が声をかけてきた。
「そうかも?
ちなみに、碧には声として聞こえないんだ?」
確かに念っぽい感じだけど・・・言語化レベルが低いのかね?
もしかしたら魔道具モドキな念話カードを使ったら聞き取れるかな?
いや、あれはカード間の機能だから碧個人の念への聞き分け能力は特に上がらないか。
「だねぇ。
こう、無駄な気が余計強い方向は何となく分かるけど」
周りを見回しながら碧が応じる。
ふうん。
念を聞き取れなくても、干渉元は何とは無しには分かるし干渉そのモノも無視できるんだね。
興味深い。
これって念がもっと強かったら言葉が聞き取れるようになるのか、それとも単に圧を感じるようになるだけなのか、実験が出来るならやってみたいところだ。
そんな事を考えながら進んだら、やがて神木かと思うような大木が見えてきた。
根本に私が立ったまま入れそうな樹洞があり、そこに・・・巨大な犬科の何かが居た。
「フェンリル??」
前世では有名な幻獣だったが、ちょっと見た目が違う?
サイズ的には普通の犬というよりはフェンリル寄りだが、見た目は柴犬だ。
牛サイズの柴犬。
身体と頭のサイズ比を見ると仔犬・・・かも?
しかも魔力もそれほど大きい感じはしない。
これで広範囲に人避けの結界を展開し続けられるとは思えないけど・・・奥の方から魔力を感じるから、そっちがやっているのかな?
何故か命は感じないけど。
まるで魔石があるみたいな感触だが、こっちの世界に魔石は存在しない。
筈。
「大柄な秋田犬とかじゃないの?
北海道のローカル種とか?」
碧が首を傾げつつ言う。
「秋田犬は人避け結界なんて展開しないと思うな」
『どうしたの?
突然人間に干渉し始めたせいで危険な事になりそうなんだけど、何かあったの?』
グルルルル。
牙を向きながら柴犬モドキなフェンリル(?)が唸る。
思わず碧と木島氏(と試験官)が後ろに下がるが・・・。
『うわ〜ん、こっち来るな!
お母さ〜ん、怖いよう!!』
やっぱこれ、まだ子供??




