天敵だよね〜
「考えてみたら、診断も医者以外はしちゃいけない筈だったわ。
そうなると、向こうが何を期待していようと呪いだけ解呪して後はしっかり医者か病院の回復師に診て貰うよう言うしかないね〜」
碧が肩を竦めつつ言った。
「診断するのは医療行為だから、回復師として一目瞭然だとしても現存の法律では碧がそれを伝えたら法で罰せられるので出来ませんって言うしかないねぇ。
回復師関連の医療関連法を改正する様、退魔協会なり与党なりに頑張って働き掛けてくれって言っておいたらそのうち状況が変わるかも?」
普通の回復師がそれをやったら単に権力を笠にきた連中に脅されるだけだろうけど、碧には無敵の天罰バリアがある。
ある意味、碧にしか出来ない圧力の掛け方だ。
「そうだね。
まあ、今度の顧客が生きている間に法改正が起きるとは思えないけど」
碧が微妙に興味なさげに肩を竦めた。
おやぁ?
「そんなに早く死にそうなの?」
「いや、直接頼んできたのが60歳らしいから、病気が無くても寿命的に無理じゃない?」
法改正にどれだけ時間が掛かるか知らないが、確かにそうそうあっさりとは無理そうだ。
まあ、権力のある年寄りが本腰を入れて他の年寄り仲間と一緒にゴリゴリ力押しを始めたら早いのかもだけど。
「60歳まで生きているのに呪われてるって騒いでるの?
『一族の呪い』なんて言うから40代ぐらいで片っ端から若死してるのかと思った」
確かに日本の平均寿命的にいったらまだまだ60歳なんて先が長いだろうが、60歳で不調が出てくる程度だったらある意味普通な気がする。
女性なんかは50歳前後で更年期障害が起きるらしいし、男だって実はある程度更年期障害があるともどっかで読んだ。
つまり、その不調を訴えている依頼者だって単なる加齢からきた不調ってだけなんじゃないの??
退魔協会の調査員が『何かある』と判断したらしいけど、漠然とした『何か』じゃねぇ。
碧を呼び込む口実にする為に、そっと札束の入った封筒でも渡されたと考える方が正解な気がする。
「40代で死ぬ人間が多いらしいし、基本的にみんな最後に似たような症状を見せるんだって。
甲府を離れて東京で成功したから他人事だと思っていたら、自分にも症状が出てきて焦って退魔協会に連絡したらしい。
発症が他の親族より遅いみたいだから、もしかしたら現地を離れていると呪いが弱まるのかも?」
碧がちょっと首を傾げながら言った。
う〜ん、ある意味本当に呪いだったら、東京と甲府程距離が離れていれば『一族』なんて言う不特定多数に近い呪いなんて届きにくいんだけどねぇ。
もっとも、本人が現地に法事とかで足を運んでいるうちに呪っている主体に気付かれた可能性もゼロではないと思うけど。
とは言え。
『一族の呪い』ねぇ。
イマイチ信じ難いなぁ。
前世では、基本的にそう言う話が出てくるのって権力や金のある家系だけだった。実際のところは呪いでは無く、お互いに潰しあっているせいで一族全員が死ぬのが早くなるって話が殆どだったからねぇ。
一族に伝わる土着の毒草を使った見つかりにくい毒を皆が揃いも揃って使うせいで、同じような症状で死にまくって『一族の呪い』なんて話が広まったケースもあったっけ。
どの世界でも、一族の資産に対する『欲』が呪いのような感じに機能するケースはよくある話だ。資産や権力がなければ流石に殺し合うほど親族同士で軋轢が生じることは滅多にないし、自力だけだと何人も利害衝突のある親族を殺したら直ぐにばれて治安当局に逮捕される事になる。
なまじ金があるとそう言う捜査をお蔵入りさせたり、殺人に見えない方法で殺すプロを雇えたりするせいで長引き、死者が増えるのだ。
呪いにしても実際に一族の人間を殺すよりも、欲望を煽るタイプの比較的弱い精神的な呪いだったら死ぬ人数に対して必要な対価がぐっと少なくなるからなぁ。
マジで人間の天敵は人間だよね。
とは言え、この天敵は完全に排除しちゃったら子孫を残せなくなるけど。
そう考えると、人間がお互いを殺しまくるおかげでまだ地球が人間に貪り尽くされていないのかも?
そのうち、『地球上の生物の生存の為には人類が居ない方がいい』とか言って感染力と致死性の高いウィルスをばら撒く科学者が出てきて、人類を皆殺しにしそうな気もする。
『地球のため』な科学者か、エゴの肥大しまくった政治家の皮を被った独裁者による核兵器の使用から始まる核戦争か、もしくは地球温暖化に引き起こされた大幅な気候変動か・・・。
どれで人類が滅ぶか、賭けだよねぇ。
まあ、滅ばない可能性もゼロじゃあないだろうし、別の理由で滅ぶ可能性もそこそこありそうだけど。
『猿の惑星』とか言う古い映画みたいに、次かその次の転生でまた地球に縁のある世界に生まれた時に、この世界での『旧人類の滅亡の歴史』なんてものを学ぶことになったりしたら切ないなぁ。




