朝食を一緒に
『来たにゃ』
あっという間にオヤツを食べ終えてお代わりを強請る『愛ちゃん』と『ケイバァ』との攻防をハネナガの目を通して暫く視ていたら、クルミが先ほど岡田家のお向かいの家の塀にいた猫と共に現れた。
『もう良いわ、ありがとう』
ハネナガに礼を言って魔力を渡し、召喚を終える。
「あら〜、こんにちは!」
碧が早速しゃがみ込んで指先を猫に差し出す。
源之助に浮気したと怒られても知らないぞ〜?
『フクさんにゃ。
お腹が空いたから、缶詰かオヤツが欲しいそうだにゃ』
クルミが言った。
う〜ん、情報提供の報酬として求められたのか、それとも単にクルミが奢ってやろうと思って連れて来たのか。
まあ、良いけどさ。
万が一源之助が脱走したりした時の為に、オヤツや缶詰は亜空間収納に少量ながら常に入っているから。
缶詰は流石にここで開けたら後始末が面倒かな。
チュ◯ルで良いでしょう。
野良にあの魅惑の味を教えちゃったら可哀想だと思うけど、このぽっちゃり具合を見るに、絶対この子って飼い猫だよね。
と言うか、飼い猫のくせに他人から食べ物を貰っちゃダメでしょう。
外猫にしていると喧嘩とか交通事故の危険があるから室内飼いを推奨するって猫の飼い方の本に書いてあったけど、それにプラスして勝手に近所の人とか通りすがりの人が餌をあげちゃうせいで体重管理出来ないリスクもあるんだね〜。
戸建てでも、猫は家の中で飼うべきな理由がもう一つ実感できた。
「はいはい、これをどうぞ。
で、お向かいの岡田家の女の子とその家族構造とか出入りに関して何か知ってるの?」
チュ◯ルとお小皿を取り出して、猫に差し出しながら尋ねる。
クルミ経由だけど。
『向かいの家には愛ちゃんとお父さんとお母さんが住んでるそうにゃ。
朝になるとパパが来て朝食を食べて出ていくんだって』
クルミが一心不乱にチュ◯ルを舐めている(と言うか、既にお小皿に出した分は食べ終わり、今はお皿を舐めている状態だね)ニャンコの代わりに教えてくれた。
「マジ??
父親が朝食だけこっちに食べに来てるの??」
念話カードでクルミの声を聞き取っていた碧が目を丸くして声を上げた。
そっか、岡田家って夫婦がお互いの事をお父さん、お母さんって呼ぶ家庭なんだね。
名前で呼び合えば良いのに。
まあ、昔(って程でも無い?)の男性って妻を名前で呼ぶのを照れちゃって子供が出来るとママとかお母さんという呼び名に逃げる人が多かったのかも?
なんかでも、幼稚園とか学校でも『XXちゃんのママ』と呼ばれる母親が、家でまで夫に『ママ』なんて呼ばれたら、仕事にでも出てない限り『自分』という個が消されちゃった様に感じて辛くなりそう。
そう考えると、もっと多くの専業主婦がノイローゼにならないのが不思議だわ。
普通に娘が生きていたら岡田家はお父さん、お母さんからお祖父さん、お祖母さんになったかもだが、流石に50代で、娘がいなくて孫を育てる事になった段階で毎日ジジババとお互いを呼び合うのは嫌で、お父さん、お母さんのままにしたのかな?
で、実際の父親がパパなのか。
多分。
「まあ、考えてみたら、残業とかしてたら働いている父親が5歳児が寝る前に帰ってくるなんてほぼ無理でしょう。
そう考えると、娘と毎日顔を合わせて多少なりとも会話をする為に朝食を食べにくるのは、ありなのかも?」
娘の世話をほぼ完全に義理の両親に投げてるけどね〜。
週末に少し自分の部屋に連れて行って一緒の時間を過ごすのかもだけど、あの子供用椅子の無かった食卓を鑑みるに、その場合は夕食を食べに岡田家に来てそうだ。
子育てはかなりおんぶ抱っこ状態だね。だらしない。
「まあ、娘の世話だけ考えるならありかもだけど、再婚はしないつもりなのかしらね?
妄想女は問題外としても、普通にまだ再婚してもおかしく無い歳でしょうに」
碧が首を傾げながら言った。
「妻に自殺されたのがショックで再婚しようとも思えないんじゃない?
第一、誰かと付き合い始めたとしても、相手だって前妻が自殺する程に子育てで追い詰められても助けられなかった人と結婚するのは躊躇するでしょ」
少なくとも、自分が子供を産んだとしたらほぼ確実に手伝ってくれないワンオペになる可能性が非常に高いと思って、結婚相手としての望ましさがガクッと落ちそう。
碧が頷いた。
「確かにね。それに、考えてみたら従姉妹が家に来るのを止めてなかったんだから、一応親しくしていると思っていた相手なんでしょう。
その従姉妹から『やっと邪魔な女が死んだわ、結婚しましょう!』なんて言われたら如何に自分の女を見る目がないか、自覚したでしょうし」
「妻に自殺されるだけでもショックだろうけど、従姉妹が自分と結ばれる為に意図的に追い詰めたなんて知ったら、2度と女と話すのさえ嫌になりそうなレベルのトラウマになりそうだよね」
まあ、今時女性と話さないで済む業界なんて無いだろうし、娘の世話の為にも義母と話す必要があるから、トラウマをそのまま大事に抱いている余裕も無いだろうけどさ。
「取り敢えず。
娘さんは大丈夫そうだから、あとは妄想女がどうなったかが分かれば良いね。
クルミを金子家に張り付かせて、ちょっと夫から記憶を読み取れない?」
碧が提案して来た。
そうだねぇ。
ちょっと試してみようか。
やばい女が野放しになっているのか、ちょっと気になる。




