ババアではなく
玄関が見える位置に移動したハネナガの目から見ていたら、開いた玄関から自転車用ヘルメットを被った幼児が家の中へ駆け込んできた。
制服っぽいのを着ているから、幼稚園から帰って来たのかな?
保育園に制服はないよね?
というか、まだ4時前だから保育園にしては早いと思う。
幼稚園だと少し遅い気もするが、帰りに買い物でもしてきたとか、用事があって延長預かりして貰ってたのかも?
というか。
おばあちゃん、自転車で迎えに行ったんだね〜。
最近は電動自転車があるから体力がちょっと落ちててもそれほど辛くないし、私の母親だって今でも自転車に乗ることがある。
だけどなんかどうも、『祖母』が『自転車』に乗るってイメージが無かった。でも考えてみたら、赤子の手を引いて長距離歩くなんて大変だろうから、それこそ歩いて5分以内ぐらいの距離に幼稚園があるんじゃない限り、自転車が一番移動手段としては楽そうだよね。
都心じゃあ車で送り迎えする際に駐車できるスペースは厳しいだろうし。
まあ、25歳で娘を産んで、その娘が25歳で子を産んだとしたらまだ55歳ぐらいだから、ウチの母親と大して年は違わないんだけどね。
『祖母』と言う言葉は年齢という数字を超えて、一気に老けた印象が纏わりつく。
第一、あのなくなった妻が30歳だったらおばあさんは60歳ってことで、そうなると中年というよりは初老なイメージになるし。
そんな事を考えていたら、玄関が再び開いて中年の女性がエコバッグとリュックを背負って入って来た。
祖母っていうよりは、高齢出産したお母さんっぽく見える。
かなり若々しい。
娘が死んだけど孫の世話があって、老けている暇も無かったのかな?
なんでここで孫が育っているのか、ちょっと知りたいけど。
「愛ちゃん、ちょっと待って!
ヘルメットを外してここに起きましょう!」
下で女性が呼びかけているのが聞こえた。
そうだね〜。
ヘルメットが行方不明になっていたら朝出かける時に大騒ぎになりかねないから、玄関にしまい場所を決めておいておく方が絶対に良いよね。
私も実家には自転車があるけど、ヘルメットは買ってないんだよなぁ。
ちょっとあれ、微妙な印象で。
でも自転車を共有している母親はちゃんとヘルメットを買っていて、この間実家に行った時、玄関に置いてあった。
まあ、実家で自転車に乗ることになったら母のヘルメットを借りれば良いだろう。
碧とシェアしている部屋だと態々自転車置き場を契約して持っておくほどは必要を感じない。
電動キックボードを買って亜空間収納に入れようかとも思ったけど、あれは想定外に高かった。私が見ていたのは低価格帯な原付より高いんだよ?!
びっくりだ。
それはさておき。
下では祖母の呼びかけに戻って来た幼児がヘルメットを玄関に置いてあった籠に入れて、また走って階段に向かって来た。
お?
そのままバタバタと上がって来て、自分の部屋に飛び込み、制服を脱ぎ散らして椅子の上に畳んであった服に着替えて、またバタバタと階段を降りていく。
「ケイばぁ、オヤツ〜!!」
ケイバァ?
おばあちゃんの若い言い方として、けい(祖母の名前かな?)『おばあちゃん』のバァだけ付け足したのかね? 流石にババアのバァじゃないと思いたい。
ママとは呼べないだろうけど、育てて貰っている母親代わりの存在を『おばあちゃん』と呼ぶのは微妙なのかも。
というか、祖母側が嫌がったのかもね〜。
私だって50代で毎日『おばあちゃん』なんて呼びか掛けられるのは老けそうで嫌だわ。
……もしも兄貴のところが結婚してすぐに子供が出来た場合、ウチの母親はなんと自分を呼ばせるんだろ?
やっぱ『おばあちゃん』かねぇ。
50代でおばあちゃんかぁ。
それなりにスキンケアとかしていて忙し過ぎない時は若々しい母親を考えると、なんか想定外なイメージだ。
取り敢えず。
孫娘はちゃんと祖父母に可愛がられているみたいだね。
あとは……向かいの家の猫からでも、妄想女がどうなったのかとか、父親はどの位の頻度でこっちに来るのかとか、聞けると良いんだけど。
猫って時間系列的な情報に関してはかなり大雑把だからなぁ。
まあ、いざとなったらクルミをここに1週間ぐらい貼り付けて、様子を見るかな?
特に問題がないみたいだから、そこまでする必要があるかは微妙だけど。
碧と相談しよう。




