色々闇が……
今日は事故物件の事前調査のバイトだ。
最初に青木氏に案内された物件は、比較的新しそうな建物だった。小さいが都心にあるマンションで、子育てには向かなそうだがシングルやまだ子供がいない共働き夫婦にはよさそうかも。
事故物件になっていなければだが。
事故物件に夫婦で入ったりしたら、あっという間に離婚になってしまいそう。
ある意味、奥さんがそう言うのを気にしない人で、忙しい夫に『自分は時間があるから探しておく』とか言って勝手に安いのを探して決めたりしたら、マジで夫はキレるかもだよねぇ。
まあ、夫婦で暮らす部屋なのだ。どれだけ忙しくても、最終的に契約する前にちゃんと夫も自分でも見に行くべきだし、その時に嫌な予感がしたら気のせいだとか思わずに、『ここは気に入らない』と異議を表明すべきだけどね。
いくら忙しくても、責任はしっかり分担して負わないと。
「ここは家を買ってローンを返すためにも頑張らねばとブラックな企業で社畜になった男性が過労死したようでして。
『残業代が〜』とか『あのクソ課長め!!!』と言ったような幻聴がほぼ毎晩聞こえるらしいです」
青木氏がエレベーターに乗りながら教えてくれた。
「うわぁ、マンションを買ったから頑張って過労死なんて、確かに死んでも死にきれなそうですね」
同情するけど、死んでは元も子もないよねぇ。
社畜なら貯金があっただろうから、ブラックな会社を辞めて別の会社に移るべきだったねぇ。
まあ、最近はマンションの値段が高くてローンがギリギリなケースも多いらしいけど。もっと給料が安いけどホワイトな会社ではお金が足りなかったとか言うような状況だった可能性もあるのかも?
そう言う時は、労働基準監督署にチクるべきかなぁ。
まあ、そんな事をしたら会社が倒産しかねないと思ったのかもだが、死後の世界にマンションも貯金も持ってはいけないのだ。
そこら辺の見極めは重要だね。
下手に若いと無理ができちゃって、まだ大丈夫って頑張っちゃったのかもねぇ。
私らも変に頑張り過ぎないように気をつけなきゃ。
まあ、流石に退魔師がそこまで無茶な働き方をする羽目にはならないと思うけど。
ちょっと同情しながら部屋に入ったら、確かに部屋のど真ん中に草臥れたスーツを着た男性の霊が蹲っていた。
『クソ課長め!! 納期寸前に仕様変更なんぞ受け入れるな!!
無駄な顧客の我儘を宥めて撤回させるか、最低でも納期の延期を飲ませるのが管理職の仕事だろうが!!』
怒りで一杯な愚痴が聞こえてきた。
その他にも、使えない部下や無責任な先輩社員に対する不満も途切れる事なく続いている。
よっぽど周囲が無能ばかりだったのか、この男性が完璧主義すぎたのか。
どちらにせよ同情はするが、こんだけ不満不平を垂れ流していたら、聞こえない人でも疲れそう。
と言うか、良くぞこんな物件を買ったね??
購入者は霊感ゼロなのかな?
それとも海外投資家は投資用不動産を実際に自分の目で見ずに買うのかね?
「いますね〜。
そこの部屋のど真ん中にいるので、除霊は簡単だろう思いますよ」
碧が青木氏に告げる。
「ああ、やはりそうですよね。
背中がゾクゾクするから間違い無いだろうなとは思っていたんですが、一応確認しておく方が無難だと思ったんですよ」
あっさり青木氏が頷き、玄関の扉を閉めた。
次に案内されたのは壁にひび割れがあちらこちらで見えるような古いマンションだった。
ひびのところを塗り固めているみたいだけど、あれって大丈夫なのかね?
壁が崩落したら、中の部屋はどうなるんだろ。
そんな事を考えながら階段を登って3階の部屋に着いたが、何やらカビ臭いものの霊は居ないっぽい。
『何か霊障の原因になりそうなものがないか、探してみて』
クルミを送り出す。
「居ない感じ?」
碧の方を見て尋ねる。
「だよね?
カビ臭くて鼻が変になりそうだけど」
碧が頷く。
霊障で湿気る場合もあるけど、ここは単に日当たりと換気が悪いのが問題なんじゃないの?
そんな事を考えながら部屋の中を見て回っていたら、クルミが帰ってきた。
『虫はあちこちにいるけど、霊は居ないにゃ』
だよね〜。
「ここは悪霊は居ないみたいですね。
カビがひど過ぎて住人が体調を崩すのでは?」
青木氏に告げる。
湿気の原因になっている霊的存在もいないみたいだから、退魔師にどうにかできる問題じゃあないね。
「そうですか」
ちょっと残念そうに青木氏が言った。
あっさり退魔師を呼ぶだけで解決できる問題の方が、時間が掛からなくていいんだろうね。
「最後のところは夫婦が暮らしていたのですが、産後鬱で奥様が自殺してしまった部屋なんです」
青木氏が説明しながら最後のマンションに案内してくれた。
うわぁ。
産後鬱ですか。
奥さんが自殺って……赤ちゃんはどうなったんだろ?




