部屋のあれこれ
「温泉町からのお土産で〜す」
碧が声を掛けながら青木氏の不動産屋へ入って行った。
今日は猫部屋でのニャンコとのお遊びも予約済み。
と言うか、遊ぶついでに健康診断をする話になっているらしい。
「こんにちは〜。
あれ、この黒いのは新しい仔ですか?」
猫部屋にいるニャンコ達を見て、記憶にない子を見つけて私たちの方へ来た青木氏に尋ねた。
「外からも見えるし部屋を探しに来る人も多いしで、ここって意外と貰われていく仔が多いんですよ。
代わりに捨て猫の連絡が来たり、この店の前に段ボール箱に入れて捨てていく人もいるんですけど。その黒いのは、先月見つけた仔ですね」
青木氏が教えてくれた。
そっか、ちょくちょく猫部屋のストリーミングで見かける猫達の毛柄が変わっているのって成長して変化したのではなく、新しく増えたり、貰われて行ったりで出入りが激しいからなんだね。
どうも動物の顔や柄って人間の顔以上に覚えるのが苦手なんだよねぇ。
実際にここまで来て触れれば精神の感じを覚えるから忘れにくいんだけど、ストリーミングでオンラインで見るだけな分には記憶するのはほぼ絶望的だ。
碧は半年ごとぐらいに健康診断に来ているし、電車とかで暇な時なんかにもストリーミングを見ているからか、しっかり覚えているようだけど。
しっかし。
猫を捨てるなんて、許し難い行為だ。
そろそろ寒くなってくるから下手をしたら青木氏に保護される前に凍死しかねないじゃない!
まあ、青木氏だったら猫が捨てられるようになってからは店舗の前の防犯カメラを定期的に確認してそうだけど。
「変に虐待される家で飼われるよりは捨てられちゃったとしてもその後にここで皆と遊びながら暮らす方が良いでしょうが、世の中のは酷いことをする人もいるもんですね。
私たちが最近行った依頼でも、観光客が旅行の記念品にする為に慰霊碑を砕いて持って帰ったなんてとんでもない事をしていたようなんですよ」
「ただの庭石を壊すのだって十分迷惑ですが、慰霊碑を壊すなんて酷いですね。
まあ、お二人を呼ぶような案件になったって事は、やった連中は今頃霊障に悩まされているんでしょうが」
青木氏が苦笑しながら応じつつ、猫部屋の扉の鍵を碧の為に開けた。
「そう言えば、私たちの住んでいる部屋ってずっと借りていて大丈夫なんですか?
学生専用だとかなんとか言われて卒業時に追い出されるなら、先に次の物件を探しておいて欲しいですが」
私らは割安な事故案件を希望するんで、そうそう思うような物件が出てくるか分からない。だから追い出されるなら早い目に次を探す必要がある。
まあ、卒業してフルタイムで働き始めたら賃料なんて大した問題ではなくなるから、普通に標準的な賃料を払っても良いんだけどね。
日当たりとか間取りとかを考えると、今の部屋は理想的だし。
「いえいえ、大丈夫ですよ。
今時はネットに事故物件のデータベースとか作られているので、一度それに載るとそう簡単に一般的な賃料で貸し出せなくなりますし、あそこは元々そこまでオーナーがガツガツしてないですから」
青木氏があっさり手を振って私の心配を払い除けた。
「事故物件のデータベースって、考えてみたら間違いでは載せられたりしたら大損害なんじゃないですか?
私たちの部屋だって誰かが亡くなった訳じゃないのにそんなデータベースに載っているとしたら、間違いだって十分あり得そうですよね」
医者や歯医者などがマップなどの評価情報でとんでも無いイチャモン如きな評価と口コミ情報を書き込まれて、消させる為に苦労するって話を聞いた事はあるが、考えてみたら事故物件データベースなんて、間違いで載せられたら大問題だろう。
「そうですね、ちょっとした噂程度で勝手に載せられた場合はクレームを付けてちゃんと調べて削除してくれと連絡する事もあります。
まあ、一番古くからあって信頼されているサイトは本人も霊感がある人が運営しているので、実際に招いて何も無い事を証明したら削除してくれるのでその点は救いですね〜」
青木氏がのんびりと言った。
へぇぇ。
事故物件データベースも幾つもあるのか。
面白半分に適当な噂程度の情報を寄せ集めているサイトなんかもあるんだろうなぁ。
酷いところなんかだったらオーナーを脅す材料として使ってそう。
まあ、実際に金銭を要求したら恐喝罪(それとも脅迫罪?)って事で逮捕されかねないだろうけど。
「ちなみに、私たちの部屋のオーナーって何歳ぐらいなんでしたっけ?
今のオーナーがあまりガツガツしていないにしても、もしものことがあった時に、相続人も同じスタンスとは限らないですよね」
と言うか、それなりに便利な土地のマンション一棟なのだ。
物凄い価値があるだろうから相続税を払う為に部屋をバラ売りする可能性もあるかも?
快適生活ラボの東京オフィスの部屋として買うかはかなり微妙な線だが。
駐車場がないからなぁ。
でもまあ、オフィスとしてだけ買って、近くに駐車場付きな部屋をゲットするのもありかも?
そんでもって諏訪へ通うために源之助のセカンドハウス的に使えるバンを買うのもありって言えば、ありだよね。
まあ、それだったら車へのアクセスが楽な戸建ての方が良いかもだけど。
いや、戸建てだとゴミ捨てとか町内会の掃除当番とか面倒そうだからなぁ。
「70代ですしお元気な夫婦だからまだまだ大丈夫だと思いますが……確かに遺産相続が起きたら色々と変わるかも知れませんね」
ちょっと顔を顰めながら青木氏が言った。
何か都合が悪い心当たりでもあるのかな?
と言うか。
かなりの資産家なんだから、遺言状とかは作ってあるよね?
無かったりしたら泥沼な争族問題になりそう。
あのマンションだってある意味節税対策なんだろうから、色々と計画的にやっているとは思うけど。
もしも夫婦のどちらかが認知症になって問題が起きそうだったら、こっそり碧に治して貰うと良いかも。
クルミに定期的の上の人たちの様子を探ってもらっておこうかな。




