都合よくはいかないんだ
「にゃあうぅぅ〜!」
泊まりがけな仕事から帰ってきた私たちが玄関を開けたら、源之助が出迎えてくれた。
出迎えと言うか、『遅かったではないか、下僕の癖にどこに行ってた?!』とお叱りの声をかけに来たって感じかも。
「ただいま〜。
寂しかった? ごめんね〜」
碧がどさっとカバンを投げ出し、源之助を抱き上げた。
寂しかったかもだけど……チュー助との視界共有で確認した限り、夜中にはシロちゃんと楽しげに追いかけっこしてたし、日中はずっと昼寝してたしで、普段とそれほど生活態度は変わってなかったじゃん?
私らが帰ってきた音を聞いて、そう言えば寂しかったかも?!と思い至って憤慨しているだけじゃないかな〜。
まあ、知らん顔して眠り続けられるよりは、怒りながらも出迎えてくれる方が嬉しいけど。
碧のカバンを拾い上げ、彼女の部屋に持って行っておく。
「オヤツとかあげすぎちゃダメだよ〜?」
源之助はこう言う時に、ここぞとばかりにオヤツをよこせと強請るのが上手いからねぇ。
まあ、碧がいればちょっと太りすぎて体調不良になっても問題なく解決できるだろうけど、猫は太らせずに適正体重な方が長生きするでしょう。
と言うか、猫じゃなくてどの動物でもそうだよね。
ネズミの実験ではちょっと飢餓状態ぐらいにしたら遺伝子の長寿スイッチが入ってて若返ると言う研究結果についてどこかで見た気もするが。
だから人間も食べ過ぎよりは時折絶食して飢餓状態を経験する方が長寿スイッチが活性化して老化防止になるとかなんとか書いてあった。
だけど、別の研究では高齢者って少しぽっちゃり気味ぐらいが一番長生きするって結果もあった筈なんだよねぇ。
栄養失調気味だとボケたり、骨がスカスカになって骨折しやすくなったりってこともあるから、多少栄養過多ぐらいな方が何かあった時の安全マージンになるんだろう。
どっちも納得できる情報だけど、矛盾しているよねぇ。
それとも、少し太り気味でダイエットのために時々絶食する人が一番健康的に長生きするとか?
まだ源之助の老後の心配はしなくて良いけど、太り過ぎないほうがいい事に変わりはないから、うっかり碧がお強請りに負けない様に私が見張っているのだ。
源之助には長生きして貰いたいからね〜。
それに、太り過ぎると膝の上に座られた時に重くて足が痺れるかもだし。
実家の近所のお姉さんは愛猫を溺愛してて、オヤツのお強請りを跳ね除けられなかったせいでかなりニャンコがデブだった。お陰で冬になって膝に乗られると足が痺れて辛い上に、トイレに行きたいのを我慢して我慢してやっと猫が退いてくれても、今度は痺れた足で動くのが凄く辛くて大変だと言っていた。
碧は血管の圧迫からくる足の痺れも一瞬で治癒出来るだろうが、私はそうもいかないからね。
源之助の体重は適正レベルにキープしなきゃ!
荷物を部屋に置き、洗濯物をバスケットに出してリビングに戻ったら碧はソファで膝の上にてリラックスしている源之助をそっとブラッシングしていた。
源之助の喉を鳴らしている音が聞こえてきそうだ。
ご機嫌だね〜。
「お茶いる?」
台所に行きながら尋ねる。
「お願い〜。
ついでにお饅頭も食べよう」
青木氏へのお土産に饅頭を買ったのだが、ついでに自分たち用にも一箱買ったんだよね。
ちょっと小腹が空いたから良いかも。
お饅頭だったら紅茶じゃなくて日本茶かな。
「そう言えば、祟られた外国のアホな若者の清めって言う依頼が来て、断るにしても結局は別の誰かが依頼を受けちゃうんだろうねぇ」
お茶と饅頭をお盆に乗せて持って行きながらちょっとぼやく。
「だろうねぇ。
実際に、私達だって慰霊碑やお寺で悪さして祟られた人の除霊とかしているんだし」
碧がちょっと残念そうに言った。
「最終的には死んだ時にマイナスなカルマのせいで次の生が悪いスタートを切ることになるんだろうけど、もっと早い段階で随時天罰が落ちれば良いのにね〜。
ある意味、天罰の代わりとも言える祟りを解除しちゃう私らの行動もあまり褒められたものじゃないかも?」
今回のお寺の清めとか、先祖のやらかし関係の祟りを除霊するのとかは問題なく善行だと思うけど、自業自得な祟りかどうかなんて依頼を受ける際には分からないし、受けちゃってから判明してもその段階でキャンセルなんて出来ないからなぁ。
「私を害したって言うなら白龍さまの天罰で除霊出来ない罰を与えられるけど、流石に単に私が憤慨しているだけでは無理らしいからねぇ。
私たちに出来る事は依頼が来ても断る程度だね」
碧がため息を吐いた。
「白龍さまに聞いてみた事があるの?」
かなりはっきりと無理と言い切っているよね。
「そりゃあね。
それこそテレビで報道されている悪事とか、わざとクラスの友人を貶めている人とか、依頼でも実は自業自得な案件だってわかるケースとか。
色々あったから、何度か『これでもダメなんですか?!』って聞いたけど、白龍さまの神社も愛し子も害を受けて居ないのに罰する様な理はないから、その人が住んでいる地域全般に雷を落とすとか嵐を呼ぶのはできても、ピンポイントな天罰は無理だって」
なるほど。
単に魔力を使った報復ならば龍としての白龍さまなら出来るが、他者を巻き込まない天罰は氏神さまとしても理に則った力の使い方じゃなきゃダメで、それには碧か白龍さまが害されたと言うトリガーが必要なんだろうね。
まあ、神様なんだから多数の人間の真摯な祈りとかでもなんとかなるかもだけど、寺の住職さんとあの甥の人の祈りだけじゃあ全然足りないんだろうなぁ。と言うか、住職さんが『悪さをした観光客に天罰を!』なんて祈っているとは思いたくないし。気持ちは分かるけどさ。
「しょうがないね。
やらかした連中が神とか祟りとかを信じていないタイプで、退魔協会っぽい相手に連絡を取るのが遅れてそれだけ長く苦しむことを期待しよう」
ついでに最終的には日本の退魔協会に依頼を出して、お寺への賠償金も含めた鼻血が出るほど高額な依頼費を踏んだくられれば更に良いんだけど。
残念ながら直接的なお仕置きは難しいので、ここでこの話は終わりです。
明日は休みますが、明後日からまた宜しくお願いします!




