ゴネてくるかも？

　慰霊碑とその周辺の清めを終え、温泉宿に戻った我々はチェックアウト前にもう一度露天風呂に入った。

「日本の学生でも修学旅行とかで現地の慰霊碑っぽい石とかを割って記念品代わりに持って帰るなんてアホな事をやっているのがいるのかなぁ？」

　かなり冷えていた体にじんわりと温泉の熱が染み込んでいく。寒かった外でそれなりの時間、霊と対話する為にじっと立っていたからねぇ。チェックアウトの時間を遅らせて貰ったのは正解だった。

　あ〜、気持ちがいい。

「まあ、酔っ払ったらお寺の本殿をトイレ代わりにして排泄行為に及ぶアホだって居るんだから、バカはどの国にも居るんじゃない？

　流石に他国に行ってそんな日本の恥を晒すような事はしていないと期待したいけど」

　碧が溜息を吐きながら答えた。

　確かにこの仕事って、日本人でも色々とアホや悪意を晒している様子をちょくちょく見る羽目になるよね。

　ええかっこしいな日本人だったらせめて海外ではそこまで酷い事はしないと期待できるかな？

　欧米だったらしないけど、密かに内心で下に見ている発展途上国とかだったらやりかねなそう。

　中国は韓国は……日本人への嫌悪感が政治的要因で国にトップによってちょくちょくかき立てられて極端に高まるから、下手に現地の人を怒らせる様な事をやったら住民に袋叩きにあって大怪我を負いそうだから、避けるかも？

　中国じゃあマジで投獄とかされかねないしね。

　まあ、慰霊碑を壊すなんて行為、やったら半年ぐらい刑務所で反省していろと思わないでもないが。だけど、言葉が通じない国で投獄された場合ってどうなるんだろ？

　現地語が話せないから罪に問われないなんて事はないだろうけど、命令とか注意を理解できなかったら刑務所の人にしたって扱いにくそう。

　命令を聞かないからって罰しているうちにやりすぎて大怪我したとか死んだとかしたら国際問題になりそうだし。

　外国人だと言う事で乱暴に扱われたり、寝込んでいても後回しにされて死んでしまうなんて事もあり得なくはないし、ちゃんとした治療を受けられなかったせいで助かる筈だった病気が手遅れになるなんて事もあり得そうだし。どこであろうと変な事はやらないに越した事はない。

「あの慰霊碑をお土産代わりに持って帰った連中は確実に祟られてると思うけど、それのお祓いのこっちに依頼が来るかな？」

　自国でまずは祓おうとするだろうと思うけど。

「もしかしたら、日本の宿の水に当たったせいだとでも言って、損害賠償請求のついでにお祓いもしろと言ってくるかもよ？」

　碧が苦笑しながら言った。

「そっか、自分たちは慰霊碑を割ったとは認めず、日本人に勧められて行った場所で落ちていた石を拾ったら変な未知の菌に感染して体調が悪くなった、そんな危険な場所を薦めるなんて絶対に悪意があった！！って主張するかも？！」

　何と言っても防犯カメラはないのだ。

　自分たちが行った時には既に慰霊碑は割れていた、自分たちは落ちていた石ころを拾っただけな被害者だと主張する可能性はあるか。

「大体、朝鮮出兵に参加した武士の一族を鎮める為の慰霊碑でしょう？

　慰霊碑を壊したって事に関して掘り下げて調べたら朝鮮出兵で自分達の祖先を虐殺した連中だとかマスコミで騒ぎ始めて、国際問題化して政府に金を出させようとするかもよ」

　最近はあちこちの国との関係が拗れているからねぇ。

　せめて隣国とは協力できるようにって政治家があっさり折れて賠償金は無いとしても、退魔師の料金ぐらいは国が払うって言い出す可能性もあるかも？

「なんかそれってマジでゴネ得じゃん。

　絶対に許せないね」

　私らの税金をアホなガキの自業自得な祟りの除霊に使うなんて許さん！

「とは言え、こっちに出来る事はあまりないからねぇ。

　せいぜい、依頼が来たら断る程度？」

　碧が再度小さくため息を吐きながら言った。

「う〜ん、遠藤氏に依頼完了の連絡をする際に、壊した連中が学生旅行の土産代わりにしようと慰霊碑を割って破片を砕いて持って帰ったから、そっちも祟られている可能性は高いかもって伝えよう。そんでもって、変にこっちに割引き請求なんか来ないように、そう言う悪戯の前科がないか、あの時期にこの温泉街に泊まった韓国人学生の団体にいた参加者のSNSでも調べるように提案しておこうか。

　慰霊碑を壊す程のアホだったら、それを匂わせて自慢する程度のSNSをアップしているかも。

　消される前にコピーを取っておけば、もしもマジで交渉する羽目になったら有利になりそう」

　こう、この街から出る最中にバスや電車でちゃちゃっとSNSに日記的な感じにアップしてたら、何かあるかもだよね？

「そうね。

　多分帰国した頃には霊障でSNSに手をつける元気も無かっただろうと思うけど、四六時中SNSに情報を書き込みたがるタイプがいたら、その前にやってるかも？」

　碧が頷いた。

　まあ、退魔協会がそこまで手間暇かけて調べるかは知らないが。

　それでも、田舎町の古寺の関係者が一人で頑張って調べるよりはまだマシだろう。