損害賠償請求が出来たら良いよね
霊障が起きている慰霊碑はとある古い寺の一角にあるらしく、その寺自体には観光客が今でもそこそこ訪れているらしい。
慰霊碑があった場所は近付くと寒気がするし頭が痛くなる上に更に進むと恨みを訴える声が聞こえるようになるとかで、現時点では『地崩れの危険があり』とロープを張って近寄れない様にしてあるらしい。ただ、寺の本殿の方や庭園(?)エリアに入る観光客から丸見えなので、清める間は寺を閉鎖するから客が少ない午前中にやって欲しいと要望された。
東京から日帰りだったらそんな要望をされようと新幹線の始発と言う制約条件があるから希望に添えないと却下一択なのだが、温泉宿に泊まって翌日の朝に行くなら丁度いい。
「これ、考えてみたらなんとか前泊に同意する様に説得する予定で最初から部屋を取ってあったんじゃない?
日帰りするからね!って私が最初に言ってたら何か報酬に色が付いたかも」
午後の新幹線に乗ろうと家を出ながら碧がちょっと残念そうに言った。報酬の金額を増やしたかったというより、交渉に失敗したのが悔しそうだ。
今日は午前中にたっぷり源之助と遊び、今晩と明日の朝の餌の準備はしっかりタイマーで設置してある。
シロちゃんやチュー助にもしっかり魔力を補充あるし炎華がいつも通り留守番と言う名目で昼寝要員として残っているので、一泊二日ぐらいの留守番は問題無いはず。
転移門がないといざという時にさっさと帰れないのがちょっと心配だが、炎華ならシンクの蛇口を動かして水を出せるし、建物のどこかで火事が起きても一瞬で鎮火出来るので大丈夫だ。
と言うか。
考えてみたら、碧が住む事で100%火事を防げる炎華がいる事になったんだから、その利点だけでも家賃の値引き請求したいぐらいな効果だよねぇ。
まあ、現世では幻獣の存在が退魔師以上に知られていないので、請求するだけ無駄だし、元々事故物件に入ったので家賃が安いから文句は言っちゃいけないが。
ちなみに私たちの部屋は、1年経ったら家賃の引き上げ要請が来るかと思っていたんだけどそれもない。意外と大家さんが大らかなんだよね。
それとも青木氏が何か上手い事言いくるめているのか。
建物内で問題が起きたら格安で対応して貰えるかもなので、霊障保険みたいなものだろ思ってはどうでしょ〜ぐらいな事は言っているかも?
どちらにせよ、資産家で高齢な夫婦でお金に困っていないから、それほどガツガツしてないっぽい。
自分たちが住んでいる建物に入る人間だから、変な問題を起こすかも知れない新規賃借人が入るのにあまり前向きじゃないのかもね。
同じフロアの人たちもあまり変化がないし。
私らは更新料を請求されなかった事に関して特に何も思わなかったけど、もしかしたら他の住民達も更新料が無いか、割安なのかも。
賃貸って更新料を請求される時に住民がよく入れ替わるって聞くから、更新料が他より安かったら出て行く人も少なそう。
それはさておき。
「もしかしたら遠藤氏の裁量で増やせたプラスアルファ分の報酬を払わないで済んだのが、彼の評価にプラスになったかもね〜。
もっとも、ガッツリ報酬を上げると言うよりは、私らがゴネたら多分お寺側に閉鎖時間に関してゴリ押しするつもりだったんじゃない?
退魔協会ってその点、一般的な相手に対してはかなり上から目線でしょ」
政治家にはかなり弱腰な癖にね。
まあ、本来なら厄祓いとかをする立場である筈の寺での問題に関して退魔協会に依頼が来ている時点で、霊障の原因の霊が余程強力なのか、寺側が本来の役割を担う能力の一部を失ったかだもんね。
ある意味、業界内の落ちこぼれ扱いなのかも。
「確かに。
だけどお寺の境内にある慰霊碑を壊すなんて、とんでもない観光客がいたもんだねぇ」
碧が呆れた様にため息を吐いた。
「だね!
そんな酷い観光客は、来ない方が良いかな。
まあ、周囲に霊障が出る程の事をやったんなら、やらかした連中も今頃苦しんでいるだろうけど。
もう帰国しているとしたら、母国の退魔協会的なところに泣きついているんじゃない?
お手軽に厄祓いができる様な場所があると良いね〜」
大陸側の宗教施設ってまともにお祓いとかできる場所が残っているんかね?
中国はつい最近まで宗教は共産党のライバルって事で弾圧されていたみたいだし、韓国に関してはヤバげな怪しい新興宗教的なキリスト教モドキの話をよく聞くけど、あそこの宗教ってどうなってるんだろ?
仏教だってあっちから伝わってきた宗教だけど。
まあ、どの国にもある程度の数の退魔師みたいな集団が居るんでしょう。
居なかったら、また日本に戻って来て退魔協会に泣きつくんだね。
そうなったら私らに払った分の報酬プラスアルファ分ぐらい、損害賠償として請求されそうだけど。
ある意味、それはそれでありだよね。




