オーバーツーリズム?
『実は先日、海外観光客に人気がある慰霊碑が壊されたそうでして。
それ以来付近で霊障が起きる様になったので、その霊を鎮める依頼が来ております。
お願い出来ますでしょうか?』
遠藤氏がいつもの挨拶と、退魔協会のイベントやお知らせに関する雑談をした後に依頼の話をし始めた。
慰霊碑が壊されたんだぁ。
犯人は隣の大陸からの観光客かな?
中国とかの観光客って万里の長城に落書きするレベルで行儀が悪いって言うからねぇ。
まあ、日本人だって慰霊碑に悪戯をするアホは居るから、海外からの観光客に人気だからってそのうちの一人がやったと決めつけるのは良く無いけど。
それこそ戦国時代の慰霊碑で朝鮮半島へ戦いに行った武家関係だったりしたら、もしかしたら半島の国から来た観光客がやったのかもだし。
お寺の仏像を、秀吉の時代に侵略軍によって盗まれた物だと主張して盗品だと分かっているのに入手した上で返却を拒否する様な人もいる国なのだ。
先祖の仇!とか言って古ぼけた石を蹴るぐらいの事はするかも?
常識的に考えるとあまり無さそうなケースだけど、いつの世の中にも非常識な人はいるからねぇ。
じゃなきゃ、単に考えなしな子供が親に連れられて旅行に来て、退屈して悪戯しただけかも?
岩から出来た慰霊碑を、幼い子供が壊せるかは微妙に不明だが。
それはさておき。
「場所はどこですか?」
碧が尋ねる。
海外観光客は相変わらず首都圏とか大阪などの大都市に集中しているらしいが、最近は地方でもSNSでバズると観光客が殺到するらしいからね。
出来れば東京だといいんだけど。
が。
残念ながら遠藤氏が言った場所は日本海側の新幹線が新しく通った場所から車で1時間強かかる場所だった。
一応それでも新幹線とレンタカーでギリギリ日帰り出来なくはないらしいが。
「東京から我々に行かせるよりは、地元なり京都の術師なりに頼む方が交通費が掛からなくて良くないですか?」
思わず口を挟む。
面倒なんだけど〜。
『最近は京都も海外から来る観光客と彼らのやらかしで一杯一杯なんです。
大人数が毎日押し掛けると、まさかと思う様なタブーを犯す人がそれなりにしょっちゅう出てきてまして』
遠藤氏がうんざりした様な声で教えてくれた。
なるほど。
どこぞの田舎町(かどうかは知らないけど)の慰霊碑を蹴り壊す(多分)観光客がいるなら、京都の観光名所を回っている間に悪戯する暇な観光客もそれなりにいるんだろうねぇ。
昔からの恨み辛みや、それを封じたり鎮めている慰霊碑や寺社は、日本中のどこよりも古都に多くありそうだ。
オーバーツーリズムで観光名所の負担が大変って話はちょくちょく最近聞く様になったけど、あれって山とかの人通りやゴミ捨てが問題だとか、観光客が多すぎて宿泊場所やレストランが混雑するって問題だけでなく、アホのやらかしの対処に退魔師が忙殺されるって言う問題も含まれていたのか〜。
ちょっと想定外。
『どうする?』
碧が念話で聞いてきた。
電話中は声に出さずに相談する方がいいからね。
予備の念話カードを電話の側に置いてあるから、私達はいつでも無言で相談できるのだ。
『まあ、霊障が出てるなら地元の人にとってもいい迷惑だろうから依頼を受けてあげるべきだろうねぇ。
でも、どこか良い温泉宿を取るよう要求しない?
ちょっと日帰りは厳しいでしょ』
ついでに、寒くなってきたから温泉でがっつり体を温めると気持ちが良さそうだ。
『確かに。
退魔協会お勧めな場所を頼むと言っておこうか。
これでハズレな所だったら今後は日本海側の依頼は受けないって匂わせれば良い場所を選んでくれるでしょう』
碧が悪戯っぽく笑いながら応じた。
「分かりました。
浄化にどれだけ時間が掛かるか分からないので、近辺の温泉宿を手配しておいて貰えます?
レンタカーはこちらで最寄りの新幹線の駅で借りますので。
退魔協会ならば今後の仕事の際に楽しみになる様な宿もご存知でしょうから、期待していますよ?」
碧が遠藤氏に告げた。
『霊障が起きている場所の近くに、肌がツルツルになると評判な温泉宿があるのでそちらを押さえておきます』
遠藤氏が素早く答えてきた。
空きがあるか、確認しなくて良いの?
……もしかして依頼主がその温泉宿のオーナーなのかな?
まあ、なんにせよ。
久しぶりの温泉宿だ。
一晩なら源之助も留守番できるだろうし、たっぷり楽しんでこよう。




