ポツン
翌日は、青空が綺麗な晴れた良い天気だった。
「これじゃあ長靴履いて行くのは目立つね」
お洒落な皮ブーツみたいなのならまだしも、マジで実用的なビニール長靴だからねぇ。
紐まで付いているし。
諦めて手で持って行こう。
帰りは依頼主から別れたらさっさと亜空間収納に入れるぞ!
ジャケットもそれなりに良いのを選んで羽織って行く。ウィンドブレーカーはバッグの中だ。着替えも持って行く。
暖かい日差しの中ではジャケットは要らないぐらいだったが、ボロいスウェット上下で電車に乗りたくなかったので、秋用コートで誤魔化す。
長靴にボロいスウェットとウィンドブレーカーで現れて、迎えに来た依頼主の社員が私らを認めてくれなかったりしたら気不味いし。
『本当にこの二人が退魔師ですか??』みたいな確認電話が退魔協会に入るのは避けたい。
まあ、いざとなれば魔力を少し放出して威嚇すればそれが威厳代わりになるとは思うけど。
スムーズな人間関係のためには、威嚇よりは薄いコートで見た目を改善する方が良いだろう。多分。
指定された最寄り駅で降りたら、どうやら依頼主の社員は私らが出てくるのを待って駅の周りをぐるぐるしていたのか、ちょうど駅から出た時に目に入った明るい青の車が、ピックアップポイントとして指定された看板の前に立った私たちの前へ2分ぐらいで再び現れて停まった。
駐車の問題もあるから、駅での迎えって面倒だよねぇ。
車を停めて待てないからってぐるぐる運転して回っているなんて、ガソリンの無駄遣いだ。駅の周りの混雑にも悪い意味で貢献しちゃうし。タクシー代でも出してくれて自力で来いって言われた方がよっぽど効率的そう。
まあ、見回してみたら周囲にタクシーはいなかったので、実は助かったけど。
中途半端に都心な駅だとタクシー乗り場が無いし、客待ちタクシーも居ないんだね。
「退魔協会の方ですね?!
前橋建設の横田と申します!」
車から飛び出して来た若い男性が元気に声を掛けてきた。
社用車って無難なシルバーか黒かと思っていたけど、明るい青なんてあるんだねぇ。ちょっと珍しい色かも。
見つけやすくて良いから選んだのか、人気がないから安かったのか。
まあ、明るい青が人気がないと考えるのは私の偏見だけど。
なんか車って渋い色が多い気がするが、明るい青じゃいけないなんて事はない。
法事とかには使わない方が良さげな気がしないでもないが。
「退魔協会の藤山と長谷川です」
碧が横田さんの挨拶に応じる。
どうもこの駅のそばは車を停めていると直ぐに注意されるらしく、挨拶もそこそこに車に乗るよう言われ、10分弱で駐車場に囲まれた一軒家の前に辿り着いた。
うわぁ。
周囲の家を買うのに成功したのに、この家だけガンとして売らなかったんかぁ。
と言うか、下手をしたら土地の買い上げを始めた時点では売ることに合意していたのに、喧嘩でもしたか、認知症になり始めたかで突然話が拗れたのかも?
いや、考えてみたら所有者が認知症になった場合って、『土地を売らないと生活できない』なんて状況じゃない限り、確か不動産は売れないんだよね?
資金的に生活が厳しかったら認知症である診断書を貰って成人後見人をつければ売るのも不可能じゃないって話だが、中途半端にお金があるとそれも難しいと聞いた気がする。
夫婦で暮らしていたんだったら標準レベルの年金を貰っていれば自宅での暮らしは可能そうだし、奥さんも夫を『自立できないボケ老人です』と宣告するのに抵抗を感じただろうしねぇ。奥さんがボケ始めて、夫が馴染みがない場所へ引っ越すのを躊躇って売るのを拒否した可能性もあるが。
そう考えると、開発業者にとって、所有者の認知症問題ってマジで頭が痛いんだろうなぁ。
駐車場に囲まれて日当たりだけは抜群に良い筈の家は……薄暗かった。悪霊の穢れで家全体に暗い印象があるだけでなく、壁も蔦が這ってカビと苔が生えてグレーと茶色の斑らになっている。
何箇所か壁のひび割れを塗り固めた跡と、2階の窓の幾つかは窓が割れたのかガムテープで留めてあったり、ブルーシートで覆われている。
一箇所は板が何枚か不揃いに釘で打ち付けられていて、かなり全体的に見窄らしい外見になっている。
「中々おどろおどろしい感じですね」
穢れなしでも、老人二人で大変だったっぽいのが滲み出ている感じな家だった。
周りはそれなりにスッキリした家や新しいマンションが多い様なので、周囲にとってはこの汚屋敷は迷惑だったんだろうなぁ。
家の周りの庭部分は更地っぽくなっているのに多少異臭が残っている感じだし、多分これだったら家の周りの植栽も伸びるがままだった上に色々とゴミが積んであったんだろうなぁ。
「これでも家を解体する前に周囲の木を伐採して敷地に積み上げてあったゴミも全て撤去したからかなりスッキリしたんですよ」
黙って家の外を見回している私と碧に、横田さんがちょっと言い訳がましく教えてくれた。
「大変だったんでしょうね。
ちょっと長靴と上着を変えます。
着替えは車の中に置いておけますよね?」
この穢れの中にコートを持ち込むのは断固拒否だ。
そう考えると、物を置く場所として車があるのは良いことだった。
タクシーだったらコートや靴をどうするかは中々悩ましい問題になっていたかも。
活性炭フィルター付きの脱臭力お任せ!とか書いてあったマスクを買ってきたんだけど、これでなんとかなるのかな……。
入る前から心配になってきた。




