お偉い先生?
「重機で壊していた最中なんだから、当然家の中も土足でOKだよね?
スニーカーがいいかな?」
電話を切った後、翌日にその汚屋敷に行くことになったので準備を始めた。
「どこかで水漏れしてるかもだし、Gとかの死骸をうっかり踏み潰す可能性だってあるかもだから、水洗いの出来る長靴の方が良くない?
ズボンの裾も長靴の中に入れておけば、変な埃とかも入らないし。蜘蛛や蝿やその他諸々が服の中に入るリスクも最小化出来るかも」
碧が更なる安全策を提案した。
うげげげげ〜。
服の中に入って来る虫なんているの!?!?
「長靴にしっかり押し込んだ上下のスウェットの上の古いウインドブレーカーの前をきっちり閉めて着よう。
家の中に入ったらフードも出して被ろうかな」
天井から埃だけでなく蜘蛛とかが落ちて来たりしたらマジで嫌だ。
……蜘蛛ってどう言う時に巣から降りて来るんだろ?
巣に餌が掛ったら寄って来るんだろうけど、人間はたとえうっかり巣に引っかかっても破っちゃうだけなんだし、寄って来ないよね??
もしかしたら破れた巣から落ちる先が下を歩く人間になるのかもだけど。
「山歩きとか工事現場みたいなところを歩く必要があるかもって安全長靴を買っておいて良かった〜。
以前から持ってたお洒落なブーツに見えなくもない長靴じゃあ足首の防御が足りなそう」
碧に足首までの長靴じゃあ場所によっては足りないんじゃ無い?と指摘されて新しく安全長靴とか言う、膝の近くまであって上を紐で閉められるのを最近買ったんだよね。正解だった!!
「ついでに虫除けスプレーも持って行って、あっちで掛けようか。
あとは虫避けカードを持っていけば生きたGとムカデは避けられる筈」
碧が溜息を吐きながら言った。
「そっか、碧の作ってくれた虫避けを持っていれば、Gが足の上を走っていくリスクは最小化出来るよね。
まあ、他にも色々と虫は繁殖していそうだけど。
帰りに銭湯にでも寄ってお風呂に入って帰ってこない?
スウェットとウィンドブレーカーは捨てるか洗うかはあちらの状態次第で決めるってことにしておいて」
変な虫や臭い埃がついていたりしないと期待したいが、万が一にもそれを家に持ち込みたくは無い。
銭湯にはちょっと迷惑かもだけど、きっとそう言うところはちょっと不潔な人が来ることもある程度は想定して、掃除とか防虫とかはしっかりしてるよね??
「服の汚れが捨てなくてもいいレベルだったらコインランドリーが併設されている銭湯に行けば、ついでに洗濯できて良いかも?」
碧が提案した。
「確かに!
開発業者の人が最寄り駅まで迎えに来てくれるって話だから、帰りはそんなところに寄りたいんだけど知らないかって聞いたら調べておいてくれると思わん?
まあ、業者の人が家の中まで一緒に入ってくるなら調べる暇も無いかもだけど」
だが、入ったらその人も切実に体を洗いたくなるんじゃ無いかな?
「だね〜。
開発先の場所を知られたく無いからって住所を送ってこないから送り迎えしなきゃいけないなんて、馬鹿げてるけどね。
携帯を持っていけばすぐに分かっちゃうのに」
碧が笑いながら言った。
「多分開発業者の上の方のお偉いさんはGPS付き携帯が普及する前の世代の人なんでしょ」
今時だったら自分や自分の子(や孫?)だってGPS付きの携帯を持っているんだから、昔通りの行動をしても意味がないって分かりそうなもんだけどね。
「もしかしたら……場所を知られたくないんじゃなくって、単にお偉い退魔師の先生を送り迎えするのは当然だと思っているのかも?」
碧が指摘する。
そうかぁ。
退魔師が送迎必須な『お偉い人』だと思っている可能性もあるのか。
確かに、旧家の当主とか次期当主とかだったら車での送迎は当然と思っているかも。
でも。
「お偉い筈の先生が。ボロいスウェットを長靴に押し込んで古いウィンドブレーカーを羽織って現れたら、退魔師だと信じて貰えないかも?」
「……一応、遠藤さんに、どんな服装が無難かを確認する感じに電話して、ボロい服が必要って言うように誘導しよう。そんでもってそう言うボロい格好で行くから依頼主にもビジネスカジュアルとかを想定しないよう言い聞かせておいてねって伝えておこうか」
碧が顔を顰めて言った。
それが無難そうだ。




