所在地不明な悪霊
電話が鳴った。
毎度お馴染み、退魔協会の着信音だ。
まあ、退魔協会じゃなければ押し売りか、変な詐欺かだけど。
そういえば、こないだは珍しく政権支持率の調査とか言う電話が掛かってきたが。とは言っても現時点では上手くやっていくのか様子見状態で支持するもしないも決めていないので、『忙しかったらここで通話を切って下さっても結構です』と案内があった時点で通話を切った。
本当に正式な調査だったのか、何か詐欺につながる様な電話なのかも不明だったしね〜。
『お世話になっております、退魔協会の遠藤です』
いつもの声が聞こえてきた。
「こんにちは〜」
食卓から手を伸ばしてスピーカーボタンを押した碧がのんびりと応じる。
もう卒論も終わったし、他の講義はレポートをあと幾つか書けば良いだけでな上に、別に落としても卒業単位は足りている。なので最近は私も碧も、のんびりと源之助を愛でながら符を書き溜める毎日なんだよね。
ちょっと変なお見合い騒動があったせいで、微妙に出歩く気も失せたし。
『実はとあるマンション開発業者が敷地を買い取ろうと10年以上掛けて交渉していた土地の所有者の夫婦がどうやらいつの間にか亡くなっていたことが判明して、遠縁の相続人から土地を買い取ってそこと周辺地を開発しようと、解体業者を送り込んだのですが……。
どうも元の所有者か誰かが悪霊化していたらしく、事故が多発して解体作業が行き詰まり、そこを清めて悪霊を祓って欲しいとの依頼が来ました』
おや。
最近にしては珍しく普通の悪霊祓いなんだ?
ここのところ、呪詛系が多かったからなぁ。
まあ、考えてみたら近藤さんと友人達の案件も強烈とは言っても悪霊だったけど。
「家の中に入って悪霊を祓えば良いんですか?
それとも、既に家は壊してあって敷地を祓うのでしょうか?」
碧が尋ねた。
解体に失敗したってことは敷地じゃなくて家の中かな?
『実は……最後の方では夫婦が認知症になっていたのか汚物屋敷化していたようなのです。
一応1階の奥の和室までは歩ける通路があり、通報があって警察と共に自治体の職員が入った時にはその途中の廊下と奥の和室に遺体があったそうなのですが、退魔協会の調査員が調べたところ、霊障はあるもののその部屋と廊下には霊障を起こすクラスの悪霊は見つかりませんでした。
家の中の他の部分は歩き回るのも至難の業で、しかも外から重機で少し作業を始めたせいで一部の柱や壁が傾いていまして……』
遠藤氏が言いにくそうに説明を続けた。
「敷地全体を結界で覆って浄化すれば良いんですね?」
碧が尋ねる。
力技だけど、どこに悪さをしている地縛霊がいるのか分からないんだったら、それが早いよね。
汚屋敷になっちゃってるなら、過去に何かヤバい霊が憑いていた物を持ち込んじゃって、そのせいで認知症が悪化して物を捨てられなくなった可能性もあるかもね〜。
そんな状態で、家の中を探し回るのは無理だ。
『実は、開発業者に霊を説得してくれと頼まれてそこを訪れた相続人が言うには、十年以上前に行方不明になって死亡宣告された夫婦の息子さんの霊が自分を解放しろと訴えてきたとの話でして。
もしかしたら敷地内に遺体があるかも知れないので、除霊そのものは敷地全部でやるにせよ、霊に尋ねて遺体の場所を見つけて欲しいとの要請も追加されています』
遠藤氏が言った。
うえぇぇぇ?!
汚屋敷の中に入って、ここですって示さなきゃいけないの??
しかも敷地全部をバッサリ除霊しちゃったら誰の霊なのかも確定出来ないから、遺体を見つけてそれを使って召喚しない限り霊を呼び戻せない可能性が高い。
でも遺体が見つかったら霊を呼びだして尋ねる必要は無いんだから、召喚する意味がない。
「つまり、汚物屋敷の中で、遺体か悪霊かをしっかり見つけて遺体の場所を確定した上で祓わなければならないんですか」
碧が嫌そうな顔をして確認した。
『はい、お願いします。
急ぎではあるものの、事情が事情だけに、日程は必要なだけ掛けてくれとのことです』
真夏じゃ無いのがせめてもの救いだが、今の時期でも汚屋敷ってかなりの悪臭がしそうだし、まだ虫だって死に絶えてないんだろうなぁ。
でもまあ、今だったらコートを着て入らなきゃいけない程は寒く無いから、捨てても良い古いジャージでも着て中に踏み入ればいいかな?
マスクとゴーグルも必須だろうけど。
あまりやりたくは無い仕事だが、ゴミとして重機で遺骸が粉砕されたら可哀想だからねぇ。
しょうがないから頑張りますか。




