怖!
「密林って時々不思議と非効率的〜」
先日の韓国製スマートウォッチを返品請求したところ、黒猫の集配員がちゃんとこちらが指定した時間帯に引き取りに来た。なので日本製のスマートウォッチと、ついでに柔らかそうなナイロン製の好きなサイズで留められる交換バンドを一緒にオーダーした。
「どしたの?」
碧が源之助を撫でながら私の呟きに応じて聞いてきた。
「こないだのふざけた韓国製のウォッチを返品して、碧が教えてくれた日本の会社のウォッチを注文したの。
どちらも密林発送、同じメーカーストアが売主、どっちも2日後の今日に発着と密林のページには出てたのに、何故か、今朝来たメールではウォッチの方だけ『発送しました』って書いてあったの」
てっきり同じ箱に入れて送ってくると思ったんだけどね。
もしかしたらバンドは郵便で送るのかもとも思ったけど。
「さっきウォッチが来てたよね?
どう?」
「見て〜。
源之助を文字盤にしたの」
でれ〜んとキャットタワーのハンモックに寝ている源之助の姿が文字盤の下の方に横たわり、右上の方に今日の日付と時間、および歩いた歩数が出ている。
意外と文字が見やすいし、写真も綺麗に写っている。
「何それ!?
良いじゃない!! 私も買おうかな〜」
碧が文字盤の源之助の姿を見て身を乗り出してきた。
膝の上に乗っていた源之助が不機嫌そうに尻尾で碧の腕を叩いたので、慌てて動きを止めたが。
「時計自身は良いんだけど、ちょっとバンドが硬い感じだから早くナイロンの交換バンドに変えたいんだけど、来てないのよ〜。
で、密林のサイトを確認したら、ウォッチの方は『本日お届け済み』って出ていて、バンドの方は相変わらず『本日お届け予定』。
ただし、配達状況をタップすると、まだ発送すらしてないんだって。
絶対にこれって今日は来ないと思わない?」
「サイトが間違ってるか、来ないか、どっちかだね〜。
また後で『本日18時に届けられませんでした』なんてしれっと出てくるかもよ?
在庫が無かったのかね?」
碧が皮肉げに笑いながら言った。
「かもね〜。
でも、商品を密林サイトで見るとまだ在庫ありって売ってるんだよ?
マジで誰かが何かミスったんじゃないかなぁ。
一緒に発送すれば問題なかっただろうに。箱のサイズだって、交換バンドぐらいなら入る余裕があったのに、アホみたいだね」
色々とポイントとかの利用で密林ペイの使い勝手が良いから、最近は値段が同じだったら密林を使っているんだけど、これからはこっちの利用は他で買えない時だけにしようかなぁ。
マジで色々と問題ありまくりで、苛つく。
そんな事を考えながら、碧に新しいスマートウォッチの機能を見せていたら(まあ、携帯で撮った好きな写真やダウンロードしてきた写真を文字盤に出来るって言う機能と、何故か計算機が付いている以外はそれほど目新しくないが)、電話が鳴った。
毎度お馴染み、退魔協会だ。
『いつもお世話になっております、退魔協会の遠藤です』
だよね〜。
「こんにちは。
先日の情報漏洩の件は何とかなりそうですか?」
私がクレームをつけた案件なので、私が答えた。
スピーカーにしていて碧も聞けるようにしているけどね。
『藤井は確保されてどこに情報を売ったのかも全て確認出来ました』
遠藤氏の声が電話から流れてきた。退魔協会なら黒魔術師を使えば記憶を読めるから、『全て確認』をするのも早いんだろうね。
流石に退魔協会の懲戒部門(あるのかな? あるよね、きっと)が捕まえる前に、上の人間とかがそれとなく情報を流して藤井を逃すなんてことは無かったようだ。
良かった。
「まだマッチングアプリが稼働してからそれ程は経っていないから、極端に沢山の情報は売られてないですよね?
それでも結婚とか愛人契約をする羽目になった被害者は居たのでしょうか」
藤井は銀行への振り込み以外では、自分の行動の結果に全く興味が無かったので誰か酷い目にあっているのか情報が無く、ちょっと気になっていたんだよねぇ。
『実は婚約者の会社から不渡りが出る様に圧力を掛けられて、避妊無しな愛人関係に合意させられた人物が居まして。
今回のお詫びとして退魔協会の方から婚約者の会社と被害者本人の方へ賠償をしますと連絡したのですが、既に婚約者との信頼関係は崩れているので賠償出来る話ではないと怒鳴られ、諸悪の根源だった藤井と面と向かって会いたいと言われました』
何やら重い声で遠藤氏が教えてくれた。
う〜ん、通常だったらこんな詳細をいくら最初に通報した人間だからって私に言わないよね?
……なんか嫌な予感がするんだけど〜。
「まさか、会ったら刺したとか?」
冗談紛れに言ったら、沈黙が返ってきた。
『鎌鼬で見事に首の横をスッパリ切られて、会議室が血の池になりました。
職員が立ち会っていたのですが、お茶が少し溢れたのでティッシュを取りに席を外した一瞬の出来事だったそうです』
マジ??
「うわぁ……。
退魔師ってやっぱその気になれば最強なんですねぇ」
ちゃんとした術師として働けたのに、婚約者の会社を盾に愛人になんぞならされて、怒り狂っていたんだねぇ。
「ちなみに、その愛人契約を強要した政治家か事業家はまだ生きているんですか?」
そっちも殺されてそうだけど。
『そちらは先日特急電車が入ってくる直前にプラットフォームから線路へ落ちて亡くなっていました』
それも突風で押されたってやつなんだろうねぇ。
怖!
因果応報に起きた事故(?)かも知れないが、怖すぎる。
「これからは情報管理をしっかりやって下さいね」
私は単にちょっと気持ち悪い思いをしただけだけど、人間を二人殺そうと思うぐらい酷い目に遭った人もいたんだから。
退魔協会の監督責任だって重いと思うよ?
公表は出来ないだろうけど。
『ええ、しっかりと実効性のある予防策を立てて、今後は定期的に抜き打ち検査もする予定です』
遠藤氏が答えた。
きっと退魔協会のお偉いさん達も、女性をモノの様に扱えるなんて言う古い考えは捨てないと危険だって実感したでしょう。
犠牲が出る前にそうやれればもっと良かったんだけどねぇ。
まあ、やらないよりは遅くてもやった方がまだマシか。
これでこの章は終わりです。
明日は休みますが、明後日からまた宜しくお願いします。




