見た目は悪くない男
「旧家の長男だったけど才能なしだから退魔協会へ職員として就職、しかもそっちでも大して有能ではないから調査員に定期的に確認検査されない程度の下っ端係長、ね。本人的にはそれなりに鬱屈したものがありそうだね」
興信所から貰った職員(藤井と言うらしい)の情報に目を通しながら碧に言う。
都内なので、カーシェアから借りてきたボックスカーを今日は碧が運転している。
幸いにも藤井は多少駅から離れたマンションに住んでいるので、帰宅途中に捕まえるのは簡単そうだ。
「だろうねぇ。
陰陽師系の旧家だったら長男第一で育てるけど、能力が発現しなかったら絶対に当主にはなれないからね。思春期になっても能力が発現しなくて、ガラリと周囲からの扱いが変わったのもショックだっただろうし。
まあ、職場で仕事が出来なくて下っ端なままなのは本人が悪いんだから、情報を漏らしたことに関する同情の余地は無いけど」
旧家の長男って事に対するプライドと、霊能なしって事へのコンプレックスとで退魔協会の職場でも使い難い人材になってそ〜。
「実はそんな自分を評価しない退魔師業界へ復讐する為に、定期的に黒魔術師からチェックをされるほど偉くならない様に敢えて仕事で手を抜いて情報を売りまくってるなんて事はないかな?」
ちょっと深読みしすぎな気もするけどさ。
「本当に有能だったら、みみっちく情報を売って儲けるのではなく旧家の資産と伝手を活用してでも他の業界で成功しているでしょ。
本人が『敢えて上へ行っていない』と思っているにしても、実際はそこそこ無能なんだと思うよ〜」
碧が辛辣に言った。
敢えて無能なフリをしているつもりなのに実は正真正銘無能だったなんてケースも中々惨めだね。本人はそれに気付かないで周囲を見下しているんだろうけど。
「どちらにせよ。今回は単なる小遣い稼ぎか、偉い国会議員の先生に頼まれて舞い上がっちゃっただけなのかな?」
褒められて伸びるのではなく、舞い上がるタイプなのかも?
「どうだろう。
どちらにせよ、たとえ誰か上の人から凛と私を引き離せたらラッキ〜って事で情報を流せって言われたのだとしても、絶対に情報漏洩の問題が発覚した場合は守って貰えずにクビになるか、降格処分になってヒラなんてやってられるか!って自分で辞めるかじゃないかな」
碧がそう言いながら目的の脇道に入って車を停めた。
「じゃあ、後ろの席に移ってるね」
藤井が通り過ぎた時に助手席に押し込む為には後部座席にいる方が良いからね。
音がしない様に、ドアは完全には閉めないでおく。
「ちなみに、もしも碧が北海道なり九州に引っ越す!って言ったら退魔協会から『止めてくれ〜!?』って泣き付かれるのかな?
それとも国内にさえいればオッケー?」
もしもの時のセキュリティゲートの結界張り直し要員としては都内にいる方が便利だろうが、状況次第では諏訪に戻る可能性だってあるし、それは止めようがない。
だとしたら、空港にさえ近い場所だったら北海道や九州でもあまり変わりはないかも?
「やっぱ私や凛じゃなきゃダメって言う様な大型な案件って首都圏の方が多そうな気もするから、出来れば東京にいて欲しいんじゃない?」
碧が軽い感じに答えた。
「だとしたら、私を北海道に誘おうとするのに加担したのは下っ端だけか、もしくは碧の相棒か結婚相手を紹介できると思っているお偉いさんかね?
何かそんな話ってご両親の方に来てる?」
お見合いって親の方に先に話が行くよね?
まあ、碧ママもパパも、アホなお偉いさんの話なんて相手にもしないと思うが。
アホじゃないお偉いさんが絡んでいたら面倒かもだが、碧にお見合いを勧められると思っている時点でアホな気がする。
「特に聞いてないらしいのよねぇ。
凛のお見合いの話が来た時に、両親にも確認してみたんだけど。匂わせる様な話すらないって」
首を捻りながら碧が言った。
『駅を出たぞ』
藤井の後を追わせて近付いたら教える様に頼んでいたハネナガから念話が来た。
「お!
最寄駅に着いたらしい」
暫く待っていたら、中年男性が道に入ってきた。
スーツの上にコートを羽織っていて、特に中年太りもしていない。
姿勢も悪くないし、コートも高級そうなカットに見えるから、駅とかですれ違ったらそれなりにできる男に見えたかも?
少なくとも、金のある男には見えるよね。
金がある場合って社会的地位も高い事が多いのだが、彼の場合は実家の資産なんだろうなぁ。
もしかしたら、私以外の退魔師の情報を売りまくって儲けている可能性もあるけど。
藤井がボックスカーの後部座席の横を通り過ぎた瞬間に静かに扉を開けて道に出て、彼の首に触れて意識を刈る。
碧がそのタイミングで助手席のドアをぐいっと開いたので、座席に押し込んで、ドアを閉めて私も後部座席に戻った。
さて。
情報を読ませて貰いましょうか。
黒幕は誰かな〜。




