怪しさ満載だけど
「お父さんったら。去年、お見合いの話を持ってきた時に言ったでしょう?
結婚する気すらあるかどうかははっきりしないのに、お見合いなんてこれっぽっちもする気はないんだから、話を持ってくるだけ無駄だし迷惑だって」
懲りないねぇ。
去年のは退魔師の家系の男性と出会う機会が無いだろうと気を利かせたようだったが、今回はそれすらも無いよね。
もしかして、うちの父親って押されるのに弱いダメ親父なの??
商社マンとしてそれなりにしっかり働いているらしいのに。家族の話限定で要求を押し込まれやすいなんて、最低だよ?
「貴方ったら、本当に懲りないんだから。
専業主婦を養えるぐらい金持ちな男を探している有閑マダム希望な女性ならまだしも、自立志向が高い凛みたいな子にとって子供が是非とも欲しいとでも思っているんじゃ無い限り、結婚なんて家での負担が増えるだけで、得るものはあまりないのよ?
もう少し歳をとって見栄とか寂しさで配偶者を求めるならまだしも、大学も卒業していない今の時期にお見合い結婚なんて考える訳がないじゃない。
どうして懲りずにお見合いの話なんてまた持ってくるの??」
母親も呆れたように父に文句を言う。
「て言うかさ、最近は変な人も多いんだし、適齢期の娘がいるって事は会社の人や取引先やその他の知り合いにも言わないで欲しいな」
お見合いなんて、話を持ってこられる時点で迷惑だ。
「いやぁ、なんか水を向けられて子供の自慢話を始めるとついつい口が滑っちゃうんだよねぇ。
商談が終わった後の食事だったから下心はないだろうと気が緩んでいたのかも」
頭を掻きながら父が言った。
「見たこともない他人の子の話を延々と聞きたがる人なんて普通は居ないわよ。
何か狙っているに違いないんだから、私の話は絶対に外でしないで」
ただでさえ変なハニトラ狙いな連中が最近は増えているのに。
「そうよ、凛の話を聞いて変なストーカーが湧いてきたらどうするの??
そうじゃなくても、北海道なんて遠いところに。
輝もあっちに住んでいるのよ?
凛まで北海道の人と結婚するなんてことになったら、私たちも定年後は北海道に移住なんてことになるわよ、良いの?
寒いの苦手なくせに」
母親が突っ込みを入れる。
北海道ってセントラルヒーティングで家全体を暖めるから家の中は過ごしやすいって話だけど、外は寒いだろうからねぇ。
しかも雪国育ちじゃないと雪や氷混じりな地面の上をスイスイ歩くのって難しいらしいし。
定年後に北海道に移住なんぞして、氷に滑って転んで骨折なんてしたら怪我の場所によってはそのまま寝たきりになりかねないよ?
と言うか。私は結婚する気もほぼ無いのに。なんだってお見合いなんぞしなきゃいけないのだか。
「お見合いをする気はないから。断ってね」
面倒すぎる。
「北海道にタダで遊びに行く良い機会じゃないかい?
なんだったら卒業旅行のついでに会ってくるんでも良いし。
中々切れ者な良い人なんだよ。
あの人の息子さんなら、きっと良い感じに付き合えるかもと思ったんだが」
父がしょぼんとした顔でこちらを見てきた。
「呆れた。
その取引相手の人に惚れ込んで、その人と家族になれたら良いかもってことでお見合いの話を持ってきたの??
日本人の仕事が出来る男なんて、残業ばかりで家族サービスなんてする暇がなくて殆ど子育てに関与してないんじゃない?」
ウチの父親が『仕事が出来る男』かどうかは知らないが、少なくとも私を育てたのは基本的に母だ。
父親が私の人格形成に及ぼした影響はごく微細な部分だけ。
しかも実際に父が何か言った事が私に影響を与えたと言うのではなく、母の父に関する愚痴を反面教師的な教訓として心に刻んだだけだ。
「いや、まあ、そうかもだが……」
自分の家族サービスの少なさを自覚しているのか、父が口籠った。
「取り敢えず、お見合いの話は断って。今後も私が頼まない限り、絶対に持ってこないでね。
そんでもって、マジで外で私の話はしないでよ。
赤の他人が私の事を知っているかもなんて思うと寒気がするわ。
あと、その人が何か変な事を企てていないか確認したいから、その人の名前と会社とか連絡先を教えて。
昨日、大学の教授から北海道の方へ院生として行かないかって変な話があったのよ。
偶然にしても気持ちが悪いわ」
父親の方は単なる偶然かもだが、大学の方は明らかに怪しい。
そのタイミングで上手い事父親を乗せてお見合いに話を持ってきた、その取引相手もかなり怪しさがマシマシなんだよねぇ。
ある意味、東京でのお見合いだったら相手の記憶を読む為に会いに行こうかと考えるぐらいに怪しい。
流石に面倒だから北海道まで怪しい人間の記憶を読みに行く気は無いが。
どうすっかねぇ。




