連続して北海道
「君は北海道大学の誰かとその卒論に関して相談したのかね?」
卒論の最終版を渡しに行ったら、ゼミの教授に変な事を聞かれた。
「いえ?
兄があちらの大学を卒業しましたが、理工学部だったので学部が違いますし。最初からあちらに行くつもりも無かったので受験用の資料すら集めていませんから、大学本体の連絡先すら知りませんよ?」
兄貴の後輩になる気は無かったからね
北海道大学に入るなんていったら、下手をしたら安全と費用削減の為に兄貴とハウスシェアしろとか言われかねないとも思ったし。
特にスキーやスノボが好きな訳でもない私が寒い北海道に行く理由なんてない。
大学を考えている時に、東北の国際教養大学に行くと海外に近い感じがして良いかも?とチラッとは思ったが、要求される試験勉強として学ぶ英語のレベルが高すぎて諦めた。
面と向かって外人と話すんだったらこっそり相手の表面意識を少し読ませて貰えば相手が言いたい事が多少は分かるし、それこそ本格的に学びたかったら誰か酒を飲んで意識不明になっている外人から時間をかけて言語知識をがっつり写させて貰って語彙とかを増やすと言う奥の手もあったが、そう言う知識って必ずしも試験には役に立たなそうだったんだよねぇ。それにテレビの洋画で試して、録音を流されるのでは何を言われているのか全く分からない事が記憶が覚醒して直ぐに判明してたし。
外人留学生が多いと言う国際教養大学だったらそれこそ外人と知り合いになって酒を飲みに行く機会があるかもだが、受験時点の高校生じゃあ外人と知り合う機会がないし、飲み屋に入るのも難しかったしね。
なので普通に東京の大学を選んだのだ。
「実は先日こちらに学会で来ていた教授から、君が卒論に選んだトピックに近い分野でスポンサーからリサーチを頼まれたから手伝いも兼ねて誰かその分野に興味がある院生でも居ないかと聞かれてね。
まるで君に研究室でのポジションを与えるための様な話だったんだが」
教授がちょっと困惑したような顔で質問の裏を教えてくれた。
「……なんですか、それ。
私の卒論の内容なんて、何でその人が知っているんです??
もしかして、教授ったら私の卒論を何処かに置き忘れたりしました?
でも、そうだとしても態々スポンサーが居るなんて言ってくるのはおかしいですよね」
前世でこんな怪しげな『美味しい話』が出てきたら、ほぼ間違いなく誘拐とか人身売買の前準備だった。
日本で流石にそれはない……よね??
東欧とかでモデルのスカウトで良さげな話に釣られてアメリカに連れてこられたら、娼婦としてエスコートサービス業界で働く羽目になったっていう女性の話は海外ドラマで何度か聞いたが、国内での移動だったらそんなヤバい話にはならないよね?
ああ言うのってパスポートを奪われるから逃げられなくなるって話だし。
「いや、長谷川くんを名指しって訳じゃあないんだが。かなり分野が君の卒論の研究内容に近かったから、誰かに相談してそのアイディアを盗まれたのかもとちょっと心配になってね」
教授が少し赤くなりながら言った。
と言うか、私が何かアイディアを盗んだと思った可能性も高そう?
たかが大学の卒論程度でアイディアを盗んだとか盗んでないとか言った話になるとは思えないが。
「既に卒業後に友人と起業する話が着々と進んでいるので、院へ進む気はないですね〜。
でも、なんかちょっと気持ち悪いし気になるのでその教授とスポンサーの名前を教えて貰えますか?」
名前を聞いたところで何か調べられるって訳でも無いが。
そんな不思議な体験をしたあと、父親に呼ばれていたので実家に寄ったら、何やら母が機嫌の悪そうな顔をして待っていた。
「どうしたの?」
父親がちょっと用があると呼び出してくる事自体かなり珍しかったのだが、母の表情を見るに、私の好きなおやつをお土産で買って来たからくれるとか言うような話ではないようだ。
ちぇ。
北海道の方に出張で行っていたと電話で話していたので、何か美味しいチョコ系のお土産でもあるのかと密かに期待していたのに。
「実は出張先で会った取引先の人と酒を飲んでいる間に子供の話で盛り上がってね。凛のことを話しているあいだに、いつの間にかそこの息子さんと是非ともお見合いをしてみないかって話になっていたんだが……どうだろう?
交通費とホテル代を出すよ?」
はぁぁぁ??




