見つかったんだ?
「ふざけるな〜!」
西江からランチを奢られ、数日後。
夕食後にのんびりと私がテレビでニュースを見ていたら、タブレットを弄っていた碧が急に立ち上がって玄関から出ていったと思ったら、数分後に戻って来て怒りの声を上げた。
「どうしたの?」
「昨日密林で買った洗顔フォームが今日着くはずだったのに、中々来ないから配達状況を調べたら『本日の18時に配達することができませんでした』だって!
凛も私も午後はずっと家に居たのに! インターフォンは鳴ってないよね?!
ドアの外にも置いてないし、郵便受けにも不在届は無いし、宅配ボックスにだって空きがあるのに!
と言うか、洗顔フォーム一つだったら郵便受けに入るでしょう!!!
何が『18時に配達する事が出来ませんでした』よ!!」
碧が憤懣やるかたない様子で言った。
「なにそれ。
密林の配達ってマジで配達業者を酷使して厳しいって話だから、配達する荷物の量と時間の関係で今日の配達はもう無理だって諦めたんだろうけど。
それだったら『すいません、時間調整に失敗して配達出来ませんでした。明日朝一に届けます』って書くべきだよね。
まるでこっちが留守にしていたせいで配達出来なかった様な言い回しって感じ悪〜」
アメリカの会社だから、自社側の落ち度を認める書き方はしない方針なのかね?
日本だったらそれで訴えられる事なんてないだろうに。
いやでも、密林は毎回買い物するたびに六百円払って有償会員になれば無料で明日届けますよ?!って押し売りしてくるんだから、それで急ぐからと六百円払ったのに届かなかったら少なくとも六百円の会費の返金を求める人は出て来そう。
「単に、『今日は届ける事が出来ませんでした』って言うならまだしも、18時って時間を特定しているところが嫌らしいよね。
それこそ留守にしていたら、配達に来たのに宅配ボックスが一杯で配達出来なかったんだろうと思わせるような書き方じゃない?
しかも、配達時間ってあそこは22時までやっている筈なのに!
一度も配達に来てないなら、諦めずに22時までの間に来るべきでしょう!
まだ19時よ!!」
碧がドスドスとリビングの中を怒りを込めて歩き回りながら文句を言う。
「密林への怒りは分かるけど、源之助がびっくりしてるよ?」
尻尾が膨らみ気味になりつつソファから碧を見上げている源之助に気がついて、ちょっと宥める様に碧に言う。
「おっと。
ごめんね源之助〜。
別に今日来なくても構わないんだけど、こっちに問題があったと敢えて誤認させる様な言い回しがむかついちゃったのよ〜」
碧がソファの前でしゃがみ込んで源之助の頬をウリウリと撫でながら謝った。
「最近は人手不足で配達業界も大変なんだろうけど、密林って大手なのにやる事がせこいしえげつないよねぇ」
大手なんだから、他より余裕を持って真摯な対応を取るぐらいの事をして欲しい。
「こんなエゲツないせこさの積み重ねでまともな競争相手を駆逐する事になったら、めっちゃ迷惑なんだけど〜」
碧が溜息を吐きながら言った。
「だねぇ」
世の中どうなっていくんだか。
技術が発展してより良く暮らしやすい世の中になるかと思いきや、色々と問題が出て来て悪くなっていく事もそこそこあって切ないねぇ。
そんな事を思っていたら、メッセージアプリの通知音が鳴ったのでタブレットを起動した。
おや。
西江からだ。
八代アヤカの件で何か問題が起きたらまた相談したいかもと言われたのでチャットアプリのIDを交換したのだが、何か起きたのかな?
この時間に連絡って事は、一服盛られて目覚めたら横にいたってケースではないと思うが。
それに今時だったらうっかり酒の勢いか何かでやっちゃったところで責任を取れって言うのも無いだろうしねぇ。
『マジであいつがキャバクラで働いているのを発見。
こっそり確認の為に見にいったら店にいた』
おお〜。
数日掛かったって事は、自力で見つけ出したのかな?
それとも興信所でも、常時契約している所でも無い限り依頼を出してから報告までに数日掛かるのかも?
『それで結局、どうするの?
バラす? 脅す? サークルを辞める?』
サークルを辞めるなら態々調べる必要は無かったと思うが。
と言うか、キャバクラ嬢にあっさり軒並み引っ掛かるような仲間って友人としてイマイチじゃないかな?
判断力が信頼できないと思うけど。
『あの女がサークルに来る様になってやめた奴とちょっと話してから決めるよ。
相談に乗ってくれて、ありがとう』
何やらちょっと硬い感じな返事が来た。
まあ、たいした事はやってないからどうでも良いんだけどね。
そのうち講義で会ったら聞いてみよう。




