チグハグ
「やっだ〜、真也クンったら何言ってるのよ〜!」
部室とやらの扉を開けたらキャピキャピとした明るい声が聞こえてきた。
うわ〜。
あざと可愛い系だね。
女性からしてみると男受け狙いすぎな声で天然ではあり得ないだろ〜!と思うのだが、一緒に楽しげに会話している男たちを見るに、彼らは嘘臭さを感じていないらしい。
同じ部室内の奥の方にいる女性二人組は冷めた目つきで入り口周辺に屯しているグループを見ているようだが。
「いやだって、アヤカちゃん、俺はちゃんと言ったんだよ?」
何やら男子が女性へ楽しげに抗議する。
そう言えば、粘着女の名前を聞いてなかったな。
でも、妙にサークルの男どもが味方すると言う話だったら、この『アヤカちゃん』とか言う女なんだろうなぁ。
「だからって〜。
幾ら真也クンがそう思っても他の人が皆が皆、そう思うとは限らないんだから〜。
あ、悠人さん!
待っていたんですよぉ。
皆でランチに行きません?!」
するっと真也クンとやらの腕をさりげなく離す際に撫でながら、推定粘着女が西江の方へ擦り寄って来て西江の手を取った。
西江の名前って悠人って言うんだ?
前回の契約の際に聞いたのかもしれないけど忘れてた。
「いや、俺はランチに別の予定があるから。
あと、西江と呼んでくれ。親しくない人に名前を呼ばれるのは違和感がある」
西江がアヤカとやらの手を振り解きながらぶっきらぼうに応じる。
うわ〜。
かなりはっきりと意思表示してるね。
これでめげないとは、女の方も凄いな。
部屋にいる他の人を見たところ……何人かは笑いを堪えているような感じに口元に力が籠っている。
これって全員が全員、粘着女の味方をしているのではなく、何人かはアヤカとやらが西江を追いかけているのを面白がって見ているだけだね。
「に・し・え君! 酷いなぁ、私たちの仲なのに、親しくないなんて〜。
でも、そんな素っ気ないところも好きよ?」
粘着女はめげずに応じて、今度は西江の腕に抱きついて胸を押し付けていた。
マジか〜。
本当に胸を押し付けてくる女性っているんだ??
ラノベのあるあるな男を落とす手段だけど、現実にはやる人なんて居ない動きだと思っていた。キャバクラみたいなところだったら、もしかしたらやってるのかもとは思ったが……普通に大学生が素面な状態でやるんだ〜。
どうやら悪霊は居ない。が、ちょっと魔力の流れがある気がしないでも、ない?
魅了や意思誘導って程ではないようだけど。
多少だけでも魔力を込める事で、少しだけ周囲が自分の言葉に耳を傾けるよう注意を引ける、ごく微細な黒魔術の才能の片鱗ってところかも?
実際はボディタッチのほうが効果が大きいみたいだけどね。
もしかしたら、魔力がボディタッチへの抵抗感を消すのかも?
日本人ってそうそう人と触れ合わないから、大して親しくも無い人から触られたら引くよね?
その『え?』と引く反応を薄める効果があるのかも?
もうボディタッチに慣れた連中相手だったら今更魔力を完全に封じてもあまり違いは生じないと思うが。
「八代さん。
俺は君と親しくした記憶はないし、君と価値観が合うとも思えないので親しくしようとも思っていない。
君がサークルの仲間と仲良くするのは君と彼らの自由だが、彼らを利用して俺が君と出歩かざるを得なくなるように操るような言動をするのもやめて欲しい。
これだけはっきり、君とは趣味が合わないと言っているのに、何でこうも飽きずに接触してくるんだ?
ちなみに、俺の父親は先日問題を起こした挙句に亡くなったから、俺は一応就職は決まったが実質現時点では一文なしだぞ?」
西江がキツイ感じに八代アヤカとやらに引導を渡していた。
粘着女が傷付いたとでも言いたげな感じに手を胸元に戻し、俯く。
「そんな、酷い。
私は別に西江君がお金持ちだから好きになった訳じゃないのに。
好きな気持ちはどうしようも無いんだから、一生懸命アピールして私のことを少しでも分かってもらって好きになって貰おうとするのも駄目だって言うの?」
悲しげに言う姿は中々哀れっぽい。
が。
なんかオーラの感触が違うんだよねぇ。
悲しんでいるとか傷付いているっていうより、楽しんでる??




