権限と義務?
「考えてみたらさ、退魔師の能力を使って詐欺とか窃盗をしていた場合に退魔協会はそれを取り締まる権限と義務とかはあるの?」
母親との話し合いが無難に終わり、家に帰ってからふと気になって碧に尋ねてみた。
退魔師が悪事をしていたならば業界団体として対処すべきな気もするが、普通の業界団体だったら資格剥奪とかその程度だと思う。それ以上は司法が追及する権限と義務を負うだろう。
退魔師の場合はペーパー上の資格を剥奪しても意味がないから、能力を使えなくする為に封じる必要がある。これは警察や検察には無理で退魔協会が実行する必要があるだろうが……そう言うアクションを決める権限って法的に退魔協会に与えられているのだろうか?
「詐欺師ならまだしも、本当の退魔の術だったら科学的に警察が検証出来ないからね。
退魔協会が対処するよう委託されてるって聞いたな。
退魔協会が対処した事案を国や警察に報告しているかは知らないけど」
碧が教えてくれた。
そうだよねぇ。
魔術を科学的に検証出来ないって言うのは現世では中々難しい問題だ。
前世では王宮魔術師が魔術師の行った犯罪行為を調べ、別の魔術師が捜査結果を確認して刑罰を言い渡す制度になっていたけど、現世では退魔師は国に直接雇用されているわけではない。
術師の適性を有するが退魔師になる事を選ばず、封じられることも拒否した場合はそれを悪事に使ったら『気のせい』や『アクシデント』では済まさず、プロのボクサーなどが傷害事件を起こした場合なんかと同じで退魔師が術を使って意図的に法を犯したのと同等な扱いで厳しく罰則を受けるって以前依頼で出会った人に能力を封じるよう説得する為に言ったが、考えてみたらそう言う取り締まりを退魔協会がする法的枠組みがどうなっているのか、聞いてなかった。
国から委託かぁ。
別に検察庁が退魔師を雇ってもいいんじゃないかという気もするけど、科学的に実証できない行為のエキスパートを雇うというのは、頭の固いお国の役人には難しいのかな。丁度いい人数を常時雇用しているのも予算的に厳しそうだし。何と言っても退魔師は退魔の仕事をしていればかなり稼げるからねぇ。
「ちなみに、退魔師じゃなくて単に適性持ちな人の能力を勝手に封じて回ると退魔協会から睨まれたり、罰則を受けたりするの?
それこそピアニストの手を傷付けたりしたら単なる傷害を超えて賠償責任が生じると思うけど、退魔師じゃない人の能力って使っていたら悪用している可能性が高そうだし、詐欺じゃない証明が出来ない気がするんだけど」
それこそ、私が退魔師の存在を知らずに能力を活用して探偵事務所っぽい事をやることになり、その能力を封じられていたらめっちゃ痛かっただろう。が、その損害を証明するのは難しい。
まあ、私の能力を封じられる術師なんて現世にはそうそういないと思うけどね!
「封じられた人が、『退魔師になろうと思っていたのに!』って退魔協会に泣きつけばやり過ぎるなって注意勧告を受けるかも?
でもまあ、本気で退魔師になる為に退魔協会か退魔師に伝手のある人とやり取りをしていたって被害者が証拠を提出する必要があるだろうけど」
碧が言った。
「つまり、退魔師になろうとしていない人だったら特に悪事をしていない人でも能力を封じて回っても誰も文句を言わないんだ?」
まあ、悪事をしない魔力の使い方なんてあまり無い気はするけどね。
手品じゃあ大してお金にならないだろうし。
「そ。
まあ、正義の味方の如く悪人の能力を封じて回るなんていう、疲れる上に恨みを買う事をやりたがる人なんてあまりいないとは思うけど」
碧が頷いた。
そっかぁ。
私に対して変なスキルや能力を使おうとした人間は能力を封じるのに躊躇する必要も感じなかったが、母の会社の荏原とか言う女は直接関係ないから魅了的な能力を使っていてもしゃしゃり出て封じるべきか迷っていた。だが、別に封じても誰からも文句は言われないのか。
本人以外。
「なんかさぁ、微妙な黒魔術の才能って本人が『周囲に好かれたい』っていうある意味誰でも持つ願いが魅了として発現しちゃう事が多いみたいなんだよねぇ。
本人がそれを自覚してるかどうかは不明だけど、やっぱ封じておく方が良いかな?」
しょぼい情報漏洩程度じゃあ退魔協会は態々動かない気がする。
「それなりに綺麗で、普通に化粧してにっこり微笑み掛けて媚びるのが上手な女なら、封じても大して違いはないんじゃない?
近寄る機会があったら封じるってぐらいで良いと思うな」
碧が言った。
確かに。
安川探偵事務所が雇われて、その結果報告で黒と出たら会う機会がないか試して、会えなかったら諦める程度でいいかな?
一応カルマ的に、悪事がこれからも続く可能性が高いのを見過ごさない方が良い気はするけど、苦労しまくって封じなきゃいけない程の義務はないよね?




