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ミラクの果てしない旅 ~千年後の後始末~  作者: 橘 珠水
第2章 ロンバルディア大陸編
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64.国王陛下のロマンス

 あまりの展開の早さに半ば呆然としつつ、白蛇の杖を拾い上げると、私達は魔物も姿を消したギュレイのお屋敷から脱出した。

 未だに、自分の命が助かったことも、この手の中にある杖が神蛇族の長であることも信じられない。

 でも、とにかくこれが夢でなければ、モルガナ様の命を狙っていた魔族はいなくなったことになる。

 突然、指揮官である将軍が消えたエルドーラ軍が今後どうするかなんて、私には分からない。

 でも、ギュレイ将軍がいなくなったという事実を一刻も早くモルガナ様にお伝えして、臥せっているという彼女の心労だけでも軽くしてあげたい。

 オークルは、そんなことなんかせずにこのままエルドーラを出てサレドニアに行こう、と主張した。

 ビリジアンとかいう、サレドニアに干渉しているという魔族のことが気になっているらしい。きっと、サレドニアにいる可能性のあるフレイユ達が、その魔族に危害を加えられるんじゃないかと心配しているのね。

 でも、ちょっと立ち寄って報告するだけだから、とオークルを説得して、私はモルガナ様のお屋敷を訪ねた。

「あなた、まだエルドーラにいたんだね。てっきり、もうサレドニアに向けて発ったものだと思っていたけど」

 相変わらず、応対に出てきたサテラは私に冷たい視線を向けてくる。

「ええ。モルガナ様に申し上げたいことがあって、訪ねて来たの。それが終われば、すぐにでもこの国を出るわ」

「生憎、モルガナ様は体調を崩されて休まれている。誰が来ても取り次がないよう命じられているから、誰がどんな用件で訪ねてきたところで面会は無理だね」

 素っ気なく拒否され、あまりの扱いに腹が立って、お屋敷内へ強行突破してやろうかしら、なんて物騒なことを考えた時だった。

 不意に門の辺りが騒がしくなり、何だろう、と振り向くと、煌びやかな騎馬が猛然とこっちに向かって駆けてくる。

 げっ、……エドガー陛下?

 遠目にも、赤紫色の髪と、輝くばかりの美貌とオーラがはっきりと分かる。

 その後ろから、フェデル近衛騎士隊長を先頭に数騎が続いているけれど、エドガー陛下の馬が余りに早く、明らかに引き離されている。

 エドガー陛下はあっという間に私達がいる玄関扉の前まで来ると、ひらりと馬から飛び降り、大股で一直線にサテラに詰め寄った。

「モルガナに会いたい。取り次いでくれ」

「はっ、しかし……」

 サテラは明らかに狼狽え、エドガー陛下の強い眼光をまともに見ないよう視線を彷徨わせている。

「へえ、面白いな。おい、俺らに言ったみたいに言ってみろよ。誰が来ても取り次がないように言われているから、誰がどんな用件で訪ねてきても面会は無理だね、って」

 まるで、私の心を読んだかのように、オークルがそうサテラをからかってくれたから、私は自分の口でその台詞を言わずに済んだ。

 残念なのは、オークルの声は私以外の人間には猫の鳴き声にしか聞こえないので、サテラへの厭味が本人に通じないことだ。

「何をぐずぐずしている。早くしろ!」

 結局、国王の権威に屈したサテラは、一喝されて慌てて屋敷内へ姿を消した。

 あんなヘタレ具合で、将来宰相になんてなれるのかしら。

 小さく溜息を吐いた時、ようやく追いついてきたフェデル騎士隊長が私に気付いて眉間に皺を寄せた。

「君はここで何をしている?」

「モルガナ様にお話があって訪ねてまいりましたが、どうやら体調を崩されて臥せっておられるらしく、誰にも会うことはできないと断られたところでした」

「何だと。そんなに具合が悪いのか?」

 蒼ざめたエドガー陛下が、私に詰め寄ってくる。

「い、いえ、それは分かりません。私はただ、サテラにそう聞いただけですので」

「……モルガナ!」

 拳を握り締めたエドガー陛下は、突然、取次も待たずに玄関から屋敷内へ踏み込んだ。

「モルガナ! どこにいる? モルガナ!」

 大声でそう呼びながら、慌てて出てきた執事や女中などには目もくれず、屋敷内を進んでいく。

 当然、エドガー陛下の護衛であるフェデル騎士隊長以下もそれに続く。

 なので、私もちゃっかりその最後尾について屋敷内へ入った。

「モルガナ!」

 二階に上がり、三つめの扉を開いた時、ようやくエドガー陛下は目的の人を発見したようだった。

 室内にずんずん足を進めると、モルガナ様は慌ててベッドからサテラの助けをかりて身を起こす。

「いい、そのままでいろ」

 エドガー陛下は素早く駆け寄ると、半身を起こしたモルガナ様の背に枕を立ててもたれさせ、案じるように顔を覗きこんだ。

「……モルガナ。すまなかった」

 突然、エドガー陛下はそう言うと、モルガナ様の手を握り締めて頭を下げた。

 ポカンとしているのは私達周囲だけでなく、謝られた本人のモルガナ様も呆気に取られている。

 そんな周囲の反応などお構いなく、エドガー陛下は真剣に語り始めた。

「私が全て間違っていた。私が国王としてこれまでやってこられたのは、常に傍にいて支えてくれたそなたの存在があったからだ。なのに、ギュレイごときに焚き付けられて、傷ついたプライドを埋めるためなどというつまらぬ理由でサレドニア侵攻へ突き進み、そなたを邪険に扱ってしまった」

 国王らしからぬしおらしい謝罪に、私は何だかほろりとしてしまった。

 モルガナ様もそれは同じだったのか、穏やかな表情を浮かべて首を横に振り、握られた手とは逆の手をエドガー陛下の手に重ねた。

「陛下。そのような謝罪などなさってはいけません。わたくしは臣下として、ただ陛下をお支えしてきただけなのです。陛下がご自身の判断が間違っていたと思われるのならば、堂々と正しき道へ戻れば宜しいのですよ。わたくし達は、それに従うまででございます」

 すると、大きく溜息を吐いたエドガー陛下は、首を左右に振った。

「そうではない。……どうか、私を許してくれ。そして、これからは臣下としてではなく、より近い場所で私を支えてくれまいか」

「え?」

「え?」

「うぇっ?」

 モルガナ様、フェデル近衛騎士隊長、そして私がほぼ同時に声を上げた。

 そ、それって、そういう意味で受け取っていいのよね? そうよね?

 私が一緒についてきていることに今頃気付いたらしいフェデル騎士隊長が、振り向いて非難がましい視線を向けて来たけれど、そんなことには構ってはいられない。

 ドキドキする胸を押えながら事態を見守っていると、エドガー陛下が決定的な言葉を発した。

「どうか、私の妃になってほしい」

 キャーッ、イヤーッ、これってやっぱりプロポーズ!

 自分が言われたわけでもないのに、私は一人舞い上がってしまった。

 このお二人は、もし十五年前にサレドニアが攻め入って来なければ、結ばれていたはずだった。それが、今度は逆にエルドーラが侵攻するという危機を乗り越えて結ばれるなんて。これは何という運命なんでしょう!

 けれど、モルガナ様の表情から、いきなり慈愛に満ちた笑顔が剥がれ落ちた。

「陛下」

 無表情でエドガー陛下を見つめるモルガナ様の目は座っていて、口調もまるで刺すように冷たかった。

「そのようにお考えならば、まずなさることがあるのではないですか?」

「えっ……」

「すでに軍は王都を発っております。すぐに行軍を停止させ、緊張状態にあるサレドニアに使者を送り、事態を収拾なさる必要があるのではないでしょうか」

「……む、それはそうだが」

「それに、わたくしが王妃になった後、宰相位はどうなさるおつもりですか。見ての通り、後継者として教育しておりますサテラはまだ若輩者でございます。しかし、宰相位を空けておくには、未だ我が国は人材不足であり、わたくしが宰相位を退く訳にはまいらないと存じますが」

「う……」

 言葉に窮したエドガー陛下は、くるりとこちらを振り返った。

「ええい! 従者という立場に甘えておらんと、さっさと成長せい!」

「ええっ! は、はいぃ!」

 いきなり国王に怒鳴られて、サテラは恐縮して直立したまま頭を下げる。

「陛下。サテラに当たらないでいただけませんか」

 モルガナ様が非難がましく言葉を投げかけると、エドガー陛下は再びそちらを振り返った。

「そうだ。特例として、王妃に宰相位を兼務させよう」

「えっ……」

「ふむ、自分で言うのも何だが、いい案だ。この提案が会議で通ったら、そなたに王妃となってもらうぞ」

 そう言い残すと、返事も待たずにエドガー陛下は満足した表情で踵を返した。

「そ、そのような危険な前例を作っては、……陛下、お待ちください!」

 けれど、これ以上留まってモルガナ様に論破されるのが嫌だったのか、エドガー陛下は言い逃げしたまま颯爽とお屋敷を去っていった。

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