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ミラクの果てしない旅 ~千年後の後始末~  作者: 橘 珠水
第1章 ローザラント王国編
14/89

14.旅の理由

 朝食の席は、私達ククロの森潜入組とクロスとの情報交換会になった。

「私達を襲ったあの魔物、……いえ、魔族はガードンと言い、元は神獣族でした」

 フレイユの話を聞いて、やっぱりそうだった、と私とマーナは顔を見合わせた。

「尤も、私が産まれたのは神族大戦よりも後ですから、彼とは旅の途中で襲われるまで面識はありませんでしたけれどね」

「そうだんたんだ。……って、ガードンて何気に凄い年寄りだったんだね」

 神獣王の息子に従って地底に下りたってことは、千年以上前から生きているってことだ。

 顔が狼だから分からなかったけれど、千歳以上のお年寄りだったんだ。あんなに力一杯殴っちゃって悪かったな……。

「年寄り……。いえ、神族の寿命は人間と比較しても格段に長いですからね。彼は恐らく、まだ老人の域には達していないでしょう」

「えっ、そうなの? 因みに、フレイユは何歳?」

「人間式に、一年に一歳年をとるとすれば、今は四百二十六歳ですね」

「よ……」

 開いた口が塞がらなかった。

 フレイユの見た目は人間離れしているけれど、それでもほっそりとした体の線の細さといい、人間で言えばまだ十代の若者に見えるのに。

 呆気にとられている私の顔を見てクスッと笑ったフレイユは、軽く咳払いをしてクロスに視線を移した。

「話が脱線しましたね。……私は、サブリアナ大陸にある神獣族の隠れ里から、里長さとおさの命令でこのロンバルディア大陸へ渡ってきました。南西部の森に神獣族の秘宝が眠っている、早急にそれを手に入れるべく使いを出すべし、という地母神様のお告げを受けてのことです」

「地母神様。これは、また……」

 クロスは大仰に溜息を吐いたけれど、決してフレイユの話を信じていないわけではなく、事の大きさに驚いているみたいだった。

「私は幼馴染のオークルと二人で里を出て旅をしてきました。けれど、船でロンバルディア大陸に到着した直後、港でガードンに襲われ、オークルは私だけでも先へ進ませるために一人囮となって残りました。どうやらその後、ガードンの手にかかったようですが……」

 そう言うと、フレイユは辛そうに顔を顰め、テーブルの上で拳を握り締めた。

 共に長く危険な旅を続けてきた仲間を失って、どんなに悲しかっただろう。

 そう思うと私まで悲しくなってきて、鼻の奥がツンと痛んだ。

「その後もガードンの配下の魔物に襲われながら、何とかロザーナに辿り着いたのですが、そこで力尽きてしまいました。倒れたところをあなた方に助けていただいて、本当に感謝しています」

「いえ、とんでもない」

 頭を下げるフレイユに、クロスは慌てて首を横に振った。

「そんな経緯があったのですね。でも、最初あなたは何も話してはくれませんでした。我々は、その理由を、人間に神獣族の内情を語る訳にはいかないからだと思っていましたが、今こうやって詳しく説明してくれたのには何か訳があるのですか」

 クロスの疑問も尤もだ。クロスの隣で、マーナも頷いている。

 フレイユは、不意に表情を引き締めた。

「それは、事情が変わったからです」

「事情、とは?」

「ガードンは言いました。三世界協定はすでに無効だと」

「三世界協定?」

 その言葉を、確かククロの森でフレイユとガードンが戦っている時に聞いた記憶がある。

 その言葉を交えながら、何やら言い合っていたようだったけど、私にはその会話の内容はあまりよく分からなかった。

「神族大戦の後、勝者側の神族は天界へ、敗者側の神族は地底へ移り、そして地上は人間の世界となりました。その三世界に、別の世界の者が干渉してはならない、というのが、三世界協定です」

「知らなかった……」

「確か、神話にも書かれてはいませんでしたよね」

 フレイユの説明を聞いて、クロスもマーナも首を横に振った。

 勿論、二人が知らないことを私が知っている訳がない。自慢じゃないけど。

「人間が天界や地底に干渉することは無理ですから、人間が知る必要はないのです。その代わり、人間側の代表として、ただ唯一地上へ残ることを許された神族、地母神様が地上を統べていて、協定に基づいて他世界の干渉を監視しておられます。ですから、地上に隠れ住んでいる我々神獣族の里の者は、謂わば協定の違反者。地母神様からは人間と接触しないことを条件にお目こぼしを頂いているのです」

 だから、私達に正体がばれたと知って、あんなに警戒心を剥き出しにしていたんだ。もし、私達が騒いで神獣族が生きていたと知れ渡ったら、地母神様が地上にいる神獣族の存在をこれ以上容認することができなくなるから。

「ですが、ガードンの言葉を聞いて、私はハッと気付いたのです。もし、三世界協定が厳密に守られているのなら、元神族の眷属でしかなかった魔物はともかく、ガードンのような魔族まで地上に出てきて好き勝手出来るのはおかしい、と。この世界の事情は、何か変わりつつあるのではないでしょうか。ならば我々も、もう少しくらい人間に近づいても許されるのではないのかと思ったのです」

 フレイユはそう言うと、懐から仄かに温かい光を湛えている宝珠を取り出して掌に乗せた。

「私が旅の途中であなた方と出会ったことも、何かしらの運命のようなものを感じます。ですから、助けていただいたあなた方に、私の事情をお話しすることにしたのです」

 そう言ってもらえて、とても嬉しかった。だって、きっと私達のことを信用してくれていなければ、今フレイユが言った理由があったとしても、きっと秘密を話してはくれなかったと思う。

 神獣王妃が命を失ってもなお大切に守り続け、自分たちの一族へ託した宝珠は、無事に神獣族の里の若者の手に渡った。

 そして、フレイユの旅はこれが終わりじゃない。

「じゃあ、それを持って神獣族の里へ帰るんだ」

「ええ。また長い旅になりますから、支度が整うまではこちらにご厄介になりたいと思っていますが……」

「勿論、いいに決まってるよ。ね? クロス、マーナ」

 身を乗り出すと、二人とも首を大きく縦に振った。

「魔物騒動で、まだ市場も混乱していますから、落ち着いてゆっくりと準備を整えてください」

「そうですよ。本当はいつまでも、と言いたいところですけど、その大切なものを里へ持ち帰るという使命があるのでしたら、引き留めることはできませんけど」

「そう言っていただけると助かります」

 フレイユはそう言うと、僅かに赤い目を潤ませて微笑んだ。

「やったぁ! じゃあ、私、フレイユの旅の準備をお手伝いするね」

「ありがとうございます、ミラク。それにしても、あのガードンを倒してしまうとは、あなたはやはり、ただならないお力をお持ちのようだ、クロス殿」

 フレイユにそう言われて、クロスは苦笑しながら首を横に振った。

「今は便利な魔導具が開発されていますからね。応用すれば、色々なことができます。それに、今回はあの魔族がそこそこのダメージを受けていたからこそ、容易に異空間へ閉じ込めることができたのですよ」

「そこそこのダメージ?」

 フレイユは怪訝そうに眉を顰め、首を傾げる。

「あなたが負わせたのではないのですか?」

 フレイユの様子を見て、クロスも不審げに眉間に皺を寄せる。

 クロスがマーナに問うような視線を向けると、マーナは困ったように誤魔化し笑いを浮かべながら、視線を明後日の方向へ向ける。

 ……マーナってば、上手に誤魔化してくれればいいのに。本当にそういうところは不器用というか、ヘタクソなんだから。

 当然、クロスの疑いの目は私に向けられる。

「ミラク」

「……なに?」

「あの魔族に何をした?」

 何? その聞き方。まるで、私があのガードンに意地悪したみたいな言い方じゃない。ま、危害を加えたのは間違いないけどね。

 仕方なかったんだよぅ。やるかやられるかの戦いだったんだから。

「剣を折られちゃって……」

 本当は、胴を一閃したら、ガードンの鎧に当たって剣が折れちゃったんだけど。

「それで?」

「仕方なく、何か固いもので、と思って、フレイユの腕輪を借りて、……それで殴りました」

「ああっ!」

 突然、フレイユが素っ頓狂な声を上げた。

「それでなんでしょうか。神器でもあるこの神力増幅の腕輪が、いつの間にか変形しているんです。真円だったはずなのに、こんな形に……」

 懐からフレイユが差し出した腕輪は、一目見ただけで分かるほど変形していた。例えるなら、三日月分欠けたくらいのお月様だ。

 クロスが、静かに、けれど深く深く息を吸い込んだ。

 ……終わった。

 大人しく観念した私に、クロスの落とした雷は半端じゃなかった。

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