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【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?  作者: うどん
第三章:希望の星は、流れ墜ちていく

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075:全てを終わらせた男

《はははは! ハンタードール! 雷を殺せ!!》


 ハンタードールと呼ばれたメリウスが迫る。

 砂地に対応したカラーリングのメリウスで。

 十字のスリットから赤い単眼センサーが妖しく光る。

 手には両手装備のサブマシンガンと両肩に取り付けられたキャノン砲が伸びていて。

 執拗に俺を追いかけながら、攻撃を仕掛けてきた。

 高機動型というよりは、遠距離からの中距離砲撃型か。


 バラバラと弾丸をバラまきながら、ロックオンをしようとしてくる。

 小刻みに機体を動かしながら、そのロックオンを固定させないようにする。

 背部から伸びる二つの大きなスラスターから青い炎が上がって。

 狩人の名を持つ敵機体は、獲物である俺を落とそうとする。


 上昇しながら加速して、何とか敵もついて来ようとしている。

 しかし、機体自体の性能で既に差が出来ている。

 新しい第七世代型と量産機では、これほどの差が出来てしまうのか。

 雷切の機動性能は優れていて、耐久面も問題なかった。


 バラツキがあり集弾性能が低いサブマシンガン。

 偶に弾が掠れる事もあったが、ダメージにはなっていない。

 装甲を撫でるだけのそれは牽制目的で装備されているのか。

 となると、足を止めさせて肩部のキャノン砲で仕留めるのが狙いだろう。


 更に加速すれば、敵は動きを変えて散開した。

 数の有利性を生かすように周りに散らばって。

 俺の行動パターンを予測して先回りしようとする。


 そんな敵の行動は、未来視によって見えていた。

 仲間を殺して、残酷な現実を見せつけた敵。

 そんな敵を前にしても、思考はクリアな状態で。

 以前よりもハッキリと勝利への道筋が見えている気がした。


 前方を塞ぎ弾丸を放ってくる敵。

 機体を回転させながら弾を避けて、通り過ぎながら奴の背部にプロミネンスバスターの照準を合わせる。

 エネルギーの充填は最小限に留めて、ロックオンサイトを見つめる。

 逃げようと機体を動かした敵だが、既にロックオンは完了していた。

 俺は何の感情も抱くことなくトリガーを引いて、レーザーを放つ。


 青い光が一直線に飛んでいく。

 凄まじい速度で放たれた光の剣は、敵の体を両断した。

 断面が赤熱しながら溶けて、遅れて爆発音が響いた。

 それを見てから、迫りくる敵からロックオンされたことを告げられる。


 機体から激しいアラートが鳴り響く。

 そうして、四方八方から俺に対して弾幕を張る敵たち。

 その隙間を縫うように移動して、真上から二体の敵が砲撃してきた。


 赤熱する砲弾が放たれて、それを紙一重で避けようと――未来が見えた。


 爆ぜた弾から液体が飛び散っている未来。

 それを全身に受けた俺の機体はずくずくに溶かされていた。

 実体弾では傷一つ付かないから、化学兵器によって有効打を与える狙いか。


 俺は一瞬の未来を見終えて、すぐにスラスターを噴かせた。

 左方向へと急転換して弾から距離を取る。

 空中で爆発したそれから、予知していた通りに液体が飛び散った。

 酸性雨のように地上へと降り注ぐそれからは煙が出ていて、強力な酸か何かだと理解した。

 それを一瞥してから、俺は敵から距離を取った。


 敵の群れがブーストして距離を詰める。

 一気にゼロ距離に迫ったそれを見て――此方もブーストする。


 腕を掴もうとした敵を躱す。

 そうして、奴らの機体の合間を縫うように移動した。

 変則的な機動によって体全体に負荷が掛かる。

 パイロットスーツも着ていない状態であれば、ダイレクトに負荷が掛かる。

 凄まじい圧力であり、体から嫌な音が響いた。


 口の中に鉄錆のような味が広がった。

 しかし、俺は眉一つ動かすことなくレバーを操る。

 ジグザグに移動すれば奴らは追随してきた。

 完璧には追いつけないグングンと距離を離される敵から焦りを感じる。

 ガタガタと機体が揺れて、視界は一気に開けていく。

 空の青味は深みを増していって、夜空のようになっていった。


 圧倒的なまでの機動力で、敵を翻弄した。

 一瞬で殺せる相手だろう。だが、それでは駄目だ。

 上空へと到達して深い青色をした空を見つめる。

 そうして、一気に地面へと降下していった。

 追いつけなかった敵たちは緊急回避行動を取ってばらけた。

 それを見ることなく俺はセンサーを起動して悪趣味な機体に目を向ける。

 

 チラリと遠くを見れば、金色のカラーリングが施されたメリウスが一機。

 鬼のように二本のブレードアンテナを付けた悪趣味なそれが野次を飛ばす。

 それを冷めた目で見てから、俺はレバーを操作する。


 久方ぶりのメリウスの操縦。

 しかし、全くの違和感が無い。

 それどころか以前よりもさえ渡っているような気すら感じた。


 背後から迫って来るそれの攻撃を躱す。

 そうして、頭上から襲い掛かって来た敵にスラスターを向けた。

 一気に噴かしてやれば、奴はセンサーを庇うように手をかざした。

 俺は一気に下へと降下しながら、奴の頭部を狙うようにプロミネンスバスターを放つ。

 威力を落としていながらも、凄まじい熱量を放っているだろうそれ。

 一直線に飛んでいったレーザーが奴の頭部から胸部までを溶断した。


 ずくずくに溶けて、メインカメラがやられた敵は機能を停止して落ちていく。

 それを見つめながら、左右から挟み撃ちをしようとする敵を確認した。

 一気に降下したことによってアラートが鳴り響く。

 地面へと機体が降下していって――方向を転換した。


 レバーとペダルを操りながら、地面すれすれを飛行する。

 追いかけてきたハンタードールは加速した機体を停止させる。

 俺はそれを見つめながら、キャノン砲目掛けて弾を放った。

 避けるそぶりを見せたものの、簡単にレーザー兵器が避けられる筈も無い。

 肩をごっそりと削られて、姿勢制御が出来なくなったそれは不格好な飛行を始めた。


 そうして、姿勢制御システムを復旧させるのが間に合わずに地面に激突した。

 ガラクタが辺り一面に転がって、給油所にぶつかる。

 そうして、大量のガソリンと共に大爆発を起こしていた。

 街から離れた場所にあるがスタンドだから、街には被害は無い。


 まぁ、今となってはどうでもいいことだ。

 

 現れた敵は、どいつもこいつも弱い。

 まるで、そう設定されているような動きで。

 これならば、以前の無人機たちの方がまだ手応えがあった。


 残された敵の数は三機とガラクタが一機だけ。

 連携を取りながら、弾幕を展開し始めた。

 集弾性能が低いサブマシンガンが当たる筈もない。

 牽制目的でしか使えない粗悪品を見つめながら、俺は一気に加速した。


 そうして、弾丸を放っていた敵に一気に突っ込む。

 タックルでもするように機体をぶつけて、ぐんぐんと加速していく。


 加速して、加速して、加速して――加速を更に続けた。

 

 機体周りには風のバリアが張られて、空が一気に近づいていく。

 機体から嫌な音が聞こえるが、俺の機体ではない。

 敵の機体から悲鳴が上がっていて、全身の裂け目からオイルを垂れ流していた。

 

 ハンタードールは急激な上昇負荷に耐えられるだけの強度を持たないようだ。

 奴の機体からバチバチと火花を散って、爆発を連鎖させていく。

 激しいスパーク音を奏でながら、四肢を爆散させた敵機体。

 残骸となったそれを乱暴に打ち払えば、ゴミとなったそれが空に舞った。


 俺は眼下で俺を見上げてる敵を見ていた。

 レバーを握りながら、俺は息を吐く。

 そうして、眼を細めながら奴らに聞こえるように言葉を発した。


「……時間の無駄だ。纏めて来い」

《ははは! やっぱりアンタは最高だ! 俺も混ぜてくれよッ!!》


 残りの二機が突っ込んでくる。

 遅れてクソ野郎が乗った金ピカが突っ込んできた。

 俺はそれを見つめながら、機体を操縦して無人機を超える。

 サブマシンガンの弾丸を弾きながら通過して、その手のアサルトライフルを向けようとした金ぴかに蹴りを放った。


《がはっ!?》


 オープンチャンネルを繋いだままの男の声がよく聞こえる。

 クソ野郎は意識を失いそうになりながらも、機体を持ち直した。

 姿勢を整えながら、変則的な機動に切り替えてきた。

 高機動でも売りにしているのだろうが……間抜けにもほどがある。


 俺はスラスターを噴かして奴を追った。

 機動力でかく乱しようとした間抜けは、ピタリと背後についた俺に驚きの声を上げていた。

 舌を鳴らしながら、乱暴な操縦で振り切ろうとする。


 右へ左へと機体を揺らして、その全てを読んだ上で飛行した。

 奴との距離はほとんどない。

 操縦を間違えれば激突してしまうような距離だ。

 しかし、この程度の相手にそんな失敗はしない。

 

 クソ野郎を眺めながら、俺はロックオンをする。

 本来ならばこんな奴相手にロックオンなどする必要は無い。

 しかし、ロックオンを作動させれば、敵のセンサーが感知して警報を鳴らす。

 俺は薄く笑みを浮かべながら、弾を放つこともせずに奴を追った。


 徐々に余裕が無くなっていくクソ野郎。

 呼吸は荒くなり、操縦も益々荒くなっていく。

 奴の心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。

 迫って来る死に対して、形容しがたい不快感を感じているのだろう。


 心の乱れは操縦にも表れる。

 誰が見ても不格好だと思える飛行をする男が、最強になれると言った――おこがましい。

 

 

 絶望の表情を浮かべる男を想像して俺は笑う。

 

 こんなものじゃない。

 

 オリアナが最期に味あわされた絶望は、こんなものではないのだ。


 もっと、もっと苦しめ。お前は絶対に――楽には殺さない。


 

《はぁ! はぁ! はぁ! な、何だよ! そんなのずるいだろ!! お前の機体の方が、速いなんてッ!! 聞いてねぇよ!!》


 一気に降下して、地面すれすれを飛ぼうとする間抜け。

 俺の真似をして、同じ芸当を披露しようとでも言うのか。

 グングンと迫る地上を見ながら、俺はゆっくりと機体を微調整した。


 そのスピードで突っ込めばどうなるか。

 奴はすぐそこに迫った地上を見て、慌ててレバーを引き上げたのだろう。

 コックピッド内で祈るような声が聞こえる。

 しかし、機体は完全には持ち上がっていない。


 方向転換は間に合っただろう。

 だけど、機体全部を持ち上げるだけの力は無い。

 

 奴の機体の足が地面に触れる。

 その瞬間に奴の機体は姿勢の制御を失う。


 ガリガリと地面を削りながら、間抜けは悲鳴を上げた。

 何とか持ち直そうとしているものの、加速と減速の判断すらも出来ていない。

 奴はそのまま入国用のゲートに突っ込んでいった。

 瓦礫が飛び散って、奴の機体がスパークする。

 俺はそれを冷めた目で見ながら、ゆっくりと銃口を向けた。


《ま、待てよ! そのまま撃てば、後ろにいる人間たちにも被害がでるぞ! 英雄様は、無害な市民を殺すのか!?》

「……」


 奴の言っていることは、住民を盾にするぞと言う事だ。

 別に俺にとってはどうでもいい。

 オリアナの願いを果たせるのなら何だって良いのだ。

 しかし、間抜けの提案を受け入れるように、俺はプロミネンスバスターを解除した。

 ごとりと地面に置きながら、クソ野郎を眺める。

 すると、奴は形勢が逆転したと思ったのか高笑いを上げた。


《はははは! やっぱりだ! お前は弱者を切り捨てられない! だから、この俺に殺されるんだよォ!!》


 両手のアサルトライフルを構えながら、奴が弾を乱射し出した

 功を焦って碌な狙いを付けずに弾をバラまいている。

 数発の弾丸がちゅんちゅんと装甲を撫でていく。

 それを冷めた目で見ながら、俺はペダルを強く踏んだ。

 スラスターを噴かせて一気に接近する。


 間抜けは驚いたような声を出していた。

 奴の懐へと一気に入って、腕を掴んで見せた。

 そうして、レバーとペダルを操作してスラスターの向きを調整し、奴の機体を持ち上げる。

 鋼鉄の塊を一気に持ち上げて、そのまま地面へと叩きつけた。


 派手な音を立てて、奴の機体が破壊される。

 機体の残骸が飛び散って、コックピッドの中から悲鳴が上がった。

 機体の損壊状況から言えば、まだ中破程度だろう。

 しかし、これからもっと苦しんでもらわないといけない。


 俺はゆっくりと掴んだ腕に力を込めた。

 ぎちぎちと音が鳴り、クズ野郎はやめろと言ってくる。

 俺はそれを無視して――腕を引きちぎった。


 ぼとりと腕の残骸を捨てて、もう一本にも手を伸ばす。

 オープン回線越しに、奴がレバーを動かす音が聞こえた。

 しかし、背中から叩きつけたことによってスラスターは完全に破壊されている。

 動けるはずも無いのだ。


 ギチギチと音が鳴り、奴の腕の関節が割れた。

 ケーブルが露出して、オイルが飛び散る。

 激しくスパークしながら、奴の自慢の機体の腕を乱暴に抜き取った。

 ぶちりと腕を引き抜いて、それを一瞥してから放り投げる。

 悪趣味な機体のセンサーは激しく点滅していて、パイロットの焦りを表しているようだった。


 奴は過呼吸を起こしながら、脱出しようとした。

 コックピッドがガチャリと開口して、脱出機構が作動する。

 しかし、空中での乱戦状態でも無いのだ。敵の目の前でそんなものを使えばどうなるか?


 俺は飛んでいこうとしたそれを両手で掴んだ。

 がっしりと掴めば、奴が怯え切った悲鳴を上げる。

 がちがちと歯を鳴らしながら、俺に懇願していた。

 助けてくれ、もう二度と舐めた事は言わない。

 許してくれたら敵の事を話すと。


 

 こいつは、何を言っているんだ?


 

「……それで?」

《ぇ?》

「もう、遺言は終わりか?」

《ぁ、ぁぁ、ぃ、ぁ、ああぁぁ!》



 間抜けの遺言を聞き終えて、ゆっくりと両腕に力を込めていく。

 奴は泣きながら助けを求めていた。

 しかし、その声を聞いてやって来る人間は誰一人としていない。

 残ったハンタードールでさえ、何もせずに空中に浮遊して見ているだけだった。


 こいつは誰からも見放された哀れな人間だ。


 哀れな命を両手で包んで力を込めていく。

 奴は恐怖と痛みで泣き叫んでいる。

 必死になって助けを呼んでいるが、お前を救いに来る人間はいない。


《誰か! 誰か! 誰かぁぁぁぁああぁぁぁあ!!!》


 不快な声で泣く虫けら。

 それを聞きながら、ゆっくりと力を込めていった。

 

 俺はギチギチと音を立てて小さくなっていくそれを眺めていた。

 悲鳴は段々と小さくなっていく。

 べこべこと音を立てて、その形を丸めていった。


 バキバキという音は、果たしてコックピッドが破壊された音だったのか。

 男の声は段々と力を失くしていく。

 目を細めながら、俺は潰れていくゴミを見つめていた。

 

《いた……たぃ……ぃ……ぁ、ぇ……》

 

 痛い痛いと叫びながら、男は言葉にも満たない声で泣いている。

 後悔しているのか、神に懺悔でもしているのか?


 何をしようとも関係ない。

 この男にチャンス何て無い。

 次の機会は訪れず。此処で惨めに死んでいくだけだ。

 

 豆粒のように小さくなっていくそれ。

 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりと時間を掛けて潰して。

 


 やがてクソ野郎の声は掠れていって――完全に沈黙した。


 

 ノイズだけが走り、声は一切聞こえなくなった。

 俺は奴との回線を切断した。

 

 アルミ缶でも潰すように、クソ野郎を殺してやった。

 大見得を切って戦いを挑んできたのに、とんだ期待外れだ。

 こんな何の価値も無い男が、オリアナを殺した。


 許されない事で、許す気も毛頭なかった。

 苦しめて殺せば、幾分かは気分が晴れると思っていた。

 しかし、戦いが終わって俺にもたらされたのは――虚無感だった。


 仇を討ち、残ったのは彼女の願いだけだ。

 俺はゴミを放り投げて捨てる。

 ゴトリと音がして命が入っていた物が地面に転がった。

 そうして、頭上で俺を見ているハンタードールに通信を繋いだ。


「……いるんだろ」

《……》

「あの時の男だろ……どういうつもりだ」


 俺は淡々と問いを投げる。

 すると、ハンタードールの内の一機から声が聞こえた。

 大きくため息を吐きながらボリボリと頭を掻いているのか。

 渋みのある男の声で、操縦者は話をしてきた。

 

《……ほぉ。こりゃ驚いた。まだ理性が残っているのか》


 確かシックスと呼ばれていた男だ。

 驚いたフリをする男を見つめながら、何故、手出しをしなかったのかと問いを投げる。


《別に、俺はやりたくないことはしない主義なんでね。あの野郎を助ける事も、この国を苗木にするのも。俺は嫌だったってだけだ。それじゃ不服かい?》

「……どうでもいい。邪魔をしないのなら消えろ」

《あぁ言われなくても消えるさ……すまねぇな》


 ハンタードールに乗った敵は、ゆっくりと機体を上昇させた。

 そうして、よく分からない謝罪を口にしてから去っていった。

 その後ろ姿を一瞥してから、俺はゆっくりとプロミネンスバスターに近づく。

 そうして、それを再び装着してから上へ上昇した。


 モルノバを空中から一望する。

 この国に着て食べたもの、知り合った人間たちの顔。

 目を閉じれば、次々と蘇ってくる。

 思い出がフラッシュバックするが、もう過去に戻る事は出来ない。


 俺はゆっくりとプロミネンスバスターの照準を向けた。

 エネルギーを充填させながら、AIに尋ねる。


「……あの国で動いている人間はいるか」

《サーチを開始――いません。全ての人間が完全に停止しています》

「……そうか……もう誰もいないんだな」


 俺はぼそりと言葉を発した。

 そうして、AIから規定値を超えるエネルギーの充填を確認したと告げられた。


「いい。このまま続けろ」

《ですが。これ以上はモルノバに被害が》

「――終わらせるんだ。問題ない」

《……了解しました》


 AIはそれ以上は何も言わなかった。

 俺はぐんぐんとエネルギーを充填させていく。

 コックピッド内は熱気に包まれて。

 シリンダーが激しく回転しながら、周りの景色をその熱によって歪めていく。

 パーセンテージは限界を超えていて、それでも上昇していった。

 

 俺は笑みを浮かべた。センサーを起動させれば、テラスで眠る彼女が見えた。


 微笑むような顔で彼女は眠っている。

 安らかな顔であり、彼女が俺にお礼を言っているような気がした。

 きっとそれは俺の思い込みだ。しかし、そう思ってしまったら胸から感情がこみ上げてくる。

 

 

 ツゥっと頬を何かが通っていく。

 

 

 俺はそれに気づかないふりをしながら、ゆっくりとトリガーを引いた。




 

「――さようなら。安からかに眠ってくれ」


 



 轟音を立てて放たれた極大のレーザー。

 それが宮殿にかち当たり、周囲一帯が燃え盛る。

 建物たちが一瞬で溶けて蒸発し、立ち尽くしていた人形たちも消滅した。

 美しかった街の景色は、たった一発のレーザーで焼き尽くされて。

 灰塵と帰したモルノバは静かで、まるで最初からそこには何も無かったかのようだった。

 それを見つめる俺は、ただただ笑みを浮かべていた。


 灰となった国。

 ハラハラと空中を灰が舞う。

 雪のように命だったものが振り続けるモルノバがあった上空で、俺はそっと手を出した。

 機体の手の平に灰が落ちて消えていく……ゆっくりと俺は手を戻した。


 誰もいなくなったクレーターを見つめる。

 国一つを滅ぼして、オリアナの最期の願いを果たした。

 優しかった住人も、レジスタンスの仲間も――オリアナも、もう此処にはいない。

 

 

 

 ……もう、此処にいる必要は無い。


 

 

 全てが消えてなくなった場所を一瞥する。

 そうして、機体を反転させて俺は去っていく。

 その時に、かちゃりと音がして胸に視線を向ければ、彼女から貰った指輪が光っていた。

 俺はただただ笑いながら――唇を強く噛みしめた。

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