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Wing Fighter Ν  作者: 屋久堂義尊
episode17 守護と破壊
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第二幕

 十月の半ばになったと言うのにこの暑さはどういう訳か? 戸ヶ崎は冷房を全開にしていた部屋から立ち去った。ブリーフィングルームへ向かう為だった。ノートパソコンを抱えたまま、冷たい廊下を歩んで行く。

 金澤の預言が有ったらしい。それを聞いて、メサイアは招集を掛けられた。一応はまだ夜勤帯の人間の警戒時間だった。

「戸ヶ崎隊員」

 ブリーフィングルーム前で戸ヶ崎は五藤と会った。

「五藤隊員、おはようございます」

 戸ヶ崎は挨拶を交わした。五藤も同じく返した。

「金澤隊員が預言をしたって本当ですか?」

「嘘ならば私達が集められる訳無いでしょ」

「そうですね。BAZURAですか?」

「恐らく……」

 指紋と網膜認証を澄ませて、五藤がブリーフィングルームの扉を開ける。中では金澤と宮本、本郷が待っていた。

「おはようございます。預言が有ったとは本当ですか?」

 戸ヶ崎が問う。本郷がゆっくり頷いた。

「これでまたこちらから先手を打てるわ。チャンスなのよ、戸ヶ崎隊員」

「ΝとΞについては?」

 五藤が尋ねる。金澤は頭を縦に振った。現れるという事であろう。

「これも作戦に含めたい」

「副隊長、ΞはΝに任せましょう」

 五藤が切り出した。

「五藤隊員、そうする方面で固まっている」

 本郷が返した。それを聞き、戸ヶ崎は複雑な思いをした。彼の心の中では、勝沼と長峰を戦わせたく無かったからだ。だがその事を伝えれば、何故彼がそう思うかの根拠を問われる。ブレインブレイカーを使ったからって全てのメサイアに、勝沼の事が伝わっている訳では無い。

 戸ヶ崎は、五藤の意見に賛成出来なかった。五藤は戸ヶ崎に、長峰の事は勝沼に任せるように言った。それが出来ないのだ。ただ、勝沼自身がそれを望んでいる心情もΝの行動を見れば分からなくもない。しかし、それでも戸ヶ崎には耐え難い物であった。

「ΝもΞも真っ向からぶつかって勝てる相手とは思えない。それにΞに積極的な破壊活動は見れない。あくまでも、Ξはプレデターを補助する事をメインにしている」

「しかし、全く破壊活動をしない訳でも無いわ、副隊長」

 本郷が述べた。

「ΞはΝを挑発する為に、街を破壊する事も有る。奴ともいつかは対峙せねばならない時が来るわ」

 そうだ、確かにそうだ。戸ヶ崎は頷いた。

「プレデターを速攻で片付けて、Ξも潰せるだけの作戦を考えないといけませんね」

 藤木がキーボードを叩く。それに合わせて、ブリーフィングルームのメインモニターBAZURAのデータが映し出された。

「奴の口から吐く光線は、プロメテウスカノン一発分に相当する威力が有ります。正面からの攻撃は難しいでしょう」

「藤木、情報助かる。これで作戦を立てる」

 宮本が腕を組む。

「奴の出現ポイントは分かるか?」

 宮本は金澤に聞いた。

「はい、能登の方です」

「良し、では部隊を二手に分ける。クロウ1はBAZURAの攻撃。背後からプロメテウスカノンを撃ち込め。クロウ2、クロウ3は二体の巨人を牽制。場合によっては、戦闘を行って貰う」

「了解」

 戸ヶ崎はそう述べた。流石のメサイアでも、もうΝを敵視する事はしないであろう。そんな楽観的な考えを戸ヶ崎は持っていた。

「優先すべきはBAZURAの殲滅である。奴さえ消せれば、後は構わない」

 宮本の言葉には鋭さが有った。次こそBAZURAを逃がすなという意味であろう。

「二体の巨人の事は預言出来ないのか?」

 五藤が聞く。

「今回彼等とバズラとの間には距離が有るように感じられます」

「距離?」

 思わず戸ヶ崎が問う。

「ええ、物理的な物だと思います」

「ならば尚の事助かりますね」

 木元がメインモニターを見ながらほくそ笑んだ。

「奴等の邪魔が入らない内に、BAZURAを仕留められればこちらの勝ちです」

「そうね、これはチャンスかもしれないわ」

 本郷が呟く。

「BAURA殲滅に重きを置く。少し作戦を変えるわ。クロウ1、クロウ2でBAZURAの攻略を。クロウ3はΝやΞの足留めを頼む事になるわね」

 本郷が提案した。戸ヶ崎にとって、それは幸運だった。余計な邪魔が入らずに、ΝとΞの戦いをコントロール出来る可能性が有るからだ。それもかなりの高い確率で。そして同じ事を、五藤も感じているのだった。本郷の粋な計らいという奴かもしれないと二人は考えた。

 だが、無論彼等の頭にはBAZURA殲滅の文字は消えなかった。

「では、その作戦で行きましょう」

 宮本が頷いた。

「メサイア、出撃!」

「了解」

 宮本の喝で、メサイアの隊員達は、イグニヴォマを手にするのだった。


 能登半島の根元、石川県羽咋市飯山に土煙が上がった。人々が驚きの声を上げる中、巨大な四つの眼が爛々と輝いていた。BAZURAの双頭である。BAZURAは現われるなり、オレンジ色の光線を口から吐いた。街が一気に焼かれ、煙がもうもうと立ち昇った。

 勝沼がその現場に辿り着いた時、BAZURAは全身を現し、北の方角へ進んでいた。

「やるしか無いか……」

 逃げ惑う群衆を避けて、古民家の裏へ入った勝沼は、ペンダントを握り締めた。

「変身」

 勝沼の身体がエメラルドグリーンの光に輝き、光の粒子へと変換された。

「竜ちゃん、こっちだよ」

 彼の身体が完全にΝの身体を構築する前に、その声が聞こえた。長峰の物だった。

 勝沼を分解した粒子は、東の方へと流れて行った。


「こちら戸ヶ崎、目標捕捉」

 クロウ3のメインパイロットを任された戸ヶ崎はBAZURAと会敵した。

「巨人の姿は見えません」

 五藤が続けた。

「こちら宮本だ。お前達はΝとΞに備えて上空で待機、指示を待て」

「了解」

 クロウ3は急上昇して、雲海の中へ入った。その時戸ヶ崎は、雲の彼方へエメラルドグリーンの光が走るのを見た。

「戸ヶ崎隊員、今の……」

 どうやら五藤も確認したらしい。戸ヶ崎は操縦桿を握ると、機体を東へ向けた。

(勝沼さん、何処へ行くのですか?)

 戸ヶ崎の頭にその疑問が湧いた。



 BAZURAは、民家を踏み潰し、咆哮を上げた。しかし以外にも、身体の傷は癒えていないようだった。切断された尻尾もそのままである。

「目標を西に誘導、プロメテウスカノンで殲滅する」

 宮本の指示が出た。

「了解、ミサイル発射!」

 木元と金澤を乗せたクロウ1は、BAZURAの足元に振動ミサイルで攻撃を加えた。しかしBAZURAは怯む事無く、前進を続けていた。

「クロウ2、目標前方へ周り込みます」

 藤木が宣言し、一気に加速、BAZURAの眼前に躍り出た。BAZURAの右の首が、オレンジ色の熱線を吐いた。それは、クロウ2の機体下部ぎりぎりを掠めた。

「やってくれるじゃないの」

 藤木は、照準を、BAZURAの頭部に合わせた。それを確認して、宮本が振動ミサイルを放った。それはBAZURAの右の顔面を直撃して、大爆発を起こした。BAZURAは悲鳴を上げると、右の首を両腕で抱え込むようにして悶えた。

「今度はもう一つの方を狙え」

 宮本が命令する。藤木は機体を予行滑りにして、左の首を狙った。再度ミサイルが放たれ、オレンジ色の閃光がBAZURAの左の頭を覆った。

「私も負けてらんないんだから!」

 木元の声がして、再度炎が上がった。

「おかしいですね」

 波に乗ったメサイアの中で、藤木だけが冷静だった。

「何が変なんだ?」

「ええ、BAZURAのエネルギー質量が弱まっています」

「我々の攻撃が効いているからではないのか?」

「しかし、この減り方は異常です。僕等の攻撃の前に、既に力は失われている感じがします」

 BAZURAは再度、両方の口から光線を放った。だが、それが途切れた。BAZURAの口の中で、光線が弱々しくなり、そして消えたのだ。

「何を意味するんだ?」

「分かりません」

 藤木と宮本の会話がメサイアのメンバーの耳に届いた。

「取り敢えず殲滅が先よ。木元隊員、貴方のプロメテウスカノンで仕留めなさい」

 δポイントにいる本郷から通信が入った。

「了解です。誘導します」

 木元は機体をBAZURAの背後に回した。振動ミサイルがミサイルポッドから放たれ、BAZURAを猛爆した。そして、空になったポッドをパージすると、今度はBAZURAの左の頭にメーザーバルカンを叩き込むのだった。

「ねえ、こういう時に預言って無いの?」

 木元が後部座席に座っている金澤に問うた。

「預言はそんな便利な物では有りません」

 金澤はそう言うと、意識を集中させるのだった。

 BAZURAは、残された一本の尻尾を振り回し、民家を横薙ぎに払った。瓦が舞い、家は倒されて、土煙が上がった。


 Νが巨人の姿になったのは雲海を越えた先での事だった。その先に長峰深雪――Ξの姿が有った。

「深雪ちゃん……」

 Νはゆっくりと翅を開いて、風に乗った。Ξは何もしないかのように、両手を広げてΝの動きを見た。Νはそれを確認すると段々とΞに接近して行った。

「甘いわね」

 長峰の声が聞こえたと同時に、Ξの身体からエネルギーが溢れ出た。それは、触れる事無くΝを弾き飛ばした。何とか体勢を立て直したΝが見た物は、エネルギーを放ち続けるΞの姿だった。

「深雪ちゃん、その力は……?」

 勝沼の問いを跳ね返すように、Ξは腕から紫色の光弾を放った。その威力は、今までのそれを遥かに凌駕する物だった。Νは咄嗟にシールドを展開し、それを防いだ。だがその反動で、大きく仰け反るのだった。

「これをどうやって手に入れたか教えて欲しい?」

 長峰の無邪気な声が、勝沼の頭に響いた。勝沼はそれを聞き、長峰の身体から溢れるオーラを睨んだ。

「当ててごらん、竜ちゃん」

 Ξは紫色の光弾を連続発射した。Νは翅を羽ばたかせると、トンボのような複雑な動きをして光弾を避けた。

「遅いよ」

 パッと眼の前にΞの姿が現れて、Νは急停止した。ホバリングをするΝにΞは急接近し、零距離から光弾を腹部へ放った。それはΝの身体を直撃すると、爆発した。炎の渦が、Νを焼く。

「この力、まさか……?」

 Νは身体を地面に垂直にすると呟いた。腹部に大きな傷が出来ていた。

「あの怪物のエネルギーを変換したんだな?」

 勝沼は悟った。そうだ、この力はΞ――長峰単体の物では無い。あのBAZURAと呼ばれていた怪物の生命力を吸収したのだ。

「ご明察」

 Ξは一気に上昇すると、Νへ向けて飛び膝蹴りを食らわせた。直撃を受けたΝは急降下する。雲海を抜けた時、漸くΝは身体を起こした。だがその隙をΞは見逃さなかった。Ξが放った光弾が、Νの顔面に爆発を起こした。Νは呻くと、更に降下して行った。

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